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第七話

今年もよろしくお願いします。


それにしても、騎士団を動かせない代わりに隊長が飛んでくることを見越してユイナに特徴を聞いておいて良かった。

用意周到な過去の自分を心の中で褒めつつも、エルザはつい先ほど教えられた隊長たちの特徴を思い出していた。


────────


「次は、アンブロシア隊のカナタ・アンブロシアかな。アンブロシア隊は隊自体の序列は四位なんだけど、カナなん個人は上から数えたほうが早いね。後は......エルっちが前に言ってた通り隠密に長けてて、すぐには逃げられないと思った方がいいと思う」


その言葉にオルとエルザの顔が歪む。

先ほどと打って変わって、今度はあまりにも聞きたくない情報だった。


「強くて逃げられないって、出会ったらかなり面倒ってことじゃねぇか......!」


「うん、本来はかなりの面倒くさがりなんだけど、洗脳されてる今はどうかわかんないし......。とにかく、出会ったら私が対峙するよ」


「えぇ。そんなヤバいの、初見の私たちで正直対応できる気がしないから任せたわ。一応特徴やらも教えて頂戴」


「うん、まだヤバい情報残ってるしね。使ってる武器は短剣かショートソードで......姿を消す魔法を使うの」


オルとエルザの顔が表情筋の限り歪んだ。もはや顔芸の域に到達しつつある。

ミラもどうやら騎士団の詳細な実力は知らないらしく、先ほどから絶望した表情のままだった。


「でもでも!姿を消す魔法は長く持たないし早く移動もできないから、多分オルくんとエルっちの実力なら全力で逃げれば逃げられると思う......多分」


「多分って......ま、次だ次。アンブロシア隊の隊長さんはユイナが相手してくれる予定だし、他を重点的に対策を練るしかねぇ」


「うん、多分一番身近にいる私しか対応できないと思う。じゃ、次行くね」


「エウドーラ隊隊長のラシャーク・コロニス。武道にも魔術にも長けてる。シャクやんは黒髪の長身長髪で、エルっちよりも身長が高いからこっちも多分すぐ分かるはずだよ」


「長いリーチを振り回してくるオールラウンダー......面倒ね」


「こっちはちょっと安心してほしいのが、彼女の本来の強さは騎馬で発揮されるってことかな。さすがに街中や城内で乗る訳にもいかないから多分斧槍を担いでくると思うし、ちょっぴりマシなはず......」


「なるほど......対騎馬なんてあんまり戦闘経験ねぇし、そこはラッキーだな」


────────


「オル、さっきユイナから教えてもらった情報は覚えてるわよね?」


「おう」


警戒する四人とは打って変わって武器こそ抜いているものの、二人はまるで散歩でもするかのように歩いてくる。


「そう警戒しないで欲しいな。私たちはただ、ミラ皇女が欲しいだけなんだ。話し合いで済むならそれが一番なのだけれど、どうだろう?」


右手に斧槍を持ち、手を広げて敵意が無いアピールをしながらラシャークが近づく。

武器を抜いている以上敵意が無い訳が無いのだが、その演技力はミラはおろかエルザやオルまでもが騙されそうになるほどだった。


「どうだろう?じゃないわよ。んな簡単に依頼主を渡すもんですか」


「シャクやん、カナなん。ここは私の顔に免じてどうか通してくれないかなー、なんて......」


ユイナが歩いて前に出たその時だった。

ラシャークの身体がブレる。彼女が居た場所の地面は抉れ、一瞬のうちにユイナが居た場所には足を振りぬいた状態のラシャークが立っていた。


「っ、油断しすぎなのよ......!」


蹴り飛ばされたユイナは数メートル離れた家の外壁に激突する。壁は大きく音を立てて崩れ、土埃を巻き上げ彼女の姿は見えない。オルとエルザはミラを守るべくユイナの元まで後退した。


「ユイナ!大丈夫か!」


「あー、ごめんごめん!ちょっと油断してたー......!」


オルが声を掛けると、いまだ巻き上がる土埃の中からユイナが現れる。

あの一瞬の蹴りに反応し防御していたようで、傷一つ見当たらない。


「ふふ、さすが私の愛する友だ。そうでなくてはね」


ラシャークが全身で喜びを表現している間に、オルはラシャークの後方に居るカナタ・アンブロシアの半身が消えかかっていることに気付く。すかさず懐に持っていた短剣を投げつけると、避けられてしまったが姿を消す魔法の詠唱を中断させることに成功した。


「チッ......」


「あんたも大概面倒だからな。目は離してないぜ」


その場に膠着状態が訪れる中、ユイナがエルザに近づき耳打ちをする。


「エルっち、何とか足止めしてみるから突っ切れる?」


「......わかったわ。死ぬんじゃないわよ」


「随分と秘め事が好きなお姫様たちだ。私も混ぜて貰ってもいいかな?」


「いやいや、こっちの話なんでね......じゃ、始めよっか?」


再びユイナが三人の前に出ると、両手を広げた。

そのモーションに各者各様の反応を見せるが、ラシャークとカナタが見せたのは焦りの感情だった。


「ラシャーク、先にユイナを止めないと......!」


「もちろんだ。......ユイナ!私たちを殺す気かい!?」


「なーに言ってんの。私が決定打に欠ける術しか持ってないの知ってるくせに」


「オル!離れるわよ!」


「了解だ!ミラ、ちょっと揺れるぞ!」


「きゃぁっ!」


目標が離れることよりも先にユイナを止めなければいけない。

その術の威力を知っている二人はユイナの元へ走り出したが、迫りくる二人の手は届かず魔術が発動した。


「【矢雨(やさめ)】」


星と月が雲に隠れ、ぽつ、ぽつと雨が降り始める。

大きな雨粒は次第に数を増し、終いにはユイナの前方数百メートルを豪雨が包み込んだ。


「ぐっ......!!」


「この量......結構本気じゃなーい......?」


ラシャークとカナタが崩れ落ちる。

もちろんこれはただの雨ではない。性質はほぼ水だがすべての雨粒に魔素が込められており本来の水の数倍の重さを持つ。そして、降り注ぐ雨に使用者のユイナ以外が触れると矢が掠めたような切り傷を負ってしまうといったものだった。


「ふふーん、私も結構やるでしょ?」


豪雨の中、膝をつくラシャークとカナタの元にユイナが歩いてくる。

すでに髪や衣服に染み込んだ水分によって、ユイナが術を解除するまで二人は身動きが取れないだろう。

そのはずだった。彼女が現れるまでは。


「コラ、ユイナ!二人をいじめるのはやめなさーい!!」


この場に相応しくない声量、声色が豪雨をかき消すようにこの場に響き渡った。

地に伏せている二人の顔は見えないが、唯一、立っているユイナの顔には絶望の表情が浮かんでいた。


「う、嘘でしょ......いくら何でも早すぎない......?」


彼女の前には、ティアン騎士団団長兼パイシュレー隊隊長 アンジェ・パイシュレーが立っていた。

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