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第二十話 帝国最強の男

口元を歪ませジッとこちらを見つめるエル。

首元にはさっきまで吹き出していたであろう血が滴っていた。


「クククッ……どうした?そんな顔をして」

「なぜ……生きている……」

「それに答えて欲しくば今何をしたのか教えてもらおうか」


理解が追いつかない。

僕は確実に頸動脈を切ったはずだ。

血が噴き出しているのを見るに外したというのは考えにくい。

ならばエルの能力か。

不死の能力か……?

いやそんな能力を持っているなら街を一撃で滅ぼしたなんて伝説は生まれやしない。


「だんまりか?私が知覚できない速さで移動したのか?……いや、瞬間移動という線もあるな。まてよ?……まさかとは思うが時を止めたのか?」

矢継ぎ早に繰り出される質問に僕の額にはじんわりと汗が滲む。


「お互いに秘密は明かすべきではない、か。まあ残念だったが私は死なんよ」

「そうか……なら!60秒の支配者(リトルドミネーター)!」

僕は再度能力を使いエルの下へと駆け出した。

ナイフを強く握り締め今度は確実に首を掻っ切る。

念の為心臓にも一突きだ。


これで死なない人間はいない。

……人間ならば、だが。


指を鳴らして世界がまた鼓動を始めるとエルは鮮血を撒き散らしながら地面に倒れ込んだ。


「また倒れたぞ……使ったのか?」

「ああ。これで死ななければ人間じゃない可能性だってある」

ドライと一言二言、言葉を交わしているとエルがムクリと起き上がった。

その目にはまだ光が灯っていた。


「馬鹿な……確実に殺したはずだ!なぜ死なないッ!」

「クククッ……私の能力がバレてしまったかもな」

エルは不敵に笑い首元の血を拭う。


「不死の能力か……それなら一撃で街を滅ぼしたなんて噂が立っているのはなんなんだ!」

「ああ、簡単な話だ。私が二つの能力を有しているからに過ぎない」

エルの言葉に僕とドライは絶句した。


この世界には能力を得られる者とそうでない者がいる。

能力というものは得られるだけでも幸運なのだ。

それを二つも手にしているなんてどういう原理か理解できなかった。



「さて、話を戻そう。二度目の死で確信したぞ。お前の能力は時を止める、そうだな?」

僕が黙っているとエルはクツクツと笑い出す。


「クククッ……だんまりは肯定とみなすぞ。そうか、なるほど。時を止める能力など聞いたこともなかったが、破格の能力ではないか。なぜ帝国解放軍なんかに属している。その能力があればこの国でもそれなりの地位は得られただろう?」

「ふざけるな。僕の両親はこの国に殺された。そんな国に仕えたいと思うのか?」

「ああ、そういうことか。勿体ないな……」

エルは同情しているのか目を瞑って首を振る。


「ならこの私が約束しよう。お前にはそれなりの地位を。そしてこの国を腐敗させている元凶を断つ。私とて気づいていないわけではない。帝国という国そのものが腐っていることに」

「口約束など信じられるものか。僕は誓ったんだ……仲間と共にこの国を外から変えてやると」


路地裏で残飯を漁っていた時とは違う。

今は力がある。

何かを成し遂げる力が。


その力でこの国を変える。

己の手で。


「交渉は決裂か……しかしどうするつもりだ?私を殺せないとなると作戦は失敗に終わるだろう」

「……黙れ」

「今ならまだ間に合、わないか。いや、減刑できるよう取り計らってやるぞ」

「……黙れ」

「何事も引き際が肝心だ。もうここから挽回は不可能だろう?」

「黙れッッ!」

しつこく話しかけてくるエルに苛立ち、声を荒げると同時に突如僕の目の前に複数人の仲間が現れた。


「なんとか間に合って良かったわ」

「ネウロ!?なぜここに来たッ!」

作戦内容にネウロがこの場に駆けつける話はなかったはずだ。

恐らくこれはネウロの独断。

次どう動けばいいか分からずつい声が大きくなった。



「なに?なぜそこにいるネウロ」

「あら?気づいていなかったの?アタクシはカイの手助けしにきたのよ」

「違う。そんなことではない。なぜそちら側についている?」

「まあ今の帝国に思うところがないのかと問われると首を傾げざるを得ないからね。だから国を変えるつもりならアタクシも多少手を貸すわ」

「馬鹿な……帝国を裏切るつもりか!」

「端的に言うとそうなるかもしれないわね。さてと、貴方の能力も一部分かったしそろそろ退場してもらおうかしら?」

ネウロはおもむろに手をエルへと向ける。

しかしエルは不死の能力を保有している。

生半可な攻撃では殺すことはできない。


「ネウロ!無理だ!アイツは死なない!」

「不死の能力なんでしょ?別に殺さなくても退場させる(すべ)はいくらでもあるわよ」

ネウロは不死と聞いても焦る様子がない。

多様な魔法を行使できるのは知っているが不死を殺せる魔法なんて存在しないだろう。


「クククッまさか帝国の魔女と相まみえることになるとは。どうやって退場させるのか見せていただこう」

「その余裕な態度が気に食わないのよね。魔法は全て我が手中(マジックイズマイン)

