第三話 人さらいはやめたほうがいい
小説家になろうでお話を書いたことが無かったので、一話2500文字~4000文字が良いと最近知りました。
二話がちょっと長かったかなと後悔していますが、早めに気づけたことをプラスに捉えることにしました。
ぱちり、とエルザの目が開いた。
時間に厳しい彼女は交代時間ギリギリまで寝ているオルと違い、五分前に目を覚ますのが習慣になっている。
それにしても、中々凄いことに首を突っ込んでしまったものだ。国に来た初日に皇女様が上から落ちて来て、数日後には国家転覆......とてもこれまでの生活からは考えられない出来事ばかりで頭が痛くなる。
数日後の自分たちの身を案じながら、最低限の装備を持ってオルに交代を告げに行く。
がしかし、部屋を出たところですぐそこに居るはずのオルが居ない。彼は能天気だが、仕事をすっぽかすような人間ではないことはエルザがよく知っていた。
それにミラの部屋の扉が開いている。
ミラの部屋に入ると目に入ってきたのは乱れた布団、開いた窓。窓の外を見てみるが人影はない。
「(窓枠に土がついてる......)」
「ここ三階なんだけど......よく登って来たわね」
そうなれば話は早い。恐らく相手は貴族の手先あたりだろう。
エルザはすぐに装備を整え宿を玄関から出ると、貴族街の方向へと走り出した。
────────
「あいつ......早すぎだろ......!」
オルはミラを攫ったローブの人物を追って街中を駆けまわっていた。
この国の地理に詳しくないため、一度でも見失ったら終わりだろう。
月明かりを頼りになんとか目の前の人物を追っているが、思っているよりも距離が縮まらない。
「(一応射程圏内だが、俺のは精度がそんなに良くねぇからミラを傷つけちまう......!)」
幸い相手もそこまでこの辺に詳しくないのか、細かい路地に入って行こうとはしない。
そして、意外にも早く追いつく時が来た。
平民街と貴族街を隔てる壁。エルザの話だとこの壁を抜けるための四つの門は兵士によって常に監視されていて、たとえ許可の出ている人間だとしても簡単には出入りできないらしい。
「はぁーっ......やっと追い詰めたぞ。多分そっから先が貴族街なんだろ」
オルとローブの人物の距離は数十メートル。逃げ道は数メートルの外壁に沿って走るしかないが、直線勝負となればもうオルが取り逃がすことは無い。
ローブの人物は逃げるのをやめたようで、オルの方へと向き直った。
「ありゃりゃ、追いつかれちゃった」
「女......?」
ローブの人物の声に驚く。女一人を脇に抱えてあの速度で走っていた時点で勝手に男だと思っていたが、どうやら違っていたようだ。
「ま、皇女サマ抱えたままじゃ無理も無いか。ちょーっぴり悔しいけど仕方ないよね、うんうん」
「おい、いつまで一人でぶつぶつ言ってんだ。うちの雇用主返してもらうぞ」
「ま、待った待った!さすがに人抱えて戦えないし、元から戦うつもりなんてそんなにないから!まずは話あお!?」
どうやら相手の様子がおかしい。
ただ、こちらの油断を誘う作戦の可能性も十分にある。
腰の剣を抜き、攻撃が届く範囲までにじり寄る。
「......とりあえず、顔でも見せたらどうだ?」
オルに言われるがまま正面の女はフードを外すと、黒髪の細いツインテールの少女が現れる。
黒を基調とした軽装鎧。刻まれたティアン帝国の国章から、相手の所属を知るには十分だったが、オルの意識は別のところに向いていた。
「ユイカ......!お前、ティアン騎士団だったのかよ」
この国を訪れたばかりに宿を紹介してくれた明るい少女がそこに居た。
どうして俺らを最初にあの宿に案内したのかは不明だが、確かにユイカならすぐにミラを攫うのも容易だっただろう。
「ユイカ......?ああ、それは私の双子の妹だよ。ちなみに、ユイカに宿を紹介してもらったと思うんだけどそれは本当に偶然でさ。私は皇女サマの魔素を辿って来ただけだから、可愛い妹を恨んだりしないでね?」
「そうかよ。......まあ、もう攫われちまったわけだし別にユイカに恨みはないぜ。で、ユイカじゃないならあんたは誰なんだ?」
「ああ、私の自己紹介がまだだったね────ティアン騎士団クレイア隊隊長のユイナ・クレイア。以後お見知りおきを。もちろん、お連れの方もね?」
ユイナの目線の方を見ると、エルザが追い付いてきていた。
エルザは一瞬オルに目線を配った後、まだ戦闘前だということを知って安堵のため息をつく。
「エルザ!えーっと......」
「大丈夫、説明は要らないわ。大体ここに来るまでに状況は整理してきたから。初めまして、ティアン騎士団の......クレイア隊隊長さん?」
何も説明していないというのに、ユイナがどこの隊の隊長なのかまで言い当てたエルザに二人とも驚く。
「ちょっとちょっと......どうして私がティアン騎士団の、それもクレイア隊の隊長って分かったのさ」
明らかに動揺した様子でユイナが問うと、エルザは二本の指を立てた。
「一つ目、貴族の手先ならミラの殺害が目的なんだからわざわざ攫うなんてことしないでしょ」
「(た、確かに......)」
言葉では出さないがオルの頭にはただ敵っぽいというイメージだけで、その発想は思い浮かんでいなかった。
「次に二つ目、あんたたちが有名だからよ。顔こそ知らないけど、ティアン騎士団でこういったことをしそうなのは遊撃に長けたクレイア隊か隠密に長けたアンブロシア隊。クレイア隊って断言したのは......勘ね。あんまりあんたが隠密部隊の隊長って感じしないし」
「うひゃー......それここに来るまでに考えてたってこと?じゃあじゃあ、どうしてここが分かったのさ?」
「多分あんたがミラを攫ったのと同じことをしたまでよ。そんなことより、隊長のあんたが出て来てるってことはなんか理由があるんでしょ?」
「確かに。ティアン騎士団ってのは、隊長が出張らないといけないほど人手不足なのかよ」
「うーん、痛いところを突くねぇ。ま、とりあえず立ち話もなんだし、ちょっと移動しない?ほら、皇女サマも立って立って」
ユイナがミラの頬をぺちぺちと優しく叩く。
さっきから喋らないと思っていたミラだったが、どうやらユイナの激しい動きでノビていたようだった。




