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第一話 誰かにあって僕にないもの

いつからか僕は力が欲しいと心の中で願う事が多くなった。

誰しもが持つ固有の能力。

火の魔法が使えたり、空を飛んだり、傷を癒す魔法が使えたりと皆様々な力を持っている。

僕は未だその力に目覚めておらず、何の力も持たない平民のままだった。


能力というのは神に願えば与えてくれるという。

その辺の空き地で神に願っても意味はない。

神殿で一定の寄付をして神の像の前で手を合わせて初めて願いを聞き届けてくれる。


当然寄付の額は平民では相当貯め込まなければ難しい額だ。

僕のようなまだ二十にもなっていない若造では到底不可能。

だから僕は必死になって金策に走った。

クズな貴族の屋敷に忍び込み義賊のような事だってやった。

捕まれば重罪だが、何の能力も持たぬ者が国を変えるなど大言壮語にも程がある。



そして遂に僕は一定の寄付金以上のお金を集めて神殿へと赴いた。

最初は入り口で小汚い小僧が来たと渋い表情を向けられたが、寄付金を見せてやるとニッコリ微笑んだ。

現金な奴らだ、コイツらもいつかエライ目に合わせてやると僕は心に誓い、神殿の奥へと足を運ぶ。


神の像はそれはそれは立派なものだった。

白くて一切の汚れもない美しい像。


僕は両膝を突いて目を瞑り祈りを捧げる。


僕に力をください。

何でも良い、この国を変えられる程の力を。



何秒経っただろうか。

ゆっくり目を開くとそこは広大な草原広がる場所だった。


「ここは……?」

さっきまで神殿に居たはずだ。

しかし見渡しても像どころか建物すら見当たらない。



〈君は力を望んだね?〉

ふと僕の頭の中に声が響いてくる。

テレパシーというのか僕は驚いて尻もちを突いてしまった。


「だ、誰だ!」

〈私は神さ。ああ、姿が見えないから驚いたのかな?〉


今度は目の前が眩い光りに包まれ僕は咄嗟に手で目を覆った。


「な、何が――」

「やぁ」

さっきまで頭の中に響いていた声が、目の前から聞こえてきて目を開くと、そこには真っ白な服を着た男が立っていた。


顔も真っ白で目や口もない。

ただただ白い服を着た人型がそこには居た。


僕が男だと判別できたのは声だ。

少し透き通ったイケメンボイスというのか、とにかく女性の声ではなかったからだ。


「あ、アンタが神……なのか?」

「そうだよ。君が呼んだんじゃないか」

確かに力が欲しいと願いはしたが、神様来てくださいなどと祈った覚えはない。


「力が欲しいんだろう?どんな力がいいんだい?」

僕が狼狽えていると神はそのまま会話を続けた。

力か……正直どんな力だっていい。

ただ、この国を変えられるくらい特異なものがいいな。



「ふむ……特異な力ときたか」

「なっ!?心を読んだのか!」

「ああ、もちろんさ。私は神だからね」

半信半疑だったが、目の前の男は神で間違いない。

ぼくの心の中を読むなど普通の人間では出来ないのだから。


「それで特異な力を得て君は何を成す?」

「……この国を変える」

「国を変える?それはまた大きく出たなぁ」

神は少しばかり笑うと近付いてきて僕の頭に手を乗せた。


「じゃあこういうのはどうかな?」

その瞬間僕の頭の中にある言葉が浮かんできた。


60秒の支配者(リトルドミネーター)?」

「そう!それが能力の名前さ」

「どんな効果を持つんだ?」

「実際に使ってみるといい。ほら、指を鳴らしてその名前を言ってみて」

僕は言われた通り指を鳴らし能力名を口にする。


60秒の支配者(リトルドミネーター)

……何か起きたのか?

