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第五話


「それで、特訓って何するんですか?」


決行日の前日の昼。オル、ミラ、エルザの三人は睡眠をとった後オルの部屋に集まっていた。

一度城外に出て特訓する話もあったが、ミラを隠し通せる気がしなかったので室内で済ませることにした。


「そんな難しいことじゃないわ。時間も無いし、今あんたができることをできるだけ私が伸ばしてあげるから安心なさい」


「は、はいっ」


まるで教師のように振る舞うエルザに、ミラの背筋がピンと伸びる。


「まず、事前知識の確認ね。あんた、魔導の知識はある?」


「一般教養程度なら......」


「そうね......この国の一般教養がどの程度か知らないけど、仮にも皇女様だしある程度は省いて説明するわよ。魔法か魔術の心得はある?」


魔導、魔法、魔術......前にこの辺の授業をエルザにしてもらったことを思い出したが、理解力がまったく及ばず呆れられたことだけがオルの記憶には残っていた。


「それも、下級の魔物など相手にある程度自衛できるとは思いますが、流石に騎士団のみんなや魔族を相手には歯が立たないかと......」


恐らく、口ぶりからして実力は駆け出しの冒険者程度だろう。

王族ともなれば全くの経験が無いことも覚悟していたが、ミラは妾の子でさらには末妹ということで本来の王族とは異なる教育を受けていたのだった。


「馬鹿ね。誰もそんなこと一晩で覚えてもらおうと思ってないわよ。それに、普通の人間の魔素の量じゃ魔素の塊みたいな魔族どもに勝てっこないし」


「じゃあ何を特訓するんだ?エルザの話を聞いてた限りだとミラの実力だと何やっても駄目みたいに聞こえるけど」


オルの心無い言葉にミラは少し落ち込むが、何も間違ったことは言っていない。

彼の言う通り、ミラの実力では相手に傷一つつけられないことは自明だった。


「それがあんのよ。魔導士にだけ使える対魔族用の必殺の技がね」


対魔族用の必殺の技。

その言葉を聞いて二人は首を傾げる。そんなものがあれば魔王や魔族にここまで苦戦していなかったはずだし、仮にあったとしてもミラほどの実力の人間に扱えるものではないだろう。


「そ、そんなものが......?」


「んなもんあんならさ、何で誰も使わないんだ?」


「使わない、じゃなくて使えないのよ。理屈は分かっていても状況が限定的すぎるの。とりあえず見せるわね。こうやって────」



────────



「こ、こんなことで本当に魔族が......?」


「これがやつらの長所であり短所になるわ。ちなみに、人間には効かないわよ。魔族連中はそもそも人間と体の構造が違うんだから」


「はぇ~......何やってたのか全然わっかんなかったわ」


エルザがミラにレクチャーを始めてから2時間ほどが経過した。

宿屋の中だからさほど大きなことはしないだろうと思っていたが、想像よりもかなり地味な、それもほぼ授業のような内容だった。


「ありがとうございます......。あの、エルザ」


「何?」


「確かに、エルザさんの戦える人物が一人でも居たほうがいいという考えには賛成なのですが、『これ』は使う場面が来るのでしょうか......」


「確かに、どうやって状況を作り出すかはどうすんだ?最後の手段みたいな感じか?」


「そんなの決まってるじゃない、私たちで何とかすんのよ。──もちろん、隊長さんにも手伝ってもらうわよ」


エルザがありえないことを言い出した。てっきり、最後の自衛手段として教えていたのかと思ったが、この口ぶりからすると確実にミラがこの技を使う場面が来るということだろう。

ミラもそれに気づいていたようで、震えながら挙手をした。


「あの、これってエルザさんじゃダメなんでしょうか......?」


「はぁ?駄目に決まってんじゃない!あのね────」


自信の思惑が伝わっていなかったことに気付いてミラの方に向き直り、深呼吸をすると静かに口を開いた。


「これはあんたの戦いなの」


「────!!」


「仮に私やオル、ユイナが魔族を殺したとして、ほとんどの国民はその事実を知る訳も無いわ。でも、今認めさせないといけないのはティアン隊の隊長どもでしょ?」


「いい?これからこの国を引っ張っていくのはあんたなんだから、魔族の一体や十体くらい、次期女帝様の力でぶっ飛ばしてやんのよ!!」


物騒なことを言う女にオルは若干引いていた。

だが確かに、過去の歴史では傲慢だったり怠惰だったりした王たちはすべからく失敗をしてきている。

もちろんミラはそんなタイプには見えないが、そもそも王としての器に足りていなければ同じ結末を辿ってしまうというのがエルザの考えだった。


「さ、さすがに十体は無理かもしれないですけど......私の力で、この国を救うことができるのなら。やります!!私が、魔族を殺します!!」


物騒なのが二人に増えた。オルはミラの将来が少し心配になった。

だが怖気づいたまま城に乗り込むよりも、この状況の方が良いのは明白だった。


「うし!じゃあミラは今日一日それの特訓か?」


「残念だけど、これで終わりよ。この技は下手に練習すると手癖ができちゃうから、下手な方がかえっていいの」


「大丈夫なのかそれ」


「心配ないわ。魔術や魔法使うよりも簡単なんだから。ね、ミラ?」


エルザの問いかけに呼応するようにぐぅ、と言う音が鳴る。

音の方向を見ると、顔を真っ赤にしたミラがお腹を押さえていた。


「ははは、ちょっと早いけど夕飯にするか!」


「ふふっ、そうね。慣れないことを頑張ってたし、そりゃお腹も空くわよね」


「も、もう二人とも!笑わないでくださいっ......!!」

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