第十六話 軍略家
ラースは過去に起きた隣国との戦争である策を打ち立てた。
大多数の軍勢を一網打尽にするための策。
そう言えば聞こえは良いが、実態は王女を囮にして大多数の敵を葬る策だった。
皇帝はラースの策を詳しく聞いておらず、士気高揚の為だと言われ王女が戦場に立つことを許した。
蓋を開けてみれば、王女が死んでいたかもしれない策を打ち立てていたのだ。
皇帝は激怒した。
たとえ戦争で勝利したとしても後味が悪すぎる。
王女を囮にするなど誰が考えるのか。
あまりに卑劣だとラースを罵り、帝国を勝利に導いた功績を考慮し帝都への出禁を命じた。
「えぐいことしてるな……」
「ええ、ええ。ですが結果が全てでしょう?」
ラースの言う通り結果が全てだ。
過程よりも結果がものをいう世界だ。
ラースは案外俺たちにとって強力な戦力になるかもしれない。
「カイさん、戦で一番大事なのは何だと思いますか?」
「死なないことか?」
「いいえ、違いますよ〜。負けないことです。勝てば官軍、そうでしょう?」
「確かに……分かった。ラースさん、いや、ラース。俺たちの仲間になってくれ。待遇は……まあある程度融通は効かせるつもりだ」
「毎日の食事と寝床があればなんでも良いですよ。さぁ早く本拠地に戻りましょう。こうしている間にも色んな策が思いついてきて――」
僕はラースを連れて帰った。
まあ帰りは行きと同じくネウロの飛行魔法だ。
三人を同時に運べるネウロには頭が上がらないな。
夜も深まり城に帰ってきても静まり返っていた。
僕たちは一旦作戦室に足を運ぶ。
ネウロはたまに欠伸をしているが、ちょっとばかし我慢してもらおう。
作戦室に入ると何故かラピスとドライがいた。
「あ、帰ってきた」
「……遅かったなカイ」
机に突っ伏しているラピスと腕を組んで目を瞑っていたドライ。
僕が帰ってくるのを待っていたらしい。
「どうせこの部屋に直行するだろうなと思って待ってたけど正解だったみたいね」
「ずっと起きてたのか?」
「まあ、これから作戦会議するんでしょ?寝てるわけにいかないじゃない」
ドライも小さく頷く。
約束の期日まで残すところ一日。
二人とも気が気でないようだ。
「おお、これはこれは。お初にお目にかかります。私の名はラース。今この時より解放軍の頭脳となりましょう」
「私はラピスよ。……それにしても胡散臭い見た目ね」
「オレはドライ……解放軍副リーダーだ」
ラピスの第一印象は概ね僕と同じだった。
ラースは胡散臭さだけならピカイチだ。
野暮ったいシワシワのロングコートに眼鏡というなんとも近寄りがたい風貌。
ラドゥも同じ印象を受けたのか難しそうな表情は崩さない。
「さてと、ラースさん早速頼む」
「ええ、ええ。それではまず解放軍の戦力、主力メンバーの能力、肩書きなど全て教えていただけますか?」
ラースに全てを教えるということは諸刃の剣だ。
帝国解放軍の情報が大っぴらになるし、ラースがその情報を持って帝国側に寝返れば、解放軍はもう立ち直ることができないだろう。
しばし悩んだ結果僕は一冊の書類を手渡した。
これはアッシュが持っていた書類だ。
中にはメンバーの名前、能力、年齢、性別と余すことなく記載されている。
流石に二千人もの解放軍全員はないが、主力メンバーとなる者の情報は全てある。
「なるほど、なるほど。では明朝ここに集まっていただけますか?もちろん幹部陣全員を連れてですよ」
「寝ずに書類に目を通すのか?」
「ええ、ええ。これでも三徹四徹は可能なら身体をしておりましてね」
ラースの目元に隈があったのはそういう理由だったのか。
本人がいいと言うなら僕がなにか言う必要もない。
「彼を一人にするの?危険じゃない?」
「それならランパネス子爵、この部屋から出られないような魔法を掛けて頂いてもよろしいですよ」
ラースは自らそう申し出た。
ここから逃げ出したとしてもたった一人で城塞都市を出るのはなかなか難しいだろう。
ただ一応念には念を、ということでネウロに作戦室を誰も出入りできないよう結界を張ってもらった。
