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第十八話 二段構え

ドライと共に囮になるというのは理にかなっている。

というのもドライの能力が守ることに徹しているからだ。


「僕と一緒に敵地のド真ん前に行きたいのか?」

「……その方が安全だろう。万が一矢が飛んできても俺がいれば防げる」

「まあ確かにそれはそうだけど」

「……その条件を飲めないのなら俺はその作戦却下だ」

ドライには左右に展開する部隊を率いて貰いたかったが、そこまで言うなら飲むしかないだろう。

ラースを見るとなにやら考えている仕草でブツブツ呟いていた。


「ラースさん、ドライを展開する部隊から外しても構わないか?」

「ええ、ええ、そうですね……代わりに指揮が執れる方をドライさんの穴埋めにいれるのでしたら可能です」

「決まりだな、この作戦で明日を乗り切る!全員死力を尽くしてくれ、この戦いは帝都への足掛かりとなる大事な一戦だ。ここで負けるようなら僕らはその程度……だがここで勝てたら、帝国をひっくり返すことも現実味を帯びる」

「そうね……どのみちもう明日なんだし、準備に取り掛からないと」

「誰も死なずにこの戦い乗り越えよう!」

「「「おおー!」」」


みなの士気は高い。

各々作戦室から出ていくと僕とラース、そしてネウロが残った。


「さてと、本当の作戦を教えなさいよラース」

「察しがよいですねランパネス子爵」

ネウロがジトッとした目つきでラースを見る。

ラースは何か隠し事でもあるようだ。


「何の話だ?」

「いえ、いえ。先ほど説明したのは表向きの作戦です」

「表向き?」

「ええ、ええ。実はこういう作戦がありまして……」

ラースは小声で話しだした。


「ランパネス子爵には今から帝都へ向かってもらいます。そこで今先ほどの作戦を全て打ち明けてもらうのです」

「なッ……馬鹿なのか?そんなことをすれば僕らは全滅するぞ」

「ご安心を。ランパネス子爵からもたらされた情報が正しいのか間違っているのかなど帝国軍は判断できません。もちろん打ち明けてもらう情報は嘘を交えるのです」

「続けてくれ」

「帝国側にはこう伝えるのです。帝国軍の前に現れる二人の男はどちらも解放軍の重鎮。つまり幹部です。そして頃合いを見計らい左右からの挟撃により帝国軍を混乱させ、二人の男がその隙を狙いエル・トランセッドの首を獲る、と」

「それで?」

「そうすれば当然左右からの挟撃を防ぐため帝国軍は陣形を変えるでしょう。ただし全てを信じるのは愚か者のすること。保険をかけて一部の精鋭を中心に残しているはずです。そしていざ開戦してみると実際に二人の男が現れますよね?ランパネス子爵の言葉は本当だったと信憑性を持つわけです。しかし、カイさんの能力は伏せたままなのでそこからは作戦通りに動いてください。精鋭を斬り伏せながらエルの首を獲るのです。帝国軍からしてみれば突然姿を消した男が目前に迫っているのですから恐怖するでしょう。それに中央に残していた精鋭は減り指揮系統は混乱、何が本当で何が嘘なのか判断がブレてしまう、そこがこの作戦の肝なのです」

「そううまくいくのか?」

「いきますよ必ず。ランパネス子爵の言葉を鵜呑みにせずとも警戒はするはずです。混乱するのは確実ですよ」

ラースの作戦は運の要素が強い。

確かに今言った通りの動きになれば、帝国軍がいくら精強といえども崩せるだろう。


ただ、味方にも秘密にしておかなければならない理由が分からない。


「カイさん、今味方にも秘密にしておく必要があるのか、と考えましたね?」

「あ、ああ」

僕の頭の中を覗いたのかと思えるほどラースは的確に突いてくる。


「そこです。戦争というのは開戦と同時に始まるわけではないのですよ。既に何人かのスパイが紛れ込んでいてもおかしくありません。だからこそランパネス子爵の言葉は信じざるを得ないのです」

