第二十四話 帝都攻略
帝都に火の手が上がった。
またたく間に広がる戦火は留まることを知らず、準備が間に合っていない帝国軍は次々と殺されていく。
「邪魔だぁッ!荒々しい不快な音!」
ラドゥの魔法が何十人もの帝国兵を飲み込み屍へと姿を変える。
兵の数では大きく劣る帝国解放軍には強力な能力者が多数いる。
そのお陰で帝国兵の抵抗むなしく、帝都への侵入を許してしまっていた。
「クソッ!反逆者共がッ!」
「黙っとけ!」
槍を突き出した帝国兵の攻撃を難なく躱し、致死性の魔法で首を切り落とす解放軍のメンバー。
ただの武器では敵わないと理解したのか帝国兵も陣形を組みつつ解放軍に立ち向かっていく。
徐々に帝国軍の体勢が整いつつあり、解放軍は少しずつ当初の勢いが失われていった。
「くそ!ここで使うぜ!」
「待てナクア!まだ早い!それは切り札だって言っただろ!?」
ナクアの能力は龍への変化だ。
巨大な龍へと変化する能力であり、口から放たれるブレスはまさに龍のそれだ。
見た目の威圧感もさることながら、解放軍にとっての切り札的存在。
それがナクアだった。
しかしそんな強大な能力は長時間維持することはできない。
まだ戦争の始まったばかりのこのタイミングで使ってしまえばあとが辛くなるだろう。
そう考えた他の仲間たちは必死にナクアを抑え込む。
「でも数が多すぎるだろ!俺っちの能力なら一掃できるんだぜ!?」
「時期尚早だ!切り札はこんなに早く使うもんじゃない!」
「仲間がやられていくのを黙って見とけってか?そんなのできるかよ!」
仲間たちはナクアを羽交い締めにしてなんとか能力を使わないように説得を続ける。
「お前じゃなくて今はこっちを使うのが先だ!」
仲間の一人がポケットから拳大の爆弾を見せつけた。
城塞都市ガブランに保管されていた大量の爆薬を一つ一つ紙で包んだ即席爆弾。
音と爆風で帝国軍の戦力を大幅に削れる代物だ。
「分かった分かった!もっと後で使えばいいんだろ!?離せ!」
ナクアはその爆弾を見て渋々ながら納得する。
爆弾は一度ガブランでお披露目されたことがあった。
その威力は魔法かとも思えるほどで、解放軍の主力武器とも言える。
解放軍が空に一発の信号弾を打つと、一斉に後方へと下がっていく。
帝国軍はそれを面白おかしく笑ってみていた。
「逃げていくぞ!」
「逃がすな!追え!」
「帝国軍に恐れをなしたか!」
口々に解放軍を罵り余裕の笑みでその様子を眺める。
そんな彼らの目には閃光が走った。
強烈な光。
目をくらませ音の暴力が帝国軍へと襲いかかった。
そして次の瞬間には身体が後方へと吹き飛ぶほどの爆風が襲う。
爆弾による攻撃だと気づいたのは数発の爆発を確認した後だった。
「やつら爆弾を投げてきているぞ!」
「盾持ちは前へ!可能な限り被害を抑えろ!」
「うわぁぁぁッ!」
「いでぇ……いてぇよぉッ!」
ある者は腕を、またある者は足を爆風で吹き飛ばされ地面に転がる。
ガブランに備蓄されていた爆薬の量は凄まじく、解放軍の半数が一人一つ爆弾を渡されるほどだった。
至る所で爆発がおき、その度に悲鳴があがる。
能力者の少ない帝国軍では爆弾に太刀打ちできず、その数を次々減らしていく。
「おしてるぞ!このまま帝都を滅茶苦茶にしてやれ!」
「貴族共は皆殺しだァァッ!」
「いけぇぇぇ!」
解放軍の士気はあがり、戦況が傾いた。
そんな戦いが繰り広げられている帝城正面の防壁辺りをジッと見つめる一人の男。
「……ふん。帝都まで攻め込まれるとは。私がいなかっただけでここまでおされているなど帝国の恥だぞ」
その男、エル・トランセッドはボロボロのコートを身に纏い疲れた表情で呟いた。
ネウロの魔法により遥か遠い地へと転移させられたエルは全速力で帝都へと戻ってきたのだ。
「面倒な事をしやがって……ランパネス。私がいない隙に帝都へ攻め込むなど……。後悔するがいい」
エルが帝都に舞い戻ってきたことはまだ誰も知らない。
