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第一話

拙い文ですが、読んでいただけると嬉しいです。


「────......はっ、はぁっ」


暗い路地裏を三つの影が駆け抜けている。

顔が隠れるほどのローブに身を包んでいて容姿を確認することはできないが、どうやら二人が一人を追いかけているような構図だった。

しかし、狭く障害物の多い路地裏が仇となったのだろう、先頭の人物の方がこういった道を走り慣れていないのか、少しずつ距離が縮まっていく。


「────ここを抜ければ......!」


そうして開けた視界に映るのは大通り────の上。先ほどまで三人が走っていた路地とは地形的に数mほどの段差がある。本来ならば階段で行き来するような場所だが、階段を探している暇もない。

後ろを振り返っても後十数mのところまで追手が来ている。


意を決して、身を投げるように柵を越えた。








「や、やっと着いた......のか?」


雑木林をかき分けながら二人の若い男女が出てくる。

二人とも体中泥だらけで満身創痍の様子だった。


「あーもうほんっと、どんな道教えてんのよあの行商人......」


女の方が服についた土や葉を払いながら悪態をつく。


「まーまー、結局街道に繋がる道ってのは見つからなかったけど、だいぶ近道は出来たんじゃねーか?その証拠にほら、まだ日が落ちてないみたいだし」


男の言う通り太陽はまだ頭上にある。現時刻はおそらく正午あたりだろう。


「オル......あんたいい加減、その能天気さをどうにかした方がいいわよ」


女がため息交じりに言う。

オルと呼ばれた男は、能天気という言葉に少しむっとして反撃を開始した。


「いや、エルザもその脳天カチ割ってやるみたいな性格を少し矯正した方がいいと思うぞ?」


「......お望み通りあんたの脳天カチ割ってあげましょうか」


額に青筋を浮かべたエルザと呼ばれた女が背中に装備した背丈ほどの杖に手を伸ばす。

彼女から伝わって来る覇気には、本当にカチ割られてもおかしくない迫力があった。

身の危険を感じたオルは慌てて後ずさりしながら何かに気付き遠くを指さした。


「わーっ!!待て待て待て、あ!ほら、向こうが街道みたいだ!早く行こう!!」


オルが指した方向には人の列ができており、馬車のようなものも見える。

おそらくあそこが街道で間違いないだろう。


「はぁー......まあいいわ。地図によればあと半日も歩けばティアン帝国に到着するみたいだし、さっさと行くわよ」


「そうだな、ここ最近は野宿ばっかりだったし......早くベッドで寝たいぜ......」


そして、二人とも疲れた様子で街道に沿って歩き出す。

先ほどまでの道とも言えないレベルの山道と違い舗装された道は歩きやすく、半日と言わず数刻ほどで目的の場所に着いた。


「おぉ......でっけー城門だな......」


「そうね...。さすが流石七大国うちの一つなだけあるわ......」


オルとエルザは、首が痛くなるほど顔を上げていた。

そびえたつは三つの門。二人が並んでいる場所は普段の出入りに使用されているであろう両端の小さな門だが、それでも十メートル弱はある。真ん中に至っては二十メートルはあるだろう城門に二人とも圧倒されていた。


「おい、目的は」


声を掛けられ、オルははっと我に返る。

気付けば入国の順番が来ていたようで、兵士が少し不審そうな顔をして二人を見つめていた。


「あ、仕事です。仕事探しに来ました」


声を掛けてきた兵士の近くに居たオルが返事をする。


「仕事......。腰の剣......冒険者か?」


「や、傭兵っすね。はいこれ、身分証明」


「───確認した。そっちの連れのも確認させてくれ」


兵士は二人の身分証明書が問題無いことを確認すると、それぞれを二人に返した。


「この証明書だと入れるのは平民街までだ。気を付けて行動するように」


そう言い残して、兵士は次の入国者にまた審査を始めた。


「身分証明あるとはいえさすがにザルだなと思ってたけど、ちゃんとお偉方は守られてんのな」


「当たり前でしょ。ほら、もう夕方だしさっさと宿探すわよ。早く休みたくてしょうがないったら......」


「そこの冒険者カップル!ちょーっと待った!」


二人が宿を探して歩き出した瞬間、横から少女が飛び出してきた。

背丈はエルザより少し低いくらいだろうか。

急に声を掛けてきた相手をさすがに怪しまない訳にも行かず声の主を観察したが、特に武器などは持っている様子も無い。一目でこの国の平民階級の少女だろうとオルは推測した。

だが、今はどうにもタイミングが悪かった。


「ごめんな嬢ちゃん、今こっちのねーちゃんは気が立ってるからさ、悪いことは言わねぇから他の人当たっっでぇ!!?」


ゴン、とオルの頭から鈍い打撃音がする。

エルザの左手には、棒状の杖が握られていた。


「ごめんねぇお嬢ちゃん、私たちカップルとかじゃなくてただのな・か・まなんだぁ。それに私たち、今日泊まる宿を探してるから、相手はしてあげられないの。わかってくれる?」