「スパイがいるだと?そんなバカな……」

「疑った者が勝つ。それが戦争というものです」

ラースの言葉は信じ難いがもしも本当にスパイがいるのであれば、僕らは全滅していたかもしれない。


「さてそろそろ準備に取り掛かりましょう。ランパネス子爵、お願いしますよ」

「それアタクシが一番危険な橋渡ってないかしら?」

ネウロも危険だろう。

帝国を裏切っていることがバレれば帝都で殺される未来しかない。

いくらネウロが様々な魔法を使えるといえども帝都は精鋭揃いだ。



「うまくいくことを祈るばかりだな」

「ええ、ええ。私の策にミスはありません。大船に乗ったつもりでいて頂ければ」

「ふう……いまから緊張してきたな」

万に近い帝国軍の目の前に出ていくのも相当な勇気がいる。

数時間後には帝国軍が目視で確認できるはず。

ここで足踏みしているわけにもいかないしな。

僕は深呼吸を一つしてから作戦室を出た。



――――――

エミルトン帝国、帝都フラウ。

城門の外にはおよそ八千の兵士が隊列を組み整列していた。


「久しぶりの大きな戦いか。まさか陛下から私も出るよう言われるとはな」

「それだけ解放軍を脅威とみなしているのでしょう」

エル・トランセッドと今回の(いくさ)で指揮官を務める男と会話を交わす。

城塞都市ガブランが落ちたと情報が入ってきた時帝国は明確に解放軍を脅威とみなしていた。

それほどまでにガブランは強固な要塞だった。

ただの一度も落ちたことのない都市が占領されたとなれば、皇帝も楽観視はできなかった。


「それにしてもこれはやり過ぎだろう」

「いえ、やり過ぎと思えるほどが丁度よいのです。解放軍は能力者を多数有しています。たった二千人といえども油断はできません」

指揮官の男は数が少ないからといって兵の数を減らすことはしなかった。

能力者というのはたった一人で戦況を巻き返せるだけの戦力である。

解放軍はその強大な戦力を何人も保有しているのだ。


「私が開幕でどデカいのを放ってやる。そうすりゃ相手も萎縮するだろう」

「楽しみにしています。ん?あれは……」

ふと指揮官の男がある方向を凝視する。

釣られてエルもそちらを見るとこれから戦争だというのに似つかない風貌で視線を彷徨わせる女性がいた。


「あれはランパネス子爵か?」

「そのようですね。学園都市から出てくることなど殆どない方がなぜここに」

「気になるな……少し見てくる」

エルはその場を離れキョロキョロしているネウロの元へも急いだ。



「おい、ランパネス子爵。こんなところで何をしている」

「あら?エルじゃない。やっと見つけたわ」

「私を探していたのか?」

「そうよ。とびきりの情報を手にしたから」

ネウロは学園都市を人質にとられ、解放軍に協力するようにとさっきまで城塞都市にいたと言う。


「冗談じゃないわ。協力なんて死んでも嫌よ」

「それで逃げてきたってか?」

「そうとも言うしそうでもないとも言うわ」

「なんだ、勿体ぶらずにさっさと言え。これから進軍を開始するところなんだ。遊んでる時間はないぞ」

「あらそうなの?なら丁度よかったかもしれないわ。解放軍の動きなんだけど――」

ネウロからもたらされた情報は決して無視できないものであった。

エルはすぐに指揮官を呼び寄せネウロの話を聞かせる。


「解放軍のリーダーと副リーダーが私たちの前に出てくるそうだ。これは罠だと思うか?」

「順当に考えれば罠でしょう。だからといって無視もできません。左右からの挟撃というのも有り難い情報です」

「そうでしょう?あんなやつら殲滅して頂戴」

「そうですね、早速――」

「待て。ランパネス子爵を泳がせている可能性だってあるだろう」

エルの勘の良さにネウロの額には汗が浮かぶ。


「解放軍のやつらはアタクシが多種多様な魔法を使えることは知らないわよ。今頃牢屋に入れてた女がいなくなって焦ってるわ」

「……本当か?」

「本当よ。ここで嘘を付く意味があるかしら?アタクシは領民全てを人質に取られてるのよ?」

「お前くらいの実力者ならそれくらい跳ね除けられるだろう」

「人質に取られてるって言ったでしょう?そりゃあ人質さえなければあんなやつらに遅れは取らないわ」

エルは腕を組み少し考えた後口を開く。


「それもそうか……それにしても笑えるな。隙を突いて私の首を獲る、か。クククッ面白いじゃないか。どんな能力を持っているのか知らないがやれるものならやってみてほしいものだな」

「確かに。エル殿に一太刀いれるなど常人ではありませんよ。さて、私はすぐに陣形を組み直しますので」


エルと指揮官がその場を去った後ネウロは深くため息をついていた。

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