第十七話 作戦立案
"勝利"の文字を見て僕の頬も少しだけ緩む。
ラースが勝てると判断したのだ。
もしかしたらもしかするかもしれない。
僕は早く作戦の中身を聞きたくてウズウズしていた。
「そこの紙に記載されている策ならば勝てる可能性が一番高いかと思われます」
「文字が多すぎて……分かりやすく説明してもらえるか?」
「ええ、ええ。もちろんでございますよ」
ラースの策は普通の感性をしている者ならまず首を縦に振ることはないものだった。
当然解放軍の幹部連中はみな渋い表情を見せる。
「――というわけでして、これならば勝利は確実かと思います」
「ラースさん、これなら本当に勝てるんだな?」
「ええ、ええ。私の知略を上回る軍師が帝国にいるのであれば話は別ですが、恐らくいないでしょう」
「そう言い切れる根拠は?」
「私が帝国軍の参謀を担っていたからです。この私がですよ?まあ自分で言うのもあれですが、私の第一印象はどう見えましたか?」
「……悪いが頭の切れるやつには見えなかった」
「そうでしょうそうでしょう?なのにも関わらず参謀を任されていたのは私が誰よりも優秀だったからにすぎません。つまり、後釜である参謀がよほど頭の切れる人物でないなら私の策は破られませんよ」
大した自信だ。
根拠のない自信ほど不安なものはないが、ラースは帝国軍の参謀をやっていただけあって軍の内情に詳しい。
彼ほど今回の戦いに適した人物はいないだろう。
「でもこれってカイが危険すぎるわ。リーダーが死んだら解放軍は終わりなのよ?それを理解しているのかしら?」
ラピスはやはり反対意見を口にした。
しかしそれも見越していたのかラースが反応する。
「いえいえ、ラピスさん。だからこそ、ですよ。解放軍にとってみなを率いる立ち位置にいるリーダーの存在は何よりも大切。それは帝国軍も理解しています。まさかこんな策は打ち立てないだろう、と」
「……アンタたしか王女を囮にしたことがあるって話よね?その時王女はどうなったのよ」
「王女殿下は傷一つありませんでした。まあ運の要素もあったかと思いますが結果が全てです」
そう、今回ラースが打ち立てた策は僕を囮にした大胆な作戦だった。
事前に仲間はほぼ全て城塞都市ガブランに残さず外へ出しておく。
そして帝国軍が現れたタイミングで僕が武器も持たず手ぶらで帝国軍の前に出てくる。
帝国軍がリーダーである僕に注目している間にニ部隊に分かれた解放軍が左右に広がりつつ挟撃できる位置へとつく。
リーダーである僕が現れると帝国軍は確実に狼狽える、というのはラースの言葉だ。
というのも今までの経験上、そんな馬鹿げたことをするやつなどいなかったからだそうだ。
注目度が最高点に達したと同時に僕が60秒の支配者で帝国軍の前から姿を消す。
瞬きしたら一人無防備に突っ立っていた敵がいなくなるのだから、軍は混乱する。
その混乱に乗じて左右に展開した解放軍が挟撃、城塞都市ガブランの固定砲台で一気に殲滅というのが作戦の本筋だ。
ただし、その作戦だけでは帝国軍に大打撃いれる程度で終わる。
一番厄介なエル・トランセッドの対抗策はもっと単純。
僕が時を止めてエルの首を掻っ切る、というものだった。
リスクが大きいしそもそも時を止めている間にエルを見つけなければならない。
止められるのは一日に五回。
つまり、五分だ。
その五分の中には僕が無事にガブランに戻ってくる時間も含められている。
だからラピスは難色を示していた。
「カイのリスクが大きすぎるわ。みんなもそう思うでしょ?」
ラピスの問いに全員が頷く。
確かにリスクは高いがこれくらいのリスクを背負わなければ解放軍に未来はないとラースは判断したのだ。
「いや、僕は構わない。三分でエルを見つけて殺す。そのあと二分でガブランまで戻ればいいだけだろ」
「言うのは簡単だけど、エルのいる位置からガブランまでの距離次第では無理よ」
「いえ、いえ。エル・トランセッドは必ず前線、それも一番前に出てきますよ」
