第十一話 民主主義
「――とまあこんな感じかな。平民によくある話だろ?」
「話してくれてありがとうカイ。そうだな……みなそのような過去を持っているが九歳にして貴族の一人を始末したのはカイくらいだろう」
「私も似たような話をいくつか聞いたけど九歳でその行動力は称賛に値するわ」
二人は僕の過去を聞いて手放しで褒めてくれた。
過去を話したお陰か、あの時から復讐の炎は燃え上がっていたのだと再認識した。
「とりあえず話を戻そう。今はミールの言っていた三日後に街ごと滅ぼすって話だ。どう対処するか……」
「帝国最強の男が手を出してくるのであればかなり厳しい戦いになるぞ」
「そうね……ドライの能力で防げるのは二秒しかないし、この都市を守るにはあまりにも戦力が足りなすぎるわ」
本題に戻るとみな顔は険しくなる。
能力者の数は多くても帝国最強とやらの能力が未知数なため、どう対抗すればいいのか判断に困っていた。
「誰かその帝国最強の能力を知ってたりしないか?」
「貴族……なら知ってるかも。でも貴族の知り合いなんているはずがないし……」
僕らは貴族と真っ向から対立している。
頼れる貴族なんておらず、頭を抱えた。
「とりあえず別働隊のメンバーに戻って来るよう伝書鳩を飛ばしてくれ。三日後に攻めてくると宣言したのならそれを違えることはないと思う」
「そうかしら?帝国の奴らなんて嘘つきばかりよ?」
「今までの歴史上宣戦布告を偽ったという記録は残されていないはずだ」
ドライが博識で助かった。
それなら少しだけ時間に猶予はある。
できることは全てやらないと、帝国軍を迎え撃つなど相当厳しいに決まっている。
「一ついい方法がある」
「なに?言っておくけどさっきみたいに学園都市に潜入する、みたいなふざけた内容は却下するから」
「うっ……いやでも待ってくれ。潜入するにしてもさっきとは内容が違うんだよ」
僕はある作戦を思いついた。
それは学園都市リューンの領主、ネウロ・ランパネスの力を借りるというものだ。
当然簡単にはいかないだろう。
だが僕にはある秘策があった。
「ネウロ・ランパネスを引き入れる」
「そんな事ができるわけ無いでしょ。もっと真面目に考えなさいよ」
「違うんだよラピス。ネウロは魔女と名高い大魔法使いだ。帝国最強の男を相手取るにしても十分脅威になる」
「それは理解しているけど。でもネウロは子爵よ?私達みたいな解放軍に手を貸すわけがないわ」
正攻法ならまず不可能だろう。
貴族が帝国に仇なす存在である僕らに手を貸すはずがない。
しかしそれを逆手に取ればいい。
「ネウロは学園都市の領主だ。当然領民は何としても守りたい、そうだろ?」
「……続けてくれ」
ドライが腕を組んで話を続けるよう促してくる。
「僕が能力を使ってネウロの私室まで入り込む。そしてナイフを突きつけてこう言えばいい。領民に手を出さない代わりに三日後の戦いで手を貸せと」
「そううまくいくかしらね……甘すぎるんじゃない?」
「ネウロからしてみれば知覚できない相手が突然命を脅かしてくるんだ。領民を守るというのもそう簡単ではないと理解するだろう。断れば防ぐ暇も与えず学園都市を落とす、って言ってやれば必ず頷くしかない」
ネウロが誰もが認める強大な能力を持っている。
つまり、学園都市はそう簡単に落とせやしないと油断している。
そこに現れた未知の能力を持った存在。
警戒せずには居られないだろう。
そんな相手から領民には手を出さない条件を持ち出されれば、断るリスクは取らないはずだ。
「そう上手く行けばいいが……しかし潜入にはリスクが伴う。副リーダーとして許可できん」
「じゃあ他に方法があるってのか?三日後なんてほんのちょっとの時間しかないんだ。僕なら打開できる、信じてくれ」
