文化祭とバレかけの昼休み
文化祭が近い。
そう言われても、俺にとってはあんまり関係のない話だった。
どうせ当日は教室の片隅で軽食配るだけ。準備も出し物も、テンション高い人たちに任せて、俺は静かに雑用をこなすだけ。
だった、はずなんだけど。
「ねえ、文化祭さ、なんか地味に緊張するんだけど」
昼休み、誰もいない図書室の窓際。
星乃が突然そんなことを言い出した。
「なんで?」
「いや、ただでさえテンション上げなきゃいけないイベントじゃん。で、学校でも家でもずっと無理してたら、どっかでボロ出そうでさ」
「……そういうこと」
「もしちょっとでも“キャラじゃない部分”見せたら、周りにバレるかなって。あたしが意外とめんどくさいやつって」
「それ、誰でもそうだと思うけどな」
「そうかな。でも、あたしってさ、ギャップ出た瞬間に“裏切り”って言われそうで怖い」
星乃は軽く笑いながら言ったけど、その横顔はちょっとだけ本気だった。
俺は何も返せなかった。
今、言葉を選び間違えると、変なところを押してしまいそうな空気だった。
だから俺は、ただ一言だけ言った。
「大丈夫だと思うけどな。俺が見てる限り、今のままでも結構バレてるぞ、星乃の中身」
「なにそれ、褒めてんの?」
「さあ。たぶん」
そんな会話をした翌日、俺は教室でちょっとした会話を耳にした。
クラスの女子グループが、俺のすぐ後ろで話していた。
「ねえねえ、最近、星乃さんさ、なんかスマホ見てニヤけてること多くない?」
「それな。LINEかなんか?」
「彼氏できた説あるくない?」
「えー、でも星乃ってタイプ的に、ああ見えて理想高そうじゃない?」
「でも、誰かと付き合っててもおかしくないっていうか……」
そんな会話を聞きながら、俺は教室のすみっこでいつも通りスマホを見ていた。
画面には、昨日星乃とやりとりしたLINEの履歴。
「動画編集で迷ってるとこあるんだけど、また夜ちょっと通話してもいい?」
「いいよ。時間だけ教えて」
「さすが陰キャ、予定スカスカで助かる♡」
「うるさい」
このやりとりが、誰かに見られたら終わるんじゃないかってくらい、最近距離が近い。
星乃は今日も教室の中央で明るく笑っている。
でもふと、俺の方をちらっと見た。
目が合って、彼女は軽くウィンクしてから、すぐにまた話に戻っていった。
……おい。
そういうの、まじで、危ないからやめろ。
でも、俺はそれを止めなかった。
むしろ少しだけ、悪くないって思ってる自分がいる。
文化祭が近づくたび、緊張も増していく。
同時に、俺と星乃の距離も少しずつ、誰かに見つかるラインに近づいていた。
この関係が、ずっと“秘密”のままでいられる保証なんて、どこにもない。
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