自室に戻る道中、ラピスが不安げに声をあげる。
「ねぇ……あのラースって人、ほんとに大丈夫なの?」
「見た目が不安なんだろ?多分大丈夫だと思う。というか僕らを裏切るメリットもないからな」
「どうしてそう言い切れるのよ」
「あの人帝都出禁らしいぞ」
「……余計に不安になる情報をありがとう」
確かにラースは頼りない見た目をしている。
だからといって彼に頼らない選択肢はない。
僕らじゃいい作戦なんて思い付かないし、ましてや戦力で負けている帝国軍を追い返すなんてどうすればいいか分からない。
「まあ彼に任せておけばなんとかなると思うわよ。あれでも帝国一の頭脳、だなんて呼ばれていたんだしね」
ネウロが横から口出ししてくるとラピスは肩をすくめた。
「全力を出してくれればでしょ?今回は帝国と敵対している解放軍の作戦を立ててもらうんだから、本気で取り組んでくれるか怪しいところだわ」
「どのみち僕らは明日の朝を待つしかない。最近まともに寝てないだろ?英気を養うのも仕事のうちだぞ」
「それはアンタもだけどね、カイ。じゃ、おやすみ」
それはそう。
僕もここ数日まともに寝れていない。
色々重なったからな……。
アッシュの死といい、リーダー任命といい、帝国軍が攻めてくることといい、やっとゆっくり休める気がする。
僕はベッドに潜り込むと死んだように眠った。
夜が明けると各々作戦室へと向かう。
作戦室は結界が張られていてネウロでなければ解除はできない。
当然作戦室の前には何人もの仲間がたむろしていた。
「お、カイ。どうなってんだ?作戦室に入れねぇぞ」
「扉に触ったら弾かれたんだけど」
「結界を張ってるんですか?」
口々にみなが一斉に話しかけてくる。
一旦落ち着いてもらい、僕は改めて説明した。
「ネウロが結界を張ってくれてるんだよ。誰も出入りできない結界を」
「中に入ると不味いことでもあるのか?」
「いや、そうじゃない。逆だよ、中にいる人物を出さない為だ」
「ほーん。夜な夜なお前が何かしらしてたのと関係あるのか?」
ラドゥにそう問いかけられ僕は苦笑いを浮かべる。
誰にもバレないようコッソリ動いてたつもりだったが、何人かは気づいていたらしい。
「あら、みんな勢揃いね」
ようやくやってきたネウロの姿を見て、みんなが警戒をあらわにする。
「今はアタクシも味方よ。カイ、説明していないのかしら?」
「説明はしたよ。でもすぐに受け入れられるわけがないだろ。それより早く結界を解いてくれ」
ネウロのように帝国でも有名な人物だと、仲間の警戒もそう簡単には解けはしない。
ラドゥやリアナもネウロを見る目が険しかった。
ネウロが扉に片手を翳すと不可視の結界は解除されドアノブに触れることができた。
そっと扉を開けると視界に飛び込んできたのは、一心不乱に紙に何かを書きまくるラースの姿だった。
足元には何十、何百という紙が散乱していた。
「ラースさん、大丈夫か?」
「ん?おお、カイさんではないですか。ということはもう夜が明けたので?」
「あ、ああ。朝に集まってくれって言ってただろ?だからみんな集めてきたんだが」
「ええ、ええ。お待ちしておりましたよぉ〜、さあさあ、皆様席についてください」
ラースさんの目は血走っていてちょっと怖かった。
みなも同じ印象を受けたのか若干引き気味に席へとつく。
全員が席についたところで、ラースが紙を配り始めた。
そこにはびっしりと文字と手書きの地図が書かれていて、夜通し書き続けていたのだと分かった。
「ラースさんこれは?」
「ええ、ええ。これから説明しましょう。まずは手元の紙を見てください」
びっしりと書かれているせいで滅茶苦茶見にくかった。
ただ一箇所、目に付く箇所があった。
「一番下を見てください。この策なら帝国軍を打ち破れますよ」
ラースがニヤッと笑う。
一番下に書かれていたのは"勝利"の二文字だった。
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