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第十一話 勝負は勝った方がいい


羽交い絞めにされながらも落ち着いた様子で魔族が口を開く。


「貴様、人間の枠組みでアンジェ・パイシュレーに勝ったというのか」


「勝ったっていうかは微妙だけどな、団長様はあっち」


オルが自信の後ろを指すと、そこには人が通れるほどの大きさの穴が開いた窓ガラスがあった。

おそらくアンジェは窓の外と言うことだろうが、ここは3階だった。


「お、オルさん......!まさか突き落として......!?」


「まーあの頑丈さなら大丈夫だろ。それより、チャンスは今しかないぜ」


「(......あれを使うしかないか。努力が水の泡だが、魔王様復活まではまだ時間がある)」


危機的状況でも魔族が落ち着いた様子で居られたのは、オルたちと同じくまだ奥の手を隠していたからだ。

体内の魔素を一点に集中させる。高濃度の魔素を一気に解放することによる自爆。

だが、その作戦も一瞬にして無効化されてしまう。


「『魔散掌』!」


「ぐふっ......」


「なーに企んでんのか知らないけど、魔素の操作はしばらくできないわよ」


エルザの言葉に偽りは無く、魔素の塊である魔族でさえも魔法陣の形成ができなくなってしまう。

緊急脱出用の策を潰されたことで、魔族の顔に若干の焦りが浮かぶ。


「貴様、我の身体に何をした......?」


「さあ?今から死ぬんだし、もうそんなの気にしなくていいわよ。ねぇミラ?」


「はい!これで、終わりです......!!」


ミラが魔族の胸に手をかざす。


「何......?貴様、我の身体の魔素を操ろうとしても無駄だぞ......」


「さぁ、それはどうでしょう......!!」


まるで鉢の中で大きな石をかき混ぜるかのように重い感触がミラの手に伝わる。

だが、次第に魔族の体内の魔素が動き出した。


「何......?」


「ようやく気付いた?頑丈なあんたたちが自分自身でも知らない弱点」


ニヤリと笑みを浮かべたエルザが説明を始める。


「魔族っていうのは、傷の修復に魔素を使ってる。でも、その魔素はどこから来るか知ってる?──体内の魔素と......もう一つ」


「空気中の魔素か......!」


そこでようやく、魔族は今までの無駄なこと(ミラの攻撃)に合点がいった。

彼らの本当の目的はダメージを与えることでは無く、魔族の周囲にミラの魔素を漂わせて傷の修復の時にミラの魔素を魔族の身体に取り込ませるためだったのだ。


「あんたにミラの魔術が傷をつけられないことくらい想定済みよ。だから、傷は私が付けてあげたの」


次第に、魔族の指先が溶けだす。魔族の身体を保っている魔素が、少しずつ揺らぎ始めている証拠だった。

このまま形を保てなくなってしまうと完全に消滅してしまう。そうなれば再生することも叶わない。


「チッ......」


「体内の魔素をいじくられるなんて今までに無い体験でしょ?」


「(もう少し......!もう少しで......!!)」


「射貫け『悪魔の逆槍(デーモンスピア)』」


突如、天井を破り黒槍が一筋の線を描きながら降ってくる。

ミラ目掛けて飛んできたその槍は、突き刺さる直前にオルに弾き飛ばされ壁に突き刺さった。


「ミラ!作戦は中止だ!」


オルは魔族を突き飛ばし、ミラの前に立って構える。

突き飛ばされた魔族はすでに膝辺りまで溶けかかっており、力なく倒れる。


「上、何か来るわよ」


エルザの声で三人は上を見る。すると、穴の開いた天井から翼の生えた一体の魔族が降りてきた。

降りてきた魔族は、ゆっくりと地に足を付けると三人に向かってお辞儀をする。


「お初にお目にかかります。私、魔王様側近のクラディスと申します。この度は我が同胞への勝利、おめでとうございました」


深々とお辞儀をする魔族はクラディスと名乗り、夥しい魔力を垂れ流しながら壁に刺さった槍を抜いた。


「名を持つ魔族......オル、ミラをお願い」


魔王によって名付けられるそれは有象無象の中から現れた、王に認識されるほどの力を持つ魔族の証。

それが、魔族にとっての名だった。


「お待ちください。この場ではあなた方に危害を加えるつもりはありません」


「とか言いながら槍ぶっ放してきたじゃねーかよ」


「ああ、それは......あれ程度の攻撃で死んでしまっては、勝利を祝福するに値しないと判断したためです」


「......それで、何しに来たってわけ?」


エルザの問いに答えるようにクラディスは魔族を肩に担いだ。


「ふふ、こちら側としても人手不足なのですよ。名もなき魔族であっても、魔王様復活までの糧になってもらわねばならないのです。......それでは」


「待って」


背中の羽を羽ばたかせ、この場を去ろうとするクラディスをエルザが引き留めた。


「おや、なんでしょう」


「あんた、いつから私たちのことを見てたわけ?あんな丁度いいタイミングで割って入ってきて、偶然間に合いましたなんて話通じないわよ」


「......そうですね。『最初から』でしょうか。この魔族が皇后に成り代わったところから、です」


「......ありがと、聞きたかったことはそれだけよ」


「そうですか、では」


手を挙げて軽い会釈をすると、クラディスは再び背中の羽を羽ばたかせて天井に開いた穴から飛び立っていった。

魔族とクラディスの気配が完全に消えると、ミラが尻もちをついた。


「おい、大丈夫か?」


「は、はい......緊張の糸が切れたみたいで体に力が入らなくて......勝った、んですよね。私たち......」


「そうね、貴方の勝ちよ。ミラ」


少し不満の残る勝ち方だけど、と付け足す。

しかし、勝ったというエルザのその言葉でミラの目から涙が流れた。


「わ、わた、し、正直、勝てると思って無くて......うぇえぇ......」


「ほーら、泣かないの。女帝になる女がこんなことで泣いてちゃダメなんだから」


太陽が顔を出す────そして、新たな女帝が誕生した。

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