ネウロが能力を発動するとエルの足元に魔法陣が浮き出てきた。

光を発したと思うとエルの姿は消え、その場には何も残らなかった。


「今何が……」

「どこか分からないけれどこの世界のどこかに転移させたわ。……ふぅ、かなり魔力を消費したわ」

「そ、そんなことができるのか……」

ネウロの使える魔法は想像を超えてきた。

もはや世界最強はネウロなのではないかとも思える。


「これで一番の脅威は去ったわ。あとはよろしく」

「あ、ああ」

ネウロはそれだけ言うと後ろ手にヒラヒラさせながらフッと消えた。


「ネウロ・ランパネス……敵でなくてよかったな」

「ああ、あんな魔法を使えるなんて知ってたら敵対してないけどな」

作戦は失敗に終わるかとも思えたがネウロの機転によりなんとか持ち直した。

あとは予定通りに帝国軍を潰すだけだ。



「動いたみたいだな」

左右に別れた部隊が動き始めたようで土埃をたてながら帝国軍へと迫るのが視界に入る。

後は彼らに任せるほかない。

僕のやれることはもうないだろう。


指揮官クラスは殆ど亡き者にした。

どれだけ兵がいようと指揮系統が乱れた軍ほど脆いものはない。



――――――

数時間の攻防を経て帝国軍はほぼ壊滅。

生き残った兵士たちは命からがら逃げ帰っていたが、残っているのは数百人程度。

数千もの兵をここで潰せたのは僥倖といえるだろう。


ただこちら側の被害も少なくはない。

百人近い仲間が戦死、三百を超える負傷者が出た。

しかし大軍を相手にこれなら十分な戦果といえた。



防衛戦勝利後、僕らはガブランの城へと集まって幹部メンバーと顔を合わせる。


「帝国軍は敗走。生存者は300人程度です。帝国解放軍はおよそ1900人生存、上々の結果でしょう」

「死んだ者たちは手厚く弔う必要があるな」

戦力では大きく劣っていたが勝てたのはラースの作戦があったからだ。

リーダーである僕が帝国軍の前に現れ動揺させたところで指揮官を殺した。

そして一番の脅威であったエルはネウロがどこか分からない場所へと転移させたお陰で帝国軍は完全に狼狽えた。

そこに左右からの挟撃。

帝国軍からしてみれば突然攻撃を受けてどう対処すればいいのか混乱の真っ只中だったはずだ。

まともに隊列を維持するなど難しく、総崩れとなっていた。


「まさか勝てるとは思わなかったわね」

リアナの服装もそれなりに汚れていて激しい戦いを繰り広げたのは容易に想像できた。


「被害はもっと大きくなるかと思っていたけど、恐らく総指揮官とエルの不在がかなり響いたんだろう」

それもこれもネウロのお陰だった。

独断での行動はあまり褒められた行為ではないが、ネウロがいなければあそこで僕もドライも死んでいた。



「それにしてもなかなか危ないところでした。まさかエル・トランセッドの能力が不死だとは……」

ラースも彼の能力は完全に把握してはいなかったらしく、申し訳なさそうな顔をしていた。


「結果が全てだ。独断で動いたネウロは罰せられる行為だったとしても結果的に僕が殺されるのを防いでくれた。次は帝都を目指す。多分帝国を明確に僕ら解放軍を敵とみなしたはずだ。次に攻められれば流石に防ぎきれない。とはいえ大軍を用いて敗走しているからそう簡単に攻めては来ないだろう。だから一年だ。一年で帝都を攻める。それまでは力を蓄えるぞ」

僕は幹部メンバーの顔を一人一人見ながら次の目標を口にする。


みな覚悟はしている。

ここからの戦いはたった一つのミスが解放軍全体に影響を及ぼすだろうと。



エミルトン帝国……ここまで来たぞ。

あの時の女の子は今頃何をしているだろうか。

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