第二十話 飛ぶことに憧れない方がいい
「......やはり来たか」
「おほほ。私が飛べないこと、まさか忘れたわけじゃないでしょう?」
背中の翼をはためかせながら化け物の前方にキーラが飛び出る。
速度としては化け物よりも上で、これはこれまでの殺し合いの間に何度かみた光景だった。
「無論、ただ無策で飛んだわけではない──『ウインドブラスト』」
「(魔術っ......!?)」
化け物が正面に両手を構え、そして始まる魔術の詠唱──化け物の手から放たれる暴風をもろに食らったキーラは数キロ先に吹き飛ばされてしまう。
自身の飛行速度にさらに風圧が加わり、制御できない速度で吹き飛ばされたキーラは速度を殺しきれず地面に激突する。
「どこで覚えてきたかはわかりませんが......虚をつかれましたわね......。早く向かわないとみなさんが......」
土煙が巻き上がる中、キーラは自身のドレスをはたきながら立ち上がり呟いた。
一方。化け物の方にも誤算があった。
本来であれば山に風穴を開けるほどの魔術を前方に使用したため、その反動で想定していた場所より着地がずれてしまう。
そして落下地点には──緑色の雷光が走っていた。
「追いついた......!まずはその足、ぶった切ってあげる!『迷雷 -雷刃-』」
エルザは手に持っていた背丈ほどの長さの杖に雷を纏わせると、そのまま振り上げる。
足を狙ったそれは、化け物が身を翻すことで躱された。
「武器強化か......だが、身体能力を向上させたときほどの速さが無い......武器の扱いには長けていないようだな」
「チッ......」
図星だった。エルザはまだこの杖を使い始めてから日が浅く、自身の速さを完全には活かしきれていなかった。だが、それを敵に指摘されて素直に受け入れられるほどエルザは人間ができてはいない。
率直に言うと───イラついていた。
「......出力、上げるわよ──『ライトニングネオン』」
エルザの体全体がさらなる帯電を始める。
それは、周囲の草も焼き切るほどの強い雷光を放っていた。
『ライトニングネオン』。
アンジェとの戦闘でも使用したそれは、自身の体や触れているものの一部を帯電状態にする『迷雷』とは異なり、数分間の間だけ自身を完全な雷とする魔術。
「『雷旋脚』」
「がっ......!!」
化け物がエルザを視認するころには右側頭部に強い衝撃がくる。
反応できない速度で蹴られたことにより、遅れてきた痛みを感じた方を腕でガードするがすでにエルザは次の行動に移っていた。
「『雷神貫手』」
「ぐうぅぅ......!!」
雷の速度で叩きこまれた貫手は化け物の脇腹に突き刺さり、確実にダメージを蓄積していく。
刺さった腕を引き抜くとその場所からどばどばと血が漏れ出し、化け物がエルザを払いのけようと腕を振るが、エルザはすでに距離を取っていた。
「はぁっ......はぁっ......そんだけ血を失えばもう再生はできないんじゃない?」
「......そういう貴様も、先ほどから見せている2種類の雷を纏う技。中々消耗が激しいようだな......」
傷こそついていないものの、誰が見てもわかるほどにエルザは肩を上下させている。
それは単純な魔素の消費だけではなく、あの速度で肉体を動かしつづけたことによる疲労だった。
「はぁっ......そうかもね......でも、私はあんたと違って一人じゃないの」
「......あの男か」
「......そ、言っとくけど............あいつ、私より強いわよ」
「エルザ───!!」
エルザの声に呼応するように大声が響き渡る。
「はぁ......バカ、遅いわよ......」
オルに悪態をつきつつも、エルザはその場に座り込んだ。
もう身体に雷は走っていない。
「(......この女は頭が回る。油断を見せていても抵抗できるだけの力は残しているだろうし、この女から血は補充できん......。となると、最も近い人間までもう少し移動せねばならんな......あまり時間もかけられん)」
「どーした。もうキツくて声もでねぇか?」
「(魔術の使用はあと一回......)......馬鹿は口だけが回る」
「んだとテメ......!」
完全にカウンターを食らったオルは、言葉よりも先に走り出した。
「(この男の実力はわからんがとりあえず速さは無い。頭も回らんようだ......だが、先ほどの女の発言が引っかかるが......それもブラフ......?)」
オルが距離を詰めてくる間に化け物は思考を回す。
だが、数メートルの距離になっても何か攻撃してくる様子を見せなかった。
「(......ブラフか。右手の剣に仕掛けがあるようにも見えん)」
「うお、はや──」
当たり前だが、オルの射程よりも化け物の射程が広い。
先に繰り出された化け物の右フックはオルに突き刺さった。
「なんちゃって」
「───......なるほど。そういうことか」
その一撃で化け物はエルザの言葉の意味を確信する。
数倍も対格差がある化け物から放たれた拳が、受け止められていたのだ。
「(この膂力......吸血鬼の王以上か)」




