第二十八話 裏切りと勧誘
兵士に語り掛けること一時間。
ようやくぽつりぽつりと自身の置かれている状況を話し始めた。
「俺は騎士爵の家に生まれた三男だ。長男のように知略に優れているわけでもないし、次男ほど剣の腕もよくはない。だからいつも落ちこぼれと言われてきた。そんな俺を雇ってくれたのはここの騎士団だ。よく城勤めができたなってその時は思った。だが後から聞いた話では父が多額の寄付金を騎士団に払ったらしい。……ふっ、笑えるよな。俺は結局賄賂があったから騎士になれただけの男だ。結局金が全てなんだよこの世の中」
「腐りきった帝国の仕組みだな。腕を見込まれて雇われたんじゃなくただ寄付金があったからか。腹が立ったんじゃないか?この国に、金さえ積めば誰だって騎士になれてしまう汚れた世界に」
「まあ、な。だからお前達が羨ましかった。自分の意見を突き通してここまできたんだからな。俺に力さえあれば……」
「まだ十分力になれるぞ。僕をここから出してくれ。必ずこの国を変えて見せる。アンタだって少しは誰かの役に立ちたい、そう思ってたんじゃないのか?」
「ああ……本当にこの国を変えられるのか?この国は一枚岩じゃない。皇帝を降ろしたからってすぐに国の体制を変えられやしないぞ」
その辺りは十分理解しているつもりだ。
一枚岩の国なんて多分どこにも存在しないだろうから。
「この国を変えたいと思っている者は俺達だけじゃない。内部にもいる、はずだ」
「……それが誰か知ってるぞ。第一皇女様だろ?あのお方は昔から皇帝陛下に楯突いているからな」
皇女?
皇族の血筋に僕らと同じ考えを持つ者がいるってのか?
初耳だな。
昔僕が出会った女の子はお嬢様のような恰好だったが、それが皇女様だってのか?
いや、そんな訳がないか。
皇女様があんな路地裏に顔を出すなんて考えられないし。
「第一皇女様は僕らと同じ、今の帝国に異を唱えてるってわけか?」
「ああ。有名な話だ。アリス様は独自の私設軍隊までもっている。流石に皇帝陛下に牙を剥くような真似はしていないが、事あるごとに内政や人事に対して口出ししてるらしい」
それは僥倖だな。
少なくとも味方は僕ら解放軍だけじゃない。
その皇女様とやらも仲間に引き入れられれば盤石なんだが。
「そのアリス様は今どこにいるか分かるか?」
「今城にはいないな。私設軍隊を率いてどこかに向かったとは聞いているが」
接触できればと思ったが、そう簡単にはいかないようだ。
「それよりここを開けてくれよ。アンタもこの国には愛想が尽きただろ?僕らが変えてやる。だから頼む」
「……国を裏切るのは正直気が乗らないが……まあ確かにお前の言う通りこの国には未来がないだろうなとは思う」
兵士がおもむろに格子へと近づき鍵を開けた。
「助かった。ありがとう」
「……俺を一発殴れ」
「え?」
兵士の突然な物言いに僕は一瞬固まってしまった。
「俺が開けたと分かればどんな処分を受けるか分からないだろ。だからお前が牢屋に近づいた俺から鍵を奪って逃げたっていうシナリオでいく」
「ああ、そういうことか」
巡回や交代の兵士がやってこれば彼が裏切ったとすぐにバレる。
それを避ける為だ。
「じゃあちょっと我慢してくれよッ!」
一発、顔面を殴りつけると彼は大げさに後ろへ吹っ飛び壁にぶち当たった。
「うぐ……」
「わ、悪い。そんなに強く殴ったつもりはないけど……」
「いや……これでいい。俺がわざと後ろに飛んだんだ。顔には打撲の跡、背中には激しく壁に打ち付けられた跡がついただろ?これなら牢屋から飛び出したお前に殴られて吹っ飛んだように見える」
この兵士、なかなか頭が回るようだ。
「ありがとう、恩に着る」
「感謝はいい。その代わり必ず成し遂げろ」
「ああ……!そう言えばアンタの名前を聞いてなかった。教えてくれないか?」
彼の手引きがあったからこそ窮地を脱する事ができる。
せめて名前くらいは知っておきたい。