何にも変化はなく、僕が困惑していると神が口を開いた。


「ほら、能力は発動しているよ」

「何が変わったんだ?」

「んー確かにここだと分かりにくいか。あ、ほら足元を見てみて」

そう言われ僕は視線を落とす。

そこには草が生えているだけだ。


「よーく見てみて」

「……あっ」

ジッと見つめていてやっと分かった。

草がピクリとも動いていないんだ。


「動きを止める、能力?」

「惜しいね。それは60秒だけ時を止める能力さ。ああ、言っておくけど私には効かないよ?神だからね」

時を止める能力なんて、破格の性能じゃないか!

ただ条件が少し心許ない。

たったの60秒だけだなんて、あっという間に過ぎ去ってしまう。


「せめて一時間とか止められないのか?」

「それは無理だよ。その力で国を変えてごらん?使いようによってはかなり有利に事を運べるから」

それはそうかもしれないが、たったの60秒しか止められないとなると使い所が難しそうだ。

だが連続で行使すれば理論上無限に時を止められるのではないだろうか?


「無限に時を止められる、そう考えたね?残念だけどそれは無理だよ。それは能力としては殆ど神の領域に近しいものだ。今の君なら一日に一度が限界だろう」

「あれか?魔力が足りない的なやつか?」

「まあそんな所さ。ただ使えば使うだけ使える回数は増える。そうだなぁ、三年後くらいには一日に五回程度なら使えるようになっているかもね」

三年後でやっと五回か。

たったの五分しか時を止められないのに、この能力で国を変えられるだろうか。

いや、そこは考えればいい。

今は能力が手に入っただけでも喜ぶところだ。



「ありがとう。僕は今まで能力を持っていなかったから、これでやっと次のステップにいける」

「そうかい、それは良かった。君の願いが叶えばいいね」

また突然視界は変わる。

最初に祈りを捧げた場所に戻ったようで、目の前には神の像があった。


「どうされましたか?もうかれこれ一時間はその体勢ですが……」

そんなにも僕はここで祈りを捧げていたのか。

心配になった司祭が声を掛けてくれ、僕はすぐに立ち上がった。


「あ、いや……」

「もしや能力を授かりましたか?」

「分かるんですか?」

「ええ、もちろん。貴方の表情が最初に比べてとても明るくなっておりましたから」

力を手に入れた事が嬉しかったからか表情に出ていたらしい。

僕はその場で頭を下げ、サッサと神殿を後にした。



いつもの場所、廃屋に戻ってくると僕はすぐに計画を立て始めた。

まずは仲間を募らなければならない。

僕と同じような境遇でかつ、能力を保持している者だ。



そういえばこの帝国でもよく聞く解放軍とやらに接触するのもありかもしれない。

確かこの国の在り方が気に食わない者ばかりが集まっていると聞く。

その者達ならば僕と利害は一致するかもしれないな。



そうと決まればまずは能力を使いこなさなければ。

正直この力があればお金だって食べ物だって、いや、人の命だって思いのままだ。

時を止めるだなんてあまりに規格外な能力を得られたのは、とても有り難い。



その後僕は毎日能力を使い効果範囲や体感で60秒を確実に測れるよう何度も何度も試した。

効果範囲は世界全てのようで、一番高い時計塔に登って時を止めてみたが遠くの方、望遠鏡で見なければ見えない程遠い人ですら動きを止めていた。

神の領域というのもあながち間違いではないようだ。



攻撃手段は何でも良い。

ナイフの一本でも持っていれば後は時を止めて一人ずつ殺していけばいいだけだ。

どれほど強い騎士であろうと魔法使いであろうと、僕の能力の前には何の意味も成さない。



月日は流れ一日に使える回数は二回三回と少しずつ増えていき、三年が経つ頃には神の言っていた通り五回使えるまでに成長した。


情報収集もしたし、解放軍のメンバーとも接触を果たした。

見ていろクソ貴族ども。

お前達が無意味に殺した僕の両親の仇を取ってやるぞ。



僕は復讐に囚われているんじゃない。

二度と僕のような人間を作らないよう根本から変えるのが目的だ。


エミルトン帝国、思い知らせてやるぞ。

僕は固く誓いを立て不格好な手作りである両親の墓標に花を添えた。

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