第十二話 困りごとは聞いた方がいい
魔族との戦闘から数日後。
ミラの即位は驚くほど早かった。催眠が解けたユイナ以外の四人に事情を話して、その日の内にはほとんど事が進んでいたらしい。皇帝が亡くなっていたという説明も、ある程度の民は理解してくれたらしい。
ただ、大臣たちの問題やミラの急な即位に不満を持つ国民など、まだ解決していない問題はたくさんあるが彼女の手腕なら何とかできるだろう。
一方俺たちはというと──。
「仕事、どーすんだー?」
「んー......明日でいーんじゃない?」
オルとエルザの二人は、依頼の報酬としてミラから貰った金で昼間から酒場で飲んだくれていた。
この辺りの店のメニューは大体制覇しきってしまったし、依頼ついでに他の街や国に行こうにもそういう依頼も最近はない。
「兄ちゃんたち、まだ若いのにここ最近ずっと飲んでるよなぁ。何かあったのかい?」
あまりの様子に見かねたのか、近くに座っていたガタイの良い男が声を掛けてきた。
「んぁ、まー、逆になんもないっつーか。おっちゃんは?」
「おっちゃんは大工だからさぁ。雨の日は休みなのよ。ほら、一昨日あたりから雨が続いているだろ?」
「確かに......ねぇ、おじ様。私たち最近ここに来たばかりなのだけど、この辺りでこんなに雨が続くことってあるのかしら」
「いや、結構珍しいな。ティアン帝国は年中晴れてることが多いんだが、こうも雨が続くことは生まれて初めてかも知れねぇ」
「ふーん......」
エルザは何かを考えながらエールを口に運ぶ。
すると、立っている男の反対側の席に誰かが座ってきた。
「楽しそうな話をしているね。混ぜてもらっても?」
「あ、あんたは......!」
「あ?ってあんた......えーと......」
座ってきたのはあの夜、四人の前に立ちはだかった騎士の内の一人。コロニス隊の隊長。ラシャーク・コロニスだった。
「......ラシャーク・コロニスじゃない。皇帝直属の騎士様が一体ここで何してんのよ」
「ふふ、二人の力を見込んで頼みがあってね。これから時間あるかな?」
皇帝直属の騎士からの依頼。彼女らが個人的に依頼してくるほど会話しても居ないし、これはつまるところ皇帝からの依頼だろう。それも皇帝直属の騎士で対応できないレベル。
オルとエルザの二人は嫌な予感をひしひしと感じていた。
「あ、えーと......俺ら実は結構忙しくてさ......!」
「おや、部下からの報告だと朝から飲んだくれていると聞いているけれど、違ったかな?」
「な......!どっかで監視してたのかよ......!?」
「ふふ、鎌を掛けてみたのだけれど、どうやら当たっていたみたいだね」
ラシャークの盛大なブラフに引っかかったオルにエルザは頭を抱える。
「あんた......バカすぎ......」
「じゃあ行こうか。ここのお会計は済ませておいたから」
そうして三人は店を出ていくとそこには、ガタイの良い男が一人取り残されていた。
「あいつら......そんなに凄いやつだったのか......」
オルとエルザはラシャークに連れられてティアン城内に来ていた。
ここに来るのは魔族と戦ったあの日以来だ。
「ミラの時はまだしも、騎士団はもう十分に動ける状態なんだろ?部外者の俺たちにまだ何か用があるのか?」
「そうだね......。正直に言うとこの間の件の後処理というか、主にミラ様の引継ぎで時間がかかっていてね。騎士団も中々動けない状態なんだ」
「なるほど......。それで見知らぬ冒険者よりも多少関わりのある私たちにってことね......」
「ああ、詳しい話は中で。──失礼します」
ラシャークが客間の扉を開ける。
豪華な装飾の部屋の中央には、テーブルを挟む形でソファが置かれていた。
その上座に座っていたミラが立ち上がる。
「お二方とも、お越しいただきありがとうございます」
「よおミラ。数日ぶりだな」
ミラの深々とした丁寧なお辞儀にオルは軽い会釈で済ませる。
とても一国の王に対する態度ではないが、この場ではそれを咎める者は居なかった。
「それで、今日は何の用事?......察するに、荒事でしょうけど」
ソファに腰掛けながら早速本題に触れるエルザに、ミラが驚いた顔をする。
「そもそも私たちを頼る時点で荒事しかありえないでしょ。私たちは傭兵で、あの日は戦闘しかしてないし」
「あはは......。はい、エルザさんの言う通りです。まだ国の内政が落ち着いていないので騎士団を動かすことができずどうしても外部の方の力を借りなければならない状況なのですが、そこでお二方のお顔しか浮かばず......大変申し訳ないです」
「───......しょうがないわね。ま、私たちは報酬さえもらえれば大体のことはするから、とりあえず内容は聞くわ。話はそれからよ」
小さくため息をつきながら背もたれに背を預けるエルザにミラは少し安堵する。
そして、前のめりになりながら二人の目を見て口を開いた。
「今回、お二人にしていただきたいのは......吸血鬼退治です」
「無理、帰る」