「ソリス・ルートガードだ」
「ん?ルートガード?もしかして兄貴はオルファンって名前か?」
「ああそうだが……なぜ知っている?」
まさかこんな所で知っている家名を聞くとはな。
「前に一度僕ら解放軍の拠点であるガブランに来たことがある。確かミール・トライアド子爵の護衛だったかな?」
使者として投降するように伝言を持ってきた貴族だ。
その護衛が確かルートガードの家名だったはず。
「そうか……世間は狭いな」
「そうだな。っとそろそろ立ち去るよ。あ、そうだ。その前に仲間がどこにいるか分かるか?血だらけだったからこの地下牢ではないと思う」
「そいつなら医務室に運ばれていったはずだ。同僚が捕まえた一人を医務室に運んだが長くはもたない、なんて話していたからな」
「そうか……ありがとうソリス」
「頼んだぞ……解放軍のリーダー」
「ああ!60秒の支配者!」
指を鳴らし時を止めると急いで地下から脱出する。
向かうは医務室だ。
城の中を闇雲に探した所で先に僕の能力が尽きる。
地下牢から脱出した後真っ先に城勤めの女中あたりに聞くしかない。
廊下を適当に走るとすぐに女中の姿が目に入った。
背後に回り込み首を絞めるように腕を回して時を動かす。
「動くな」
「えっ……」
何が起きたか理解もできず、ただ立ち竦む女中。
身体が小刻みに震えていてかなり恐怖を感じているようだ。
「医務室はどこだ」
「あ、あ、あっちです……」
「嘘ではないだろうな?」
「も、勿論です……お願いです、殺さないで……」
殺すつもりはない。
少なくとも僕らにとって女中一人程度脅威ではないのだから。
また時間を止めて女中が指差した方角へと向かう。
能力の多用は避けたい所だが、まだここは敵のド真ん中だ。
ケチったせいで命を危険に晒すくらいなら使うほうがいい。
女中が嘘をついている可能性もあったが、あの場面で嘘はつかないだろう。
事実、女中から教えられた方角に向かうと医務室があった。
時を止めたまま扉を開けると一番奥のベッドにドライは寝かされていた。
身体は包帯が巻かれてあり、すぐに動くことは難しそうだ。
「ドライ、無事か?」
僕は時を動かしてから彼の耳元でそっと囁く。
あまり大きな声を出せる場所でもないし、万が一医務室の外に声が漏れでもしたら目も当てられない。
「ドライ?」
反応はない。
意識を失っているのか、揺さぶっても起きる気配がなかった。
ドライの身体は僕よりもゴツい。
背負って逃げることはまず不可能だろう。
とりあえず治療はしてもらえたようだし、今は彼を寝かせておくしかないか。
一人で行動を開始しようと医務室の扉に手をかけた所で、外からの声が耳に入ってきた。
よく耳を澄まさないと聞こえないくらいの距離だが、数メートルほど離れた場所で男二人が何やら会話をしている。
「……ずいぞ、敵……中だけ……」
「外にも……様が戻っ……ないか?」
「俺た……様に剣を……わけにはいかない……う」
只事ではない様子だ。
想定外の事でも起きたらしい。
もっと近くで話してくれればしっかり聞き取れるのに。
しばらくするとどこかに走り去っていく足音が聞こえる。
何があったのか気になるが今は仲間に合図を送らないといけない。
作戦は失敗、即座に撤退せよと。
医務室の扉を開けると外が一層騒がしい。
廊下の窓から外を眺めると白い甲冑を着た集団が城を取り囲むようにして、並んでいるのが見えた。
見たことがない部隊だ。
事前に仕入れた情報ではあんな姿の部隊はなかったはず。
俺の脳裏によぎったのは牢屋で聞いた第一王女の私設軍隊だ。
もしかすると王女が戻ってきたのかもしれない。
それにしては完全武装で明らかに帝国に対して剣を向けているようにも見える。
僕はもっと状況を把握する為に隠れながら階下へと急いだ。
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