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第八話


「あれがユイナさんの魔術……」


オルの脇に抱えられたミラがぽつりと呟く。

三人の視線の先には巨大な雨雲が強い雨を降らせていた。


「口ぶりからしてあの雨に当たるのは避けたほうが良さそうね。幸いロスは少ないし、ここまで来たら大通りを避ける必要もないわ。一直線に城まで行きましょう」


「そうだな。……ミラは自分で歩けるか?城まではさすがにおもグボォアッッ!!」


何やら口にしてはいけないことを口走りそうになったオルが顔にグーを喰らう。

ミラを抱えているため吹き飛ばされはしていないものの、弱い魔物程度なら瞬殺できる威力だ。


「だ、大丈夫ですっ、走れますから……!」


「そ、そうか。俺たちもミラに合わせるから、頑張ってくれ」


オルはミラを降ろすと、一行は城まで走り出した。

しばらくすると、路地を抜け大通りに出た。どうやらこの道が一番大きな通りらしく、城まで一直線の道のりの様だ。

三人は大通りを堂々と走っていると、数人の警備兵と出くわすがどれも特に描写する必要なくエルザの飛び蹴りやオルのラリアットでのしていく。

そして、いよいよティアン城の正門へとたどり着いた。


「結局、近道は使えなかったな」


「そんなの、蹴散らす敵がちょっと増えただけでしょ」


三人が門へと近づくと内側から門が開く。

中には百人弱の騎士が整列しており、その中から四人の騎士が前に出てきた。


「止まれ!そこの男女!」


「なるほど。誰も見ねえと思ったが、騎士はここに集められてたって訳か」


「オル、気を付けなさい。恐らくあの四人が副隊長とかその辺の実力のはずよ」


エルザの言う通り、前に出てきた四人だけは後ろに整列した騎士たちよりも少し豪華な鎧を着ている。

ただ副隊長かと言われれば、先ほどまで立ち会っていた隊長たちと比べてかなり実力は劣るように感じた。


「……ティアン騎士団ってのは割と人材不足なんだな?」


「あんなのがごろごろ居たら今頃大陸統一してるでしょうよ」


茶化すように言う二人に、青筋を立てながら一人の男が前に出てくる。


「随分と好き勝手言ってくれるじゃないか。───我が名はティアン騎士団パイシュレー隊副隊長!『重撃』のリキ!貴殿らの名を問おう!」


「あー、そういうの騎士道って言うんだったか?嫌いじゃないけど今はちょっとな......」


「ごめんなさいね、私たち急いでんの。名乗りとかはいいから一対四でやりましょう?」


エルザが騎士四人を挑発するが、彼らにも騎士道というものがある。

前に出て剣と盾を構えているリキ以外は微動だにせず、何も言わずただ立っていた。


「あちらさんも結構頑固だな?───ひとつ相談なんだが」


「言ってみろ」


「こっちから二人出すからさ、そっちも二人って訳には行かねぇか?」


「────いいだろう。誰か、武勲を立てたい者は」


「では、私が行こう。......我が名は────」


二人目が前に出て来て剣と盾を構え口上を述べようとしたが、それは叶わなかった。

数メートルの距離を跳躍して来たオルが、二人目の騎士を蹴り飛ばしていたからだ。蹴られた騎士は鉄の鎧の胸部をへこませながら飛んでいき、後ろの雑兵をなぎ倒した。


「なっ────!」


「この野蛮人が!」


後ろに控えていた隊長格二人が剣と盾を抜く。

名乗りも上げないあたり、最初はかなりオルたちを舐め腐っていたのだろう。


「最初からそーしてくれたらいいんだって」


一人目の騎士リキがオルから距離を取り、三人でオルを囲む。

ただ囲まれていても、オルは取り乱す様子も無く相手の武器に注目していた。


「エストック......そういえばあの隊長さんも持ってんのかな」


「三対一だが卑怯とは言ってくれるなよ!」


先に動き出したのは、一人の騎士だった。


「あの......エルザさんは加勢されなくていいんですか?」


ミラが不安そうにエルザに問う。

それもそうだ。一瞬で一人戦線離脱させたからと言って、それは不意打ちだったし今度は三対一なのだから。

ただ、エルザはすでに正面で行われようとしてる戦闘に興味は無いようで、城の上の方を指さした。


「まあ大丈夫でしょ。それよりミラ、皇后の寝室ってあの辺?」


「え?すみません......寝室の場所までは把握してなくて......」


「んー......まあ、上を目指せって言ってたし多分あの辺でしょ。最悪しらみつぶしに回ればいいし」


「終わったぜー」


顎に手を当てて考えるエルザとともに城の上の方を見つめていると声がした。

