ギャルと俺、そして非公式Vtuber研究会
翌日、昼休み。
教室の空気はいつも通りうるさくて、眩しいくらいに陽キャがはしゃいでいる。
その中心にいるのは当然、星乃美月。
笑顔を振りまき、男子にいじられ、女子からもキャーキャー言われている。
俺はいつものように教室の隅っこにいて、パンをかじりながらスマホをいじっていた。
さっきまで笑ってたギャルが、俺の方をちらっと見た。
目が合う。
すぐに逸らされた。
いや、俺も逸らした。
……なにこの、気まずい青春感。
教室ではお互いのことを何も知らないって顔してるけど、昨夜は二人でサムネの色調について二時間も話し合ったんだよな。
しかも途中で「ミル・ルナって名前、実は昔飼ってたハムスターの名前からとった」って雑談も挟んで、やたら打ち解けかけた。
この関係、どうなってくのかマジで予測不能だ。
そんなことを考えてたら、授業が終わって放課後になっていた。
今日も図書室の奥、誰も来ない参考書コーナーに行くと、星乃はすでに座っていた。
「おつかれー。ちゃんと来るとこ、えらいじゃん」
「来ないとお前が脅してくるだろ」
「脅してないし。お願いしてるだけじゃん?」
どの口が言う。泣くとか言ってたくせに。
「で、今日なにやるの」
「今日は、サムネとタグの研究会!」
星乃はそう言って、自分のスマホとタブレットを机に並べた。
どこで隠してたんだよってくらい機材が出てくる。準備が良すぎる。
「最近ね、同接安定してきたのはいいんだけど、新規が増えてないの。これってサムネとかが弱いのかなーって」
「ふむ」
「で、昨日の配信、これなんだけどさ。どう思う?」
タブレットに表示されたのは、昨夜の配信タイトルとサムネ。
「タイトルがちょっと普通すぎるかもな。『好きって言ってよ』だけじゃ、中身が見えないというか」
「それ、めっちゃ言われた。けど、重いタイトルつけると初見引かない?」
「じゃあ逆に、あえて重すぎるくらいにしてみるとか。『好きって言ってくれないなら……』とか」
「それメンヘラすぎて最高じゃん」
ノリノリである。メモを取りながらニヤニヤしてる。
「あと、タグも見たけど、ライバルの子とか参考にしてる?」
「ちょっとは見てるけど、なんかみんな似たり寄ったりじゃない?」
「逆に、ハッシュタグで遊ぶのも手だよ。『#病みかわ女子』『#もうだめかもしれない』とか」
「それ、タグだけで配信の情緒ぶっ壊れてて好き」
なんかこう、俺、普通に会話してるな。ギャルと。
しかも楽しい。なんでだ。
「てか、あんたって普通に話しやすいよね」
「……え、今の俺に言ってる?」
「ほかに誰がいるの?」
「いや、でも俺ってコミュ障だし、陰キャだし……」
「そういうのって、たぶん関係ないと思うよ。あたし、あんたのそういう言い方、わりと好きだし」
「どういう言い方?」
「わかんないけど、変に媚びてないとことか。ちゃんと指摘してくれるのもありがたいし」
急にそんなこと言われると困る。なんかこう、変な汗が出る。
「……じゃ、次の配信タイトル考えてよ」
「あ、うん。考えるけど……テーマは?」
「“恋ってめんどくさいけど、独りも寂しい”って感じ」
「えらいピンポイントな感情だな」
「ミル・ルナ的にはそこが一番響くから」
星乃はそう言って、少し笑った。
その笑い方は、教室で見るギャルの笑顔とはちょっと違ってて、
なんというか、素直にきれいだなって思ってしまった。
自分でそう思って、自分でびっくりする。
でも口には出さない。
俺たちはまだ、ただの研究会仲間だ。
たぶん、まだ。
おもしろい!と思ったら☆☆☆☆☆
つまんねー!と思ったら☆
今後の参考のために入れてもらえると嬉しいです!