「幹部メンバーを集めて会議ってところかしらね。私達だけでは決められないわ」
帝国解放軍は大きな選択肢を求められた場合、幹部メンバーで多数決を取る。
民主主義だ、たとえ僕がリーダーだからといってその結果を覆すことはできない。
――――――
幹部メンバーを招集した頃には既に日も落ちていた。
別働隊のメンバーはすぐに戻ってこられる場所ではない為、集まったメンバーは全部で八人だった。
「幹部会を開くなんて何かあったのか?」
「ああ……カイ」
ドライに促され僕が口を開く。
「まず、三日後に帝国軍が攻めてくるという情報は前もって伝えておいた通りだ。その対抗策を思いついたんだが……ドライとラピスでは決めかねるって言われてさ。こうやってみんなに集まってもらったんだ」
そこからできるだけ分かりやすく、かつ同意してくれそうな言い回しで僕の考えた作戦を話した。
大半のメンバーはドライと同じように渋い表情だったが、もう半分は概ね反応は良さそうに見える。
「――とまぁこんな感じで三日後に備えるってわけなんだけど」
「アタシはあんまり頭よくないけどさ、それってリーダーがやらないといけないことなの?別に他のメンバーでも代用が効きそうなんだけど」
リアナが最初に口を開く。
言わんとしている事は理解できる。
僕のような解放軍の要を危険な場所に送り込まなくても他のメンバーにやらせればいいって事だろう。
しかしそれではうまくいかない。
そもそも相手に気づかせずにネウロの所まで行くのは至難の業だ。
それこそ僕のような能力がなければ学園都市に入ることさえ容易ではない。
「忍び込めるとすれば姿を消す能力者のみ……しかし、今は別働隊にいて帰ってきていない。彼を待つのなら二日後になる」
「それは不味いな……ただでさえどうやって対抗するかってレベルなのによ」
「だからといってカイを行かせるのは危険よ」
幹部メンバーは口々に自分の意見を述べていく。
「ここで言い合っていても仕方がない。多数決を取ろう」
僕がそう言うとみな一様に頷く。
自分を含めて三人は確実に賛成票をあげる。
ただ八人いる中で多数決を取るのなら五人が賛成しなければならない。
「三日後……今まで積み上げてきた僕らの軌跡が潰える可能性がある。それを回避できるのは僕の策しかない。……賛成の者は挙手を」
僕が真っ先に手を挙げるとラピスとドライが手を挙げた。
続いて一人が手を挙げ沈黙が続く。
四人なら丁度半分だ。
意見が割れるのだけは阻止したいところだが、今更何を言っても難しい。
「必ず生きて戻ると、約束してくれる?」
「リアナ?あ、ああ、もちろん約束する。僕はこの国を変える。僕のような境遇の人間を二度と生み出さないために」
「……はぁ、アンタまで死なないでよ?アッシュもアンタもいなくなればこの解放軍は終わるんだから」
リアナは溜息をつきながら手を挙げてくれた。
これで過半数を超えた。
「五人賛成により、今回は僕の策でいく」
「まあ……仕方ねぇ。死ぬんじゃねぇぞカイ。おめぇの能力は唯一無二なんだからな」
「ああ、任せてくれナクア。絶対にネウロを連れて帰ってくる」
ナクアは頭をかきながら半分呆れた表情で笑う。
彼は手を挙げてくれなかったが、多数決には文句を言えず渋々引き下がった。
「それで?誰を連れて行くつもり?」
「僕一人だ。ネウロを連れて帰るなら一人でなければ抱えて帰れないだろ?」
「護衛もなし、か。この街を落とした時と同じようにおぶって帰ってくるわけね?」
「そういう事だ。ネウロがデブじゃないことを祈るばかりだな」
ラピスのように軽ければいいが、身体が重ければ抱えて帰ってくるのは相当きつい。
会議はひと笑い起きたところで解散の運びとなった。
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