エルザが怒りを隠しながら(隠せてないが)少女に言うと、少女は待ってましたと言わんばかりの顔になる。


「もちろん、お二人の会話は聞いてましたとも!この美人町娘のユイカは、あなたたちに宿の紹介をしに来たのです!」


自分で美人町娘とかいっちゃうこの少女の未来が少し心配になるオルだったが、あろうことかこの少女は宿の紹介をしてくれるというのだ。

もちろん、こんな急に声を掛けてきた人間をそう易々と信用してはいないが宿は宿、一度見てみるのもいいかもしれない。


「本当!?私ユイカちゃんのこと大好き!ね、早く案内してほしいな~?」


オルは驚愕した。

この女、手のひらを反すのが早すぎる。

しかし休みたいのはオルも同じだったので、とりあえず着いていってみることにした。


「もちのロン!案内するから着いてきてー!」


そうして、ユイカを先頭に宿の場所まで歩き始める。

小柄だがゆらゆらと揺れる細いツインテールを目印にしておけば、見失うことも無さそうだ。


「お二人とも、この国は初めて?」


「ああ、今日が初めてだ」


「しばらく滞在するの?」


「そうね。一通り堪能したら他の国に行くつもりよ」


更に細かくなった入国審査のような問答を繰り返す。おそらく彼女の定番の質問だろう。

辺りを見渡しながら着いていくと、急にユイカが立ち止まった。


「ほほー、あ、冒険者ギルドはここになります!宿はもうちょっと先だけど!」


「ありがとう、明日にでも寄ってみるよ」


もう訂正するのも若干面倒くさくなって適当に返事をする。城門の兵士は下手にはぐらかせないので真面目に答えたが、世の一般論的には武器を持っている=冒険者というのが常のようだ。


「お二人ともすごく強そうだもん、冒険者ランクはBランク?......まさかAランクとか!?」


「ふふ、どうかしらね?ユイカちゃんはどう思う?」


「うーん......Aランク!ねね、答えはどうなのさ?」


「んー?内緒♡」


「やーん、ケチー!お、そんなこんな言ってる間にとうちゃーく!ここがお宿になります!」


まるで中身のない会話をしている間に、どうやら宿に着いたようだ。

三階建ての中々立派な外装で、なんだか────。


「(なんか......高そうじゃない?)」


「(おい、やめろ。ユイカに聞こえたらどうすんだ)」


ユイカに背を向けて、聞こえないように話をする。

実際、今まで彼らが見たことのない規模の宿屋だったが、入ってみると意外と安いということもあるかもしれん。それに、案内してもらった手前、ここで断れるほどの図太さは持ち合わせていなかった。


「じゃ、私の案内はここまで!お二人とも、ごゆっくり~、あ!案内料は要らないよー!」


ユイカは風のような速さで去っていく。

宿の前に取り残された俺たちは作戦会議を開始した。


「それで......どうする?」


「......とりあえず、入ってみるしかないでしょ。これで別の宿に入るところでも見られたらあの子の顔見れないわ」


「だよなぁ......。よ、よし......行くぞ」


恐る恐る引けた腰で戸を開けると、二人の期待を裏切ることなく、外装に見合ったそこそこに煌びやかな内装が二人を迎えた。

ごくり、と生唾を飲み込む音がする。それがどちらから聞こえてくる音か、それともどちらもその音を発したのかは分からない。

まず一つ目の希望。宿が空いていないことに賭けた。


「あー、すみません......今日って空いてます、か......?」


オルが正面に座る人物を見て固まる。

カウンターに置かれた足。はだけた服。あげくには親指を舐めて紙幣を数えている。

外装と内装すべてを差し置いてマイナスになるほどの態度の従業員がそこに座っていた。


「あ?......あぁ!......すみません、当宿へようこそいらっしゃいました!」


一瞬ガラの悪い態度が出たが、どうやらそういう営業では無さそうで素早く居直り丁寧な言葉遣いに正される。

二人も先ほど見ていたものを記憶から消し、従業員も何事も無かったかのように進め始める。


「今日はどういったご予定でしょうか?」


「十日ほど滞在を考えているんですけど......お部屋とかって空いてますか?」


「はい!もちろん空いてますよ!相部屋か個室のどちらにしましょうか」


「個室で」


「お部屋のグレードは?」


エルザの眉がピクリと動く、ここが一番金額が動くところだろうと彼女のセンサーが働いた。


「一番お安いところってぇ......おいくらですかぁ?」


「Cグレードですね。お一人様一泊500ゴールドになります」


「お」


思っていたよりも宿代が安く、ついオルの声が漏れる。

ちなみに、この前宿泊した田舎町の宿は一人一泊350ゴールド。そこから考えるとユイカもいい宿を紹介してくれたものだ。


「ちなみにぃ、Bグレードに上がるとおいくらくらい......?」


「一泊1500ゴールドになりま「あ、Cグレードでお願いします」


前言撤回。なんて店を紹介してくれたんだあのガキ。

先ほどまで猫なで声を出していたエルザも驚きのあまり無機質な声になってしまう。

しかも、最低のグレードで一つ上と3倍も差があるということは、これは何か問題があると考えていいだろう。




結論から言うと、至って普通の部屋だった。

なんなら今まで宿泊してきた宿に比べれば少し良いくらいだが、国内だとこれで『Cグレード』なのだろう。

部屋を見て恐怖から一気に安堵の表情に変わったエルザの表情は、中々見られない珍しいものだった。

そんなこんなで宿も確保できたので、オルとエルザは夕食を食べに町一番の大通りに来ていた。


「お待たせいたしました。こちらティアン豚のステーキとエールになります」


「おぉ...これがティアン豚......!見てくれエルザ、肉が輝いてるぞ......!」


来ていたのは壁に埋め込まれたような珍しい外観のレストラン。

そのテラス席で二人は料理が運ばれてくるのを待っていた。


「ん、別に私の料理は待たなくていいわよ」


「おお、すまん。じゃあいっただきまーす!」


ステーキを一口大に切り分けフォークを刺すと、肉はフォークの重みに負けて形を崩し、肉汁が漏れ出した。

思わず口から涎が垂れそうになるのを抑えて、ゆっくりと口に運んでいく。

しかし、フォークを口に入れることをは敵わなかった。

目の前に映るのは、驚いた表情のエルザ。

消えたフォーク。壊れるテーブル。地面に転がる肉。体にぶっかかったエール。

────そして、ローブを着た人物が足元に転がっていた。

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