第二十三話 三千人の命
最後の戦いに向けた準備を終え、僕らはガブランで決起集会を開いていた。
これが最後の集会になる。
そのせいか集まっている全ての仲間の目には覚悟の光が灯っていた。
「全員、よく集まってくれた。ここにいるのはこれから帝国に挑んでもらう戦士だ」
僕が城のバルコニーで話し始めると水を打ったように静まり返った。
「ここまで来るのも長かった。仲間も何人死んだか分からない。帝国を変える、そう意気込んだのはいいものの相手は大国……僕らのような半端者の集まりがどうこうできる相手じゃなかった。でも今ではガブラン防衛戦も勝利し帝都を攻める準備も整った。今までついてきてくれてありがとう」
感謝を述べ頭を下げるとパラパラと拍手の音が聞こえてくる。
ここに集まった三千人の仲間はアッシュが各地を回って少しずつ集めた仲間たちだ。
当然リーダーが僕になっておもしろくない者だっていただろう。
それでもついてきてくれた。
だから僕は純粋に感謝を行動で示した。
「既に先行部隊が道を切り開いてくれている。僕ら本隊は後に続くだけだ。帝国軍の裏をかいた作戦ではあるが、戦闘が始まれば激しい抵抗を見せるだろう。死ぬな、とは言わない。だが、我ら解放軍に勝利をもたらせ!行くぞ!」
「「「「オオオオッッ」」」」
地鳴りのような声が辺り一帯を埋め尽くす。
士気は十分、戦力も申し分ない。
これから三日かけてラースの秘密基地まで向かう。
そこで一度休憩を挟み翌日帝都へと攻め入る手筈だ。
――――――
進軍が始まるとゾロゾロと森へと足を踏み入れていく。
三千人もの大移動は想像以上に大変だった。
何しろ普通の速度で歩むことができない。
兵糧を積んでいる馬車の速度は遅いし、大軍ということも相まって情報の伝達に時間がかかった。
最後尾からの連絡が一番先頭を行く部隊に伝わるまで一時間以上かかる。
そのせいか想定の半日遅れでラースの秘密基地へと辿り着いた。
地下に張り巡らされた巨大な研究施設でも三千人は収容することができず、一部の部隊は外で夜を明かすことになる。
「全員テントを張ってくれ!予定通りに哨戒班は警戒を!」
僕の声も全体に行き渡らず、伝達班が数十人バケツリレーのように伝えていった。
夜が来ると日中の騒がしさなどなかったかのように静かな時間になる。
僕は眠れず地下から出て近くの木陰で腰を下ろした。
翌日には戦争が始まる。
いや、もう始まっているのか。
戦いが起きていないだけで、既に戦端は開かれている。
「こんな所にいたの」
ふと声がして顔を上げると、目の前にラピスがいた。
「ああ、眠れないんだ」
「今のうちに休んでおかないと明日は休む暇なんてないわよ?」
「分かっているよ。でも、いよいよ帝都に攻め込むのだと思うと寝付けない」
私も、とラピスも小さく零し僕の横に座り込む。
「やっと……私たちの時代が来る。今まで虐げられてきた人生も終わりを迎えるのね」
「まあそうだな。勝てれば、だけど」
「勝つのよ。負ける未来なんて想像しなくていいわよ」
ラピスに言われてハッとする。
駄目だな……こういう時に気落ちするのは。
「悪い。忘れてくれ」
「いいわ、聞かなかったことにしてあげる。それよりカイはこの革命が成功したら何をするの?」
「何を、とは?」
「働かないと生きていけないでしょ。何かないの?やりたいこととか」
ラピスに言われてそういえば何も考えていなかったと思い出す。
この国を変えてやる、その気持ちだけで今まで生きてきた。
アレがしたいとかコレがしたいとか、一切考えたことがなかった。
「何も……ないな。そう言うラピスは何かやりたいこととかあるのか?」
「あるわよ。私は服が好きだから服屋さんで働きたいのよ」
知らなかった。
意外な事実だ。案外みんなやりたいことがあるんだろうか。
「僕は……何もないよ。この戦いが終われば空っぽだ」
「今から見つければいいじゃない。案外指導者が向いてるかもしれないんだし」
