文化祭前日、クラスの裏でふたりだけの打ち合わせ
文化祭前日。教室はもうカオスだった。
模造紙の山、ガムテープ、買い出しメモ、謎のテンション。
誰が指示出してるのかもよくわからないまま、みんなが「まあなんとかなるっしょ」とか言ってる。
俺はというと、壁に貼る案内ポスターを黙々とカッターで切っていた。静かにしていれば、誰にも話しかけられない。それが一番平和。
そんな中。
「ねえ、渡辺ってさ、昼さぼれる?」
真横から突然聞こえた声に、カッターが手元から滑りそうになる。
声の主は星乃。俺にしか聞こえないくらいの小声だった。
「さぼるって、どこ行くんだよ」
「ちょっと、話したいことあるだけ。いいでしょ?」
星乃はそう言って、軽くウィンクした。
それ、ほんとやめてくれ。
俺は誰にも見られてないことを確認して、こっそり頷いた。
昼休み、校舎裏。
普段はほとんど人が来ない、古いベンチがある場所。
いつもより風が強くて、遠くから準備中の騒がしい声が聞こえてくる。
「ここ、意外と穴場だよね。風強いけど」
「お前、こんなとこ来たことあんのか」
「前にサボってたときに見つけた。てか、陽キャは意外と隠れ場所に詳しいんだよ?」
星乃はそう言って、缶コーヒーを差し出してきた。
「なんだこれ」
「感謝の印。毎回、配信の相談乗ってくれてるから」
「気まぐれだろ」
「うん、気まぐれ。でも、そういうのって大事じゃない?」
風の音の中で、彼女の声だけがやけにちゃんと届いた。
「で? 話したいことって?」
「うちのクラス、明日の出し物あれじゃん。“ミニ縁日”」
「ああ。俺、射的の景品係になった」
「そう。でね、そのBGM、あたしが担当なんだけどさ……ミル・ルナで使ってるフリー音源、流してもいいと思う?」
「それ、だいぶ攻めてない?」
「だよね。だからちょっと迷ってる」
「やめといたほうがいいと思うけど」
「……やっぱそうだよね」
星乃は少しだけ口をとがらせて、手に持った缶をぐるぐる回し始めた。
「でもさ、なんかもう、どっかで全部バレてもいいかもって思う瞬間があるんだよね」
「本気で言ってる?」
「ううん、半分本気。半分嘘」
「どっちにしても危ないだろ」
「だから、止めてくれてありがと」
彼女はそう言って、俺の隣に腰を下ろした。
距離が近い。いつもより、明らかに。
「明日、もし忙しくなかったら、ちょっと手伝ってくんない?」
「なにを」
「配信じゃなくて、リアルのほう。手が足りないと思うし。なんか、あんたと一緒だと安心できるっていうか」
「……人選ミスじゃない?」
「そっかな。少なくとも、あたしの正体バラそうとしないあんたが、今のところ一番信用できる」
そう言って笑う顔を、なんとなくまっすぐ見られなかった。
文化祭なんて、ずっと遠い行事だと思ってたのに。
まさかこんなふうに、
誰かと一緒に関わりたくなる日になるなんて、思ってもいなかった。
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