第二十五話 本陣急襲
帝都で攻防を繰り広げる帝国軍と解放軍。
戦況は少しだけ解放軍に軍配が上がっていたが、突如現れたエルにより徐々に解放軍の被害は大きくなっていった。
「くそっ!なんであの野郎が帝都に戻ってきてやがる!」
「ネウロがどっかの僻地に飛ばしたはずだろ!」
「アイツが出てきたら勝ち目ないよ!」
解放軍の中でも不安と動揺が少しずつ伝播していく。
エル・トランセッドはそれだけ脅威だ。
たった一人で数百、数千の軍隊と対等に戦えると言われているほどの能力者。
たった三千人しかいない解放軍が動揺するのも無理はない。
「エルとは戦わず、彼が出張ってきたエリアは退却するよう伝えて下さい」
カイとドライがいない場合の臨時指揮官としてラースが各部隊に指示を飛ばす。
「アタクシが出たほうがいいんじゃないの?」
「そうですね……ランパネス子爵も準備をお願いします。恐らく今の解放軍で彼を抑え込めるのは貴女しかいないでしょうから」
「持ち上げすぎよ。アタクシはエルと対等に戦えるなんて思っていないわ。ま、戦えというならやるけれど」
解放軍の切り札ともいえるネウロ・ランパネスのカードを切るのはまだ時期尚早と考えていたラースは、仕方ないといった表情でネウロに指示を出した。
「ラース、西側の部隊がエルと接敵したわ」
「すぐに退却指示を。彼と真っ向からぶつかれば壊滅します」
全体の情報を掴んでいるのはラピスだった。
彼女の能力はこういった時に最大限活用できる。
「東側は帝国軍と拮抗してるみたいね。どうする?支援を送る?」
「いえ、もう少し耐えていただきましょう。支援部隊を送るとすれば中央正面の部隊ですが……確かそこはリアナさんが率いている部隊ですね。彼女の火力はできる限り正面に置いておきたいので」
ラースは全部隊のメンバーを全て頭に叩き込んでいた。
流石に三千人全てというわけにはいかなかったが、指示を出す隊長クラスのメンバーさえ覚えていれば何とでもなる。
「爆薬はもう尽きましたか?」
「ええ。既に戦闘開始から二時間は経っているわ。カイとドライが捕まってなければいいけれど」
「捕まることはありませんよ。恐らく反攻勢力の首魁ということでその場で殺されるでしょう」
「言い方よ……とにかく私達はカイが上手くやってくれるのを待つしかないわね」
帝都から少し離れた位置で大型の馬車を止めて、そこを本陣としている。
二人がいるその場所を守るのはたった二百名程度。
そもそもこの戦いは攻めることだけを考えて守ることは度外視した作戦であった。
ネウロはまだ本陣に待機しているが、彼女がこの場を離れれば戦力は一気に落ちてしまう。
万が一を考えラースが彼女を残していた。
ラースにとってラピスもネウロも必要不可欠な人材。
他の追随を許さない索敵能力と圧倒的な魔法で敵を制圧する能力は失うわけにはいかないのだ。
「敵です!」
突然馬車の中にまで聞こえてくる仲間の声。
その声に車内は空気が張り詰めた。
「応戦してください。ランパネス子爵も念の為控えていてください」
「相手の数にも寄るけど多少は抑えられるわよ。この本陣の周りにはトラップをいくつか張っておいたから」
その言葉通り馬車から離れた位置で爆発音が聞こえてくる。
ネウロは本陣を囲むような形で設置型の魔法陣を用意していた。
「完全把握」
ラピスが目を瞑り集中する。
数秒後目を開くと渋い表情を見せた。
「敵の数は四百……こっちの倍はいるわ」
「なるほど。帝国軍にもなかなか面倒な軍師がいるようですね。ランパネス子爵の罠が全て起動し終わったら一体どれだけの数が残っているでしょう」
「多分半分以上は残るわよ。設置した魔法陣は全部で十個。流石に四百もの敵兵を半数まで削るのは無理があるわ」
本陣を守る二百名も当然能力者ばかりだ。
四方八方で戦闘が始まったらしく、火の手があがったり雷が迸ったりと派手な様相を見せる。
「これならアタクシが出る幕もないわね」
二百名の能力者はみな精鋭揃いだ。