「国を背負えってことか?それは流石に重すぎる……三千人の命を背負っているだけでも胃が痛いんだからな」
「あなたなら案外向いてそうだけれどね。ま、焦らなくてもこれから見つければいいのよ」
ラピスの言うようにゆっくり見つければいいか。
人生はまだまだ長いんだし。
「そろそろ寝ておくか。明日に響きそうだ」
「そうね。私も少しだけ眠くなってきたわ」
二人で生欠伸を噛み殺して地下へと入っていく。
もう数時間後には出発だと思うと早めに休んでおくに越したことはない。
「じゃあおやすみラピス」
「ええ。おやすみカイ」
――――――
夜が明けると進軍が開始された。
森を抜ければいよいよ帝都は目と鼻の先。
腰につけたナイフを握る手が震えていた。
「どうした」
「いや……ちょっと緊張していただけだ」
ドライが僕の様子を見て心配そうな目で見てくる。
「大丈夫、うまくやる」
「……そんなに肩肘張らずにいけ」
一応僕はドライとのツーマンセルで動く。
万が一を考えドライの能力は不可欠だった。
今回僕の役目は責任が重い。
というよりかは僕にしかできない内容だ。
帝国軍と真正面からぶつかればたかが三千人など簡単に潰されてしまう。
だから僕が帝国の頭を叩く。
つまり、皇帝を殺し解放軍の旗を皇帝の居城に建てなければならない。
三千人の仲間はあくまで時間稼ぎだ。
僕が時間をかければそれだけ犠牲者は出る。
だからこそ責任の重い任務だった。
「皇帝の側には必ず近衛兵がいる。完全防備でだ。ナイフすら通さないフルプレートの鎧を着けているぞ」
「大丈夫だ。どれだけ頑丈な鎧を着ていても隙間は必ず存在する」
近衛兵が何人いようと僕の敵ではない。
時間を止めて確実に息の根を止めてやれば良い。
「問題は市中だな……」
「ああ。城に入るまではできる限り能力を温存しておきたい」
帝都の地理は頭に叩き込んだ。
可能な限り接敵を避け、城に近づく。
「森を抜けるぞッッ!」
前方にいる仲間が叫んだ。
今まで薄暗い森を走っていたせいか陽の光を真っ向から浴びて目が眩む。
「全力で駆けろッ!」
「「「オオオオオッー!」」」
騎馬隊が剣を片手に鞭を打つ。
騎馬隊に選ばれている仲間の殆どが、元騎士だったり兵士だった者達だ。
彼らもまた、劣悪な環境に身を置いていて悲惨な過去を持つ。
帝国への恨みは相当大きなものだろう。
騎馬隊およそ三百人が帝都の防壁へ向けて一直線に駆けていく。
その後ろを僕らが支援しつつ歩を進めた。
不意を突いたようで、帝国軍本隊はまだ配置されていなかった。
「やったなッ!後は頼むぞカイ!」
「任せろ!そっちも死ぬなよラドゥ!」
「誰にモノ言ってやがる!おらおら!ラドゥ様のお通りだァァッ!荒々しい不快な音!」
防壁を守る帝国軍に向けて放たれる一撃は凶悪そのもので、何人もの兵士がその攻撃により地面に倒れ伏した。
「アタシの隊が一番火力を出せるっての!一方的な発火!」
リアナの能力により火を纏う何本もの鉄の矢。
火矢を番えた兵士が次々に放っていく。
赤い雨が降っているかの如く、青い空を火矢が埋め尽くした。
盾を構えていようが防壁に隠れていようが上から降り注ぐ火矢は地面を燃やし、櫓からは炎が立ち昇る。
不意を突かれた帝国軍は未だ狼狽しているようで、陣形もクソもあったものじゃない。
僕らはその騒ぎに紛れるようにして防壁へと近づいていく。
「順調だな!」
「……ああ。油断はするな。帝国軍が体勢を整えれば逆転される」
「そうだな……」
数の暴力は恐ろしい。
帝国軍と僕らでは数倍の差がある。
いくら僕らが能力者ばかり集めたといえど、何倍もの戦力を覆すことはできない。
それこそエル・トランセッドみたいな能力者がいれば話は別だがあんな化け物みたいな能力者は簡単に見つかるはずもなかった。
「防壁が近い。ここからは特に気を引き締めて行こう」
「ああ。行くぞ」
僕らは壊れた防壁の隙間から帝都内部へと侵入した。
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