第二十七話 作戦失敗
一人、二人、三人。
最後に残った四人目の近衛兵の首を掻っ切ると僕は再び指を鳴らした。
「む……終わった、ようだな」
「ああ。丁度十秒だ」
「ふむ……何度見ても慣れないな。瞬きした後にはもう敵が死んでいる光景は」
ドライからしてみれば、さっきまで剣を握っていた近衛兵が次の瞬間には首から血を吹き出しながらバタバタと倒れていく。
我ながら不気味と言わざるを得ない光景だ。
しかし、この力こそが解放軍が唯一帝国に勝てる力なんだ。
血溜まりができた扉の前で仁王立ちになるとドライと無言で頷き合いドアノブに手をかける。
勢いよく開け放つと中には皇帝と思わしき年相応の男とその横には妃であろう女性が震えて後ずさった。
「皇帝、覚悟……」
「帝国解放軍のリーダーだな?」
「ああ」
「まさかここまで攻め込まれるとは……能力者というのは本当に……」
皇帝が何かを言いかけ片手を上げた。
「カイッ!!」
突如左側に衝撃を感じ僕がよろめくと、すぐそばにドライがいた。
「な、なんだ!?」
「グッ……すまん」
皇帝の顔を見るとドライの動きが予測できなかったのか唇を噛んでいた。
「どうしたドライ!」
「すまん……能力が発動しなかった……」
ドライの言葉が理解できず、寄りかかっているドライの肩を押すとヌルっとした感触があった。
手を見ると真っ赤な血が付着している。
「な、何が……」
「能力の無効化……そんな事が……できるなど」
「ドライッ!?」
声もかすれ僕の足元に倒れ込んだドライの背中には数本のナイフが突き刺さっていた。
足元が徐々に赤く染まっていき、僕は頭が真っ白になった。
「対策していない、と思ったか?特殊能力は確かに脅威かもしれんが能力を無効化する能力者がいるとは考えなかったか?」
「そんな能力者がいるなんて聞いていないッ!」
「それはそうだろう。この私がその能力者なのだからな」
知らなかった。
皇帝は何の能力も持たない一人の人間。
そう思い込んでいたのが間違っていたのか。
「奴らを捕らえよ。革命を起こすつもりだったのかもしれんが、そう簡単にこの国は落ちんよ」
「クソっ!」
気づけば部屋の中には近衛兵が何人もいる。
多分透明化の能力で姿を隠していたのだろう。
皇帝の能力により、透明化が解除され突然現れたというのがタネだ。
囲まれてしまった以上ここから逃げ出すのは不可能だ。
何か手はないか……ドライは意識を失っているし僕は能力が使えなかったらなんの役にも立たない。
「残念だったな解放軍のリーダー、カイよ。そんな簡単に国をひっくり返せるわけがなかろう。まあ、ここまで戦力を集めているとは思わなかったが……。連れて行け」
僕はドライの介抱もまともにできず、手錠をかけられ地下牢へと連れて行かれた。
「入れ!」
「イテッ……何するんだ!」
後ろから蹴飛ばされ石畳の上に転がる。
近衛兵の顔には僕が何もできないと知っているのかニヤついた笑みが張り付いていた。
窓すらない薄暗い牢の中。
格子の外には見張りの兵士が一人。
両の手には錠がかけられている。
ここから逃げ出すのは至難の業だ。
僕の能力は強力なものだが、こういった場面では驚くほど役に立たない。
両手が塞がっていれば時を止めたとて、何もできることなどないからだ。
ドライは無事だろうか。
背中は血塗れだったし、すぐに手当しないと危ない状態だったはずだ。
「おい。僕の仲間は無事なのか!」
見張りの兵士に問いかけても何の反応もない。
恐らく僕と会話することも禁じられているのだろう。
困ったことになったぞ。
帝都で戦っている仲間は今も僕の合図を待っている。
僕が合図を出さなければいつまでも戦い続けるはずだ。
何とか逃げ出さないとそれこそ全滅はまのがれない。
「アンタこの国に不満はないのか?」
何もすることがなく、監視をしている兵士に話しかけてみた。
チラリとこちらを見るだけで口は開かない。
「なぁ、貴族や一部の権力者だけは甘い蜜を吸い、平民は虐げられるこの国に未来はあると思うか?」
「…………」