たとえ四百人を相手取ったとしても負けることはない。
みるみる敵の数が減っていき、やがて立っている帝国軍の兵士は一人もいなくなった。
「ふう……一時は焦ったけどみんな優秀ね。というより帝国軍が弱いのかしら?」
「そういうわけではありませんよ。普通能力者というのは切り札として後から出してくるものです。つまり、今のはあくまで前哨戦。私なら後続部隊を投入します」
ラースの言葉にラピスは眉を顰めた。
馬車の中からジッと遠くを見つめると砂埃が徐々に近づいてくるのが見える。
ラースの言った通り、帝国軍は波状攻撃を仕掛けるつもりのようであった。
「第二陣が来るわ!敵の数は……八百人……!?」
先の倍の数の敵がやってくる。
いくら二百名の能力者がいたとしてもかなり厳しい戦いになるのは目に見えていた。
「もう設置型魔法陣は使い切ったわよ。どうするのラース。アタクシも出たほうがいいんじゃない?」
「いえ、まだです。こちらの手の内を見せたくはありません」
「ってことはまだ敵が来るってこと?」
「恐らく。私ならばそうします」
ラースはまだ帝国軍の攻撃は続くと予想していた。
「でも二百人じゃ八百の帝国軍を抑えきれないじゃない」
「二百名を鶴翼の陣に変更してください」
「そんな事をすれば正面突破されるじゃない!」
「急いで下さい。敵の軍師が誰なのかこれで分かりますから」
ラースの作戦は失敗する。
軍略に長けていないラピスでも、このタイミングで鶴翼の陣は危険すぎると理解していた。
それでも現在の臨時指揮官はラースだ。
ラピスは仕方なく二百名全体に指示を伝えた。
「知らないわよ……突破されても」
「その時はランパネス子爵の出番です」
結局ネウロ頼りではないか、そう言いたくなったがなんとか堪えるラピス。
鶴翼の陣へと陣形を変えると帝国軍も足を止め陣形を変えていく。
するとラースが手で口を抑えクツクツと笑った。
「な、なに?何がおかしいのよ」
「いえいえ……やはり、そうでしたか。ラピスさん、索敵して見て下さい」
まだいまいち何が面白いのか分かっていないラピスは渋々能力を使う。
ラピスの能力は範囲内を俯瞰的に見ることができる。
そして、人間である対象は赤い点で表示され敵の数が分かる仕組みだ。
「見えましたか?それではこれをご覧ください」
ラースが紙に何かの絵をサラサラと描いてラピスへと見せた。
「これ……これよ。帝国軍の陣形はこの形をしているわ」
「ええ、ええ、やはりですか。そうだと思いましたよ。波状攻撃にこの陣形……ククク」
ラピスは不気味に笑うラースを気色悪いとでも言いたげな表情を浮かべる。
ラースが見せた絵は陣形だった。
その紙に描かれていたのは魚鱗の陣。
鶴翼の陣を破るための陣形だ。
「波状攻撃を三回に分けて行うのです。一回目の攻撃は適当な陣形です。回数を重ねる毎に人数は倍々に増やしていきます。そして二回目は必ず相手より有利な陣形。となれば三回目の攻撃では雁行の陣で来るでしょう」
「どうして貴方がそんな事を知っているのよ」
「まあまあ、落ち着いて下さいラピスさん。この戦い方は私が教えたのですよ。つまり、この作戦の指揮を取っているのは私の弟子です」
ラースが笑っていたのは相手が自分の教え子であるからだった。
「弟子は師匠を超えられない。そうでしょう?」
「そうとは限らないんじゃないの?」
「いえいえ、そういうものなんです。さて、相手は魚鱗の陣ですから、高火力な遠距離能力を持つ者に中心を狙うようお伝えください」
二百名のうち遠距離でかつ火力のある能力を持つ者はおよそ十名。
その者達が一斉に敵軍の中心へと攻撃を開始した。
「魚鱗の陣はなかなか堅い陣形ですが、鶴翼の陣を敷いている我々は中心が狙いやすいのですよ」
中心に大打撃を受けた帝国軍は一気に瓦解した。
残党狩りほど楽なものはない。
結局二回目の波状攻撃は解放軍の圧勝で終わった。
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