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第二十二話 決意を胸に

城塞都市ガブラン防衛戦から三ヶ月が過ぎた。

エミルトン帝国は動きがなく、対する僕ら帝国解放軍は慌ただしく戦力増強を進めていた。


戦力は三千人を超え能力者だけでいえば二千人。

数こそ少ないが戦力だけでいえば五千の帝国軍と互角に渡り合える程にまで膨れ上がっていた。


帝都攻略に向けて作戦を練るのはラースだ。

もちろん作戦の(かなめ)はネウロと僕だ。

唯一無二の能力を持つ僕は作戦の肝と言っていい。

そしてネウロもまたエル・トランセッドに次ぐ強力な能力保持者であり、帝都攻略には彼女の力が不可欠であった。


今日もまたいつも通り作戦室に集まり、地図とにらめっこが始まる。



「この地形は利用できるんじゃないか?」

僕がある地点を指差すとラースは首を横に振る。


「そこは野盗が根城にしています。それに崖に囲まれていますので万が一進軍が読まれていた場合挟み撃ちに合う可能性が高いかと」

「じゃあここからこっちに伸びるルートはどうなの?」

「ラピスさん、それでは想定の五倍は兵糧が必要となります。二千人の軍を動かすということはそれだけ大変なのですよ」

「それならここから二手に別れて――」

「ネウロさん、それは悪手です。帝国軍はこことここに防衛線を張っております」

「じゃあどこなら攻められるのよ!」

次々とラースに否定され遂にはラピスがキレた。


まあ気持ちは分からないでもない。

僕らが指し示すルートはラースに全て却下されているのだから。


「まあまあ落ち着いて下さい。私としてはこのルートをオススメします」

ラースの示したルートは森を抜ける道順だった。

確かにこれならば帝国軍に見つからず一番接近できるかもしれないが、進軍速度は遅くなる。



「これだとさっき私が示したルートと同じように兵糧が沢山いるんじゃないの?」

「いえいえ、それがそうでもないのです。八年前ですがこの森の中に私が隠した研究所があります。そこには当然ですが食糧もたんまりと保管しています。万が一帝国を追い出されたらここで研究を続けようと考えておりました」