反応はない。
それでもやることがないので僕は一方的に話した。
「この国は腐っている。だから僕は立ち上がった。仲間もそうだ。この国をより良き国に変えたかったから革命を起こした。アンタも一兵士だろ?どんな気分だ?偉そうな貴族に平民をゴミとしか思っていない屑どもを見てきたんだろ?そんなやつらがのさばるこの国を許していいのか?」
「…………」
「僕は未来の人達に自分と同じ境遇を味合わせたくない。兵士だってただの使い捨てとしか思われていないだろ。この国に少しでも思うところはないのか?」
「…………」
「遅かれ早かれ僕らのような帝国に仇なす者は出てきただろう。僕をここで始末してもいつかまた解放軍のような存在が現れるぞ。そうなれば人は死ぬ。これ以上被害を大きくしても良いのか?」
「…………」
「いいわけがないよな。国の未来を思うなら……今ここで変わらなきゃダメだ。アンタにも家族がいるんじゃないのか?」
「……黙れ」
ようやく反応を示した。
一方的に話しかけた甲斐があったらしい。
「やっと返事してくれたな。僕はカイ。解放軍のリーダーなんてやってるけど、前は帝国の路地裏でゴミを漁る生活をしていた」
「……静かにしていろ」
「僕の両親は貴族の連中に殺されたよ。平民が口を出すのが許せなかったんだろうな。平民なんて貴族からしてみれば搾取するだけの存在。アンタは城勤めの兵士だから騎士爵か?上からの態度は平民に対するソレと変わらないだろ?」
「黙れッ!反逆者が話しかけるな!」
いよいよ我慢できなくなったのか兵士が立ち上がり感情を露わにした。
「反逆者だと?僕らは正当な権利を主張しているだけだ!なぜ平等に扱わない!?僕らだって平民である以前に一人の人間だぞ!」
「貴様らに人権などあるわけがないだろう!黙っていろ!」
「アンタは不満がないってのか!?使い捨てにされることに意味はあるのか!?」
「……お前達は重罪人だ。ペラペラ喋っていても構わんが処刑はまのがれんぞ」
「アンタがここの鍵を開けてくれたら話は変わってくるけどな」
僕がそう言うと兵士は格子の目の前まできた。
その目は怒りを含んでいる。
「お前達のやっていることはただの殺戮にすぎない。どこに正義がある?両親が貴族に殺された?ならやり返せばいい。なぜその恨みが国に向く?」
「当たり前だろ。貴族ってのは国から与えられた権力だぞ。そんなゴミクズ共に力を与えた国に責任があるだろ」
「話が飛躍しすぎではないか?俺から見ればお前達は国を乗っ取りたい野蛮な奴らにしか見えん。……まあ同情はするがな」
「同情するくらいなら手を貸してくれ。このまま国が腐敗していくのは見たくないだろ?国が腐ればいずれ他国の侵略を受ける。今はまだ大国として名を馳せているかもしれないが、それもいつまで続くか分かったもんじゃないぞ」
兵士が黙り込む。
薄々と感じているんだろう、国が腐敗していく様を。
このまま選民意識が浸透していけばやがて国は衰退する。
兵士だって使い捨てにされるのを良しとはしない。
彼だって家族がいるはずだ。
国が腐っていけばいずれは捨て駒に使われる可能性だって拭えない。
「僕らはこの国を立て直す。頭を取り替えたら次は腕だ」
ここで言う腕とは貴族連中だ。
そもそも封建制度が間違っているんだ。
何百年と続いてきた制度を変えるのは生半可な気持ちではできない。
貴族連中だって抗ってくるだろう。
だからこそ僕らは力を蓄えた。
何年もかけて虐げられている能力者を集めた。
この革命の為に。
「平民をゴミのように扱う国が兵士を大切に扱ってくれると思うか?アンタだっていずれは捨て駒にされる。そうなりたくはないだろ?」
「……何が言いたい」
兵士も国に対して思うところがあるのだろう。
もう少し揺さぶれば恐らく落ちる。
彼らとて自分達が大事にされていないのは理解している。
後は僕がどうやって彼をこちら側に引きずりおろすかだ。
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