これって……あの陽キャギャルじゃね?
昼休み。教室の隅っこ。誰とも話さず、机に伏せて、片耳だけイヤホンつけてる俺――渡辺湊。
いわゆる陰キャというやつだ。別に隠してはいない。むしろ開き直っているまである。
クラスの中心では、今日もギャルたちがキャッキャしていた。
俺はその喧騒をBGMにしながら、スマホでミル・ルナの昨夜の配信アーカイブを再生していた。
「ねぇ~、もぉ~、ルナのことだけ見ててよぉ……♡」
耳が蕩ける。
マジでこの声、反則すぎる。
甘え声でガチ恋営業かけてくる感じ、完全にプロ。
ルナ様は、フォロワー10万人目前の萌え声Vtuberである。
ちょっと病んでる風なキャラ設定と、異様にリスナー距離が近いセリフ回しが人気の秘密。俺は初配信から追ってるガチファンだ。
だけど……最近ちょっと気になることがある。
「これさ……どう考えても……ギャルの星乃じゃね……?」
ボソッと、独り言のつもりで呟いたその瞬間――
「――へぇ? あたしのこと、なにか言った~?」
背後から、陽キャ特有のキュルンとした声が飛んできた。
振り返ると、金髪巻き髪の美少女が俺の机に腕をついて、身を乗り出していた。
星乃美月。
このクラスどころか学年でも有名な、カーストトップの陽キャギャルである。
顔面レベルS。性格レベルC。男子には甘く、女子には意外と優しい。だが俺のような陰キャには、基本的に関わってこない存在だったはず。
……だった、はずなのに。なぜ今、俺のパーソナルスペース内に侵入してる?
「あれ~? さっき、なんか言ってなかった~?」
「い、いや別に……独り言で……」
「『ギャルの星乃じゃね?』って聞こえたんだけど~?」
「(やっべ!?)」
バチッと目が合う。
その瞳が、笑ってるようで笑ってない。俺、終わったかもしれん。
「……ばらしたら、ブチ殺すから♡」
ヒィッ。即死級のセリフ、出た。
笑顔なのに圧がエグい。てか、これ完全に本人じゃねーか!!
「ちょ、ちょっと待って、誤解で――!」
「うっそ♡ まぁ、言ってないんならいいけど~?」
こいつ、逃げ道を用意してくれてるフリしてるけど、目が本気なんだよな。
仕方なく俺は、首をぶんぶん横に振った。
「ほんとになにも言ってません! 絶対言いません! 見なかったことにします!」
「ふーん。ま、言わないならいいけどさ~……」
星乃はくるっと踵を返し、去ろうとする。
――が、その歩みを止め、振り返る。
「でもさ。陰キャが絶対言いません!って言っても、信用できないじゃん?」
「……」
「ってことで、取引しよっか?」
「……取引?」
なにを言い出すんだこいつは。
「放課後、図書室で待ってて。あたし、アンタに頼みたいことあるから」
え、それだけ?
てっきりSNSのアカウント削除しろとか配信見るの禁止とか言われると思ってたのに。
「いい? 来なかったら、それはもう裏切りってことで♡」
「……わかった」
俺はもう何も逆らえなかった。
*****
図書室のすみっこ、誰も来ない参考書コーナー。
そこにギャルがどかっと座って待っていた。完全に浮いてる。
「やっほー来た来た♡」
声デカい。ていうか、なにこの状況。
こっちはガチ陰キャだぞ?陽キャのギャルと放課後に図書室で密会って、なにプレイ?
「……で、なにを頼みたいの」
「あたしさー……最近、配信伸び悩んでるっていうか?ちょっと限界感じてて~」
「うん……?」
「だから、アンタの意見、聞かせて」
ギャルはスマホを俺の目の前に突き出す。
そこには、昨夜のミル・ルナのアーカイブ動画。
「やっぱ、バレてたんだよね……あたしがミル・ルナって」
「うん、たぶん」
俺は頷く。
「声とか口癖とか一致してたし、ASMRの時に言ってたあ、これ昨日のプリの話~♡っての、今日学校で言ってたのと一緒だったから……」
星乃は小さく舌打ちした。
「まじか~。やっぱバレてたか~。でも、アンタ以外にはバレてないっぽいし……アンタだけが知ってるってことだよね?」
「たぶん、そう」
「なら、ちょっと協力して?」
なんかこう、あまりに自然に話が進んでるけど、俺、陽キャギャルの秘密を握ってしまったんだよな。すごい状況だ。
「で、なにすんの?」
「んー、たとえばこのセリフ重すぎるとか、サムネで損してるとか、そういうの?」
ガチだ。このギャル、本気でVtuberとして悩んでる。
俺はちょっとだけ、胸の奥がチクッとした。
「……わかった。できる範囲で協力する」
「やった~♡ じゃあ今日から非公式Vtuber研究会ってことで!」
こうして、俺と星乃の――秘密の放課後が始まった。
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