「八年前?もう食糧も腐ってるんじゃないか?」

「いえいえ、そうでもないのです。保存の効いた物だけを保管しておりまして、十年は持つ物ばかりです」

ラースの言う研究所が現存してるならそこで補給を挟んで安全に進軍ができる。

とはいえ森の中を突っ切るのには懸念点が一つ。


森の中というのは案外歩きにくいものだ。

慣れない者だと体力の消耗も激しい。


そんな状態で森を抜けても満足に戦えるかどうか。



「懸念点は理解しておりますよ。その為に先発隊百名を用意します」

「先発隊?」

「ええ、ええ。木々が生い茂っていると歩きにくいでしょう?なので森に慣れた者を先行させるのです。その後を本隊が行くというのが私の考えです」

「なるほど……」

先発隊か、それは盲点だったな。

確かにそれなら何とかなるか。


「ただ問題は一つあるのですよ。雨です」

「雨……そうか、ぬかるんでいると歩きにくい」

「そうですカイさん。雨が降った場合その進軍はかなり厳しいものとなるでしょう」

せっかく最適なルートだと思ったのにまた振り出しに戻る、か。

天候操作のできる能力者がいれば話は別なんだが。



「ネウロはどうだ?天候操作とかできたりって……」

「できるわけないでしょ。天候操作は神の領域よ?まあ貴方の能力も大概だけど」

ネウロでも無理か。

となると雨の予測なんてできないし、森を抜けるルートは無しかもな。


「雨でも強行、ってわけにはいかないのか」

「かなり厳しいですよ。ぬかるみは想像以上に体力を奪いますし、冷たい雨も身体を冷やし士気にも影響します」

「でも他にルートがないのなら雨が降らないことを祈るしかないんじゃないか?もうこうやって話し合うのも何回目かわからないぞ」


実のところこの会議は既に数十回目になる。

ああでもないこうでもないとなかなか決まらないのだ。


今度の戦いは今まで以上に慎重になるのも分かる。

だがこれではいつまで経っても攻めることができない。


この間にも帝国軍は戦力増強に注力しているだろう。



「最終決定権はリーダーであるカイが決めろ」

ドライの言葉に僕は口を閉ざす。


僕の一声で全てが決まるのだから、その重責はとんでもない。


最初の頃ならまだ良かった。

人数だって十人ちょっとしかいなかったんだから。


だが今では三千人もの大人数に膨らんでいる。

三千人の命を預かる身としては下手なことは言えなかった。


しばらく黙っているとラピスが溜め息をついた。


「カイ、優柔不断なのはリーダー失格よ。アッシュはこんな時迷わず自分の信じた道を歩んだわ」

「僕はアッシュみたいに頭はよくないし、カリスマ性もない。……でもラピスの言っている事は理解しているつもりだ」


ここで決める。

決めなければならない。

もうあまり時間の猶予はないんだ。



攻められる前に攻め込む。

そうでなければ僕らが帝国の根底をひっくり返すのは無理だ。


「森のルートを行く。ラース、道のりを地図におこしてくれ。ドライとラピスは軍の編成を頼む。リアナは先発隊を率いて欲しい。ネウロは帝国の中で厄介な相手の名前を全部書き出してくれ」

「できるじゃないの」


既に僕の歩むべきレールは敷かれている。

国をひっくり返す、なんて簡単に言えるけどやらんとしていることは大革命だ。

腐りきった帝国を一から作り直す。


そのためなら僕は犠牲になったっていい。



「作戦決行は一月後。明朝に出発する。全員準備は怠らないでくれ」

「りょーかーい。じゃあ先発隊のメンバーはアタシが決めるよ」

「ラピス、別室で部隊の配置を決めよう」

「分かったわ。それなら能力者のリストも持っていかないと」

「紙とペンを頂戴。帝国で警戒しないといけない奴はそんなに多くはないけれど、書き出しておくわ」


各々が動き出す。

ようやく始まるんだ。

僕らの未来を左右する大きな戦いが。


何人死ぬだろう。

何人殺せばいいんだろう。


王の首をとれば終わり、それだけだったらこんなにかんたんなことは無いのに。



各自動き始めると作戦室に残ったのは僕とラース、ネウロだけだった。


「ねぇカイ、皇帝を殺せるの?」

「ああ、もちろんだ。諸悪の根源は確実に絶つ」

「もし皇帝が傀儡になっていたとしたら?周りに侍る大臣辺りが操っている可能性とかは考えていないのかしら?」

そういう能力もあるというのは聞いたことがある。

しかしそれは僕の知ったことではない。

被害を受けた平民達にしてみれば皇帝が悪い、大臣が悪いなどとわざわざ個に対して恨みは持たない。


あくまで国そのものに恨みを持っているだけだ。


だから皇帝が傀儡だろうが殺す。

大臣だって周りの奴らも皆殺しだ。


僕らが新たな時代を作り出す。

過去の異物は除去すべきだ。


「黒幕が誰であろうと僕はやり遂げる。それがアッシュとの約束でもあるからな」

「……そう。アタクシもできるだけフォローするから、この国をより良い国に変えて頂戴」

「ああ、そのためにもこの戦い負けるわけにいかない」


帝国にとっては防衛戦でしかないが僕らにとっては聖戦だ。

革命戦争、そう呼称してもなんら違和感はない。



「ラース、僕の犠牲は構わない。だから絶対に解放軍に勝利をもたらしてくれ」

「ええ、ええ。自己犠牲の精神ですね。ですがよろしいのですか?貴方がいなくなればこの国の未来をその目で見ることは叶いませんが」

「いいさ。未来に生まれてくる平民の人達に辛い思いをさせたくないだけだから」


両親の仇を、アッシュの悲願を、僕が叶えてみせる。

誰も悲しまない世界をこの手で掴んでみせる。


一月後までにできることは全てやる。


誰も死なずに目的を果たせるかどうかは分からない。

でもみんな覚悟はできている。

命をなげうってでもエミルトン帝国を滅ぼしてやる。

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