あまりにも早い終了に驚いたミラが声の方を見ると、おそらく剣も抜いていないであろうオルと積み重なって倒れている三人の騎士が居た。


「意外と早かったわね。じゃあ行きましょうか」


今度は三人の前に雑兵たちが立ちはだかる。

副隊長がやられてもなおオルたちを通すつもりは無いようだ。


「その姿勢には拍手だけどさ。さすがに相手にはなんないと思うぜ?別に誰も殺しちゃいないんだし、あんま手荒な真似はしたくないんだけど......」


「あ、あの!通してくれませんか!?」


「ミラ様のお願いと言えどここを通す訳には行きません!我らティアン騎士団は皇帝直属の騎士!ミラ様だけならまだしも、部外者を通したとなれば隊長に殺されてしまいます!」


だが、言葉とは裏腹に騎士たちの顔は強張っている。

圧倒的な実力差を前にして、体が戦うことを拒否していたのだ。


「待って......下さい......っ!」


オルとエルザが構えようとしたその時、騎士たちの後ろからか細い女の声が聞こえた。

声の主は騎士の列をかき分け姿を現したのは、白髪の華奢な少女だった。

ただ、腰に携えたロングソードとその恰好から騎士の一人で間違いないだろう。


「エウドーラ様!」


一人の兵士が名前を叫ぶと、エルザはすぐさま対面の人物を推測した。


「エウドーラ......。あんた、キリ・エウドーラ?」


エルザの推理は的中していた。少女の名前はキリ・エウドーラ。エウドーラ隊の隊長で、ユイナから聞いた話だと城内の警備を担当しているはずだった。おそらく外の喧騒を聞いて出てきたのだろう。


「みんな......もう、大丈夫だから......。ミラ様とお二方は、こちらへ......」


「お、いいのか?」


「エウドーラ様!?」


城内へ案内しようとするキリにオルと騎士の一人が同じ反応を見せる。

キリは一度振り返り、少し微笑みを見せただけで前へと進みだした。

呆然とする騎士たちの間を通り、オルたちは城内へとすんなり入ることができた。


「キリ・エウドーラ。聞きたいことがあるんだけど」


「何でしょう......」


ゆっくりとした歩みで先頭を歩くキリは、振り向かずに返事をした。


「あのめんどくさい騎士連中を守ったのはわかるわ。ただ、私たちを何の目的があって、どこに連れて行こうとしているの?」


「私は......皇后様より、皆様を謁見の間に連れてこられるよう言われています......」


「(ユイナに任せた二人の隊長たちと随分雰囲気が違うわね......。洗脳に深度があるとか......?)あらそう。それならこっちから探す手間が省けたわね」


「あの、私からもいいですか?」


続けざまにミラが挙手をすると、キリは前を歩きながらコクりと頷いた。


「どうぞ」


「あの......貴方たちティアン騎士団と皇后......あの人は、私を殺そうとしているのでしょうか」


「......分かりません。私たちは、あなたを連れて来いとだけ命令されています」


淡々と知っている情報だけをキリ・エウドーラは答えていく。

その言い知れぬ不気味さにミラの心に抱えていた恐怖が少し大きくなる。


「なあ。ミラが死んだら皇帝の血が途絶えるってことは知ってるよな。それはいいのかよ?」


「私たちは......」


次の言葉に言い淀んでいるのか黙ってしまう。

オルが追求しようとしたところで立ち止まり三人の方へと振り向く。

気付けば扉の前にたどり着いていた。過度な装飾の無いただの大きな扉。

しかし、その扉の奥から感じる雰囲気が謁見の間に到着したことを理解させた。


「到着いたしました。これより先は......我らが主の御前です。失礼の無きよう......」


キリが三人に軽くお辞儀をすると門が開いた。

深呼吸するミラを置いて、オルとエルザはずかずかと中に入っていく。


「ふっ、二人とも......!」


「ミラ、あんたは今から怪物をぶっ殺すの。そんな奴に礼節もクソもありゃしないわよ」


別にミラは礼節がどうとかではなくただ呼吸を整える時間が欲しかったのだが、エルザには伝わっていないようだったが、結果的にそのエルザの態度がミラの緊張を和らげることになった。


「久しいなぁ、ミラ・ティアン」


三人が部屋に入ると広い空間に声が響き、全員の視線が自然と声の元に吸い寄せられる。


「やっぱり、元の皇后様はもう......」


青白い肌、尖った耳。

ミラの目に映ったのは、まぎれもなく魔族の姿だった。

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