また、別の場所、城内では不安そうな表情を浮かべる皇帝がいた。
「どうなっている……防壁を突破されているではないか」
「現在帝都に存在する全戦力を正面に向かわせております」
「街が……燃えているぞ」
「解放軍が爆弾を使っているようです」
「たった数千人程度のテロリスト共を止められんなど……我が帝国軍はそれほどまでに弱かったのか?」
「いえ……ただ相手の勢いが良く不意を突かれたのが一番大きな失態です」
「エルは……エルはまだなのか」
「……現在捜索隊が動いておりますが、未だエル・トランセッド様の居場所は分かっておりません」
皇帝の右腕でもあったエルは所在は分からない。
そこに加えて各地で上がる煙の数。
皇帝の不安は募るばかりであった。
「王国側に配置している軍も戻せ!」
「それは……」
王国、エミルトン帝国にとっての敵国との国境には必ず二万の帝国軍が待機していた。
それを全て帝都に戻した場合どうなるかなど明白である。
「陛下、それでは王国の侵攻を許してしまいます」
「北の地などくれてやれ!今は帝都の方が危険であろう!?」
「……はっ。すぐに帝都へ戻るよう通達を」
「早馬を使え!なんとしても今日中に帝都へ帰還させよ!」
「しかし……いえ、畏まりました」
王国側、北の地と呼ばれている場所から帝都までは馬車で二日半だ。
それを一日とかからず戻ってこいなど無理がある。
とはいえここで口答えをしようものなら首を刎ねられる。
そう考えた近衛隊長は小さく頭を下げた。
皇帝の無理難題は今に始まった事ではない。
玉座で指示を出すだけで現場のことなど何も分かっていないのだ。
ただ、血筋に恵まれただけの愚物。
そう思っている近衛兵は少なくない。
「それと陛下。アリス様が私設軍隊を引き連れて城を出ました」
「なんだと!?」
「現在近衛兵を三人付けておりますが――」
「連れ戻せ!こんな戦場に成り果てた街へ繰り出すというのか!?あのバカ娘が!」
「アリス様に進言したとのことですが、聞き入れられず……」
次々と舞い込んでくる皇帝にとっての負の情報が頭を悩ませる。
「アリスは何を考えている……」
皇帝の問いに答えるものは誰もいなかった。
戦況が揺れ動く中、カイとドライは既に城の中へと侵入することに成功していた。
「城の中ってこんなに広いんだな」
「……うむ」
長く突き当りまで伸びる廊下の隅でコソコソ話を交わしながらゆっくり、着実に皇帝のいる場所へと近づいていた。
カイの能力があったからこそできることだ。
本来城の警備などガチガチに固められており、近づく事すら容易ではない。
何度か危ない場面はあったが、カイの能力により回避していた。
「皇帝がどこにいるかだけど、ドライ分かるか?」
「いや……どこかは分からん。ラピスも連れてこればよかったかもしれん」
三人で行動する事も当初は視野に入れていたが、戦闘になった場合ラピスがかなり足を引っ張ることとなる。
そのリスクを考え、カイとドライのみで潜入する形に落ち着いた。
「能力は残り二回だ。これ以上無駄遣いはできないから出来る限り接敵は避けて進もう」
「うむ。城内に兵は少ないと思うがもしいるなら全て精鋭だろう。出会えば激しい戦闘が予想される」
ドライも能力が防御系であり攻撃能力は一切持っていない。
カイも能力の使用制限がある以上、二人ともが白兵戦を強いられる。
ある程度の訓練は受けているが、城内に点在する精鋭帝国兵と対等に戦えるかと言うとそうでもない。
多少腕が立つ程度のものだ。
つまり、敵との遭遇は作戦失敗を意味する。
「緊張してきた……」
「落ち着けカイ。もう少しで俺達の目標は達せられる。もう手が届くんだ。行くぞ」
カイは心臓に手を置いて深呼吸をすると、覚悟を決めたのか廊下をゆっくりと歩き始めた。
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