ラピスの言葉に被せてラースが口を開いた。
「エル・トランセッドは絶大な力を有しているから自分が死ぬなど考えてはいません。だから戦争の時には必ず前に出てきます」
「なら五分で片付けられる」
「あくまで理想論じゃねぇのか?オレはあんまり頭よくねぇから分かんねぇけどよ」
「理想論ではありませんよ。今までの経験に基づいた確かな情報です」
ラドゥもなかなか頭を縦には振らない。
この作戦は全員が了承しなければ完遂できはしない。
「ラドゥ、他に方法はない。ラースの策に賭けるしかないんだ」
「そうだけどよ……くそっ!オレらにもっと戦力があれば」
「大丈夫だ、僕は死なない。今までも何度か危険な場面はあった。でも死んでないだろ?僕はこの国を変えるまで死ぬつもりはない」
「はぁ……ま、カイが頑固なのは今に始まったことではねぇけどよ……二千人の命を背負えるのか?」
「ああ、僕はこの腐った国を変えるまでは死ぬつもりはない」
「そうかよ……分かった分かった。じゃあ絶対死なねぇことを条件にその作戦了承してやるよ」
覚悟が伝わったのかラドゥはため息をついて賛成してくれた。
これで一人。されど一人だ。
一人だけでも同意してくれればなし崩し的に何人かが賛成の手を挙げるはずだ。
「この作戦に賛成できる者は挙手を頼む」
一人二人とチラホラと手が挙がり、最後まで手を挙げなかったのはリアナとドライだった。
「リアナの意見を聞かせてくれないか」
「アタシはそのエル・トランセッドってやつ?そいつ以外のやつが怖いんだけど」
「エルに近しい強力な敵がいるかもってことか?」
「そう。帝国軍って結構他国と比べても強いらしいじゃん。てことはそのエルなんたらってやつほどじゃなくても近しい能力者がいてもおかしくはないんじゃない?」
僕らに足らないのは情報だ。
リアナの言うようにエル・トランセッドに次ぐような能力者がいるかもしれない。
いても今回の戦いで投入してくるかは別だが、いるという想定で動いたほうがいいだろう。
「ラースさん、その辺りはどうかわかるか?」
「ええ、ええ。私の知る情報は数年前まで、という制約はありますが、確かにエル・トランセッドに次ぐ能力者はいます」
「そいつらが出張ってきた時の対処は考えているのか?」
「出張ってこないんですよそれが」
ラースは言い切った。
よほど自信があるのかドヤ顔までしてみせる。
「帝国の中でも上位に君臨する能力者は帝都を守ることと他国からの侵攻を防ぐため基本的に動かせないのです。エルが出てくると言うのなら尚更動かさないでしょう」
「それでももし出てきたら?」
「その時はランパネス子爵に頑張って頂きましょう」
突然名前が出てきたからかネウロは目をパチパチさせ驚いていた。
「ランパネス子爵の能力は他の追随を許さないほどです。それこそエル・トランセッド以外が相手なら負けることはないでしょう?」
「高く買ってくれているのは有り難いけど期待し過ぎは勘弁してよ」
「ですが事実です。そうでなければ子爵でありながら帝都に近い学園都市リューンの領主は任されませんよ」
確かにそれもそうか。
帝都に近いということはそれだけ強固な守りがいる。
帝都に何かあってもすぐに駆けつけられる学園都市の領主にネウロを置いたのもそういった理由からだろう。
「はぁ……そこまで言うなら信じようじゃん。でも嘘だったらアタシの命と引き換えてもアンタを燃やすから」「おお、恐ろしい恐ろしい……ですがそうはなりませんのでご安心ください」
リアナは渋々ながらも賛成してくれた。
さぁあとはドライだけだ。
「ドライ、反対意見を教えてくれ」
「……反対意見というよりその作戦でいくなら条件がある」
「条件か、分かった。教えてくれ」
「……カイと共に俺も囮になるのなら考えてもいい」
ドライの言葉は僕が予想していたものだった。
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