私は聖女ですが、ざまぁは他の方達がやって下さいました。今、幸せです。
男に興味のある騎士団が出てきます(笑)
「あら、こんな所に、汚い平民がいるわ」
「本当に、いくらハルド王太子殿下の婚約者で、聖女だからって、王宮のパーティに出席なんてねぇ」
「同じ空気を吸うのも汚らわしい」
コリーヌは貴族の令嬢達に馬鹿にされていた。
魔力が人一倍、高く、癒しの力が使えるという事で、聖女に祭り上げられてしまったコリーヌ。
12歳で両親と引き離され、王都に連れてこられて無理やり、ハルド王太子殿下の婚約者に認定されてしまった。
ハルド王太子はコリーヌを見た途端に、
「何も魔力が高いからって、こいつを聖女にしなくてもいいのではないのか?魔力が多少、低くても、何人か集めれば、こいつ程の役割は果たせるのではないのか?」
神官長にハルド王太子が尋ねれば、神官長は、
「他の女性達ではコリーヌと比べたら、魔力が劣ります。コリーヌの魔力は人並み以上に高い。癒しの魔法を一日、50人に使っても大丈夫な位です。他の女性なら5人がやっとでしょう。10倍ですぞ。10倍。このような逸材、聖女として祭り上げるのが得策でしょう」
「あああ、だからこんな小汚い女と私は結婚しなければならないのか」
ハルド王太子は17歳。コリーヌより5歳年上だ。12歳の平民の貧しい暮らしをしていたコリーヌなんて、痩せていたし、そばかすはあるし、髪もバサバサな茶色の髪で、小汚い女として会った途端、馬鹿にされた。
コリーヌはその時からハルド王太子が大嫌いになった。
神殿預かりになり、毎日毎日、神殿に押し寄せる病気の人達を、癒しの力で治す。
他にも癒しの力を持つ女性は数人いるが、それこそ、5人がやっとだ。
コリーヌは50人、病気の人を治すことが出来る。重病な場合でも、悪い所を探し当てて回復させることが出来るのだ。怪我でも、怪我の欠損場所を修繕し、元に戻すことが出来る。
コリーヌは頼って来る民を、貧富の差が無く、治療に励んだ。
神殿は寄付で運営されている。特に貴族からの寄付が多い。
だから貴族も依頼があれば、平民と同じように治す。
ただ、平民からの治療費は、貧乏人からは取らなかった。
それは神殿の方針である。
だから、神殿は民衆からの支持が高いのだ。
毎日毎日、魔力が尽きて倒れるまで幼いコリーヌは働いた。
時々、村に残して来た両親が恋しくて一人でベッドで泣く事もある。
それでも、やりがいのある仕事に、コリーヌは一生懸命励んだ。
14歳の時に、初めて王宮の夜会に出た。
王家の命令である。
エスコートするはずの婚約者ハルド王太子は他の美しい令嬢を連れていた。
「お前なんかと私は結婚しない。婚約破棄だ。破棄。私は私に相応しい公爵令嬢アステリーナと結婚することにする」
「わたくしはアステリーナ。わたくしと王太子殿下は婚約を結んでおりましたのよ。それを貴方が見つかったために、婚約を解消されて。わたくしは貴方を恨みました。恨んで恨んで恨んで。この王国の王妃になるのがわたくしの夢でしたのに。だから、わたくし嬉しいのですわ。こうして再び、ハルド王太子殿下の婚約者に返り咲いて」
コリーヌは思った。
「いやその……勝手に王家で私を王太子殿下の婚約者に決めておいて、さんざん、小汚い平民と私を貶めておいて、婚約破棄ですか?」
ハルド王太子はふふんと鼻で笑って、
「小汚い平民だと思ったから、平民と言ったまでだ」
アステリーナは、コリーヌに向かって、
「その小汚い顔を見せないで頂戴。国外へ出て行って欲しいわ。ハルド様はわたくしの物。いいわね?」
それが言いたいが為に、夜会に招かれたのか。
自分は王家と神殿の勝手な言い分に従って、聖女として働いていただけなのに、この二人はいらないから国外へ行けという。
他の貴族の令嬢達も、その様子を見て、せせら笑っている。
その視線が酷く嫌で嫌で。
コリーヌはぺこっと頭を下げて、
「解りました。私は今すぐ出ていきます。国外に、ではさようなら」
コリーヌはさっさと、この王国を出ていくことにした。
「て、いう訳で嫌になっちゃうわ」
「コリーヌ嬢には、我ら辺境騎士団も世話になった。魔物の討伐の時に、どれほど、助けられたか」
そう、コリーヌは隣国の辺境にいた。
ムキムキの騎士達に囲まれて、森の奥の開けたところで焚火を囲っていたのだ。
聖女認定されて、王都へ連れていかれるまで、コリーヌはこの隣国の辺境騎士団と仲良くなって、時々、魔物討伐へ付き添っていたのだ。
コリーヌは、子供ながらに、癒しの力を使いまくり、辺境騎士団の可愛いアイドル的存在だった。
辺境騎士団長は最初は反対したのだ。
危ない魔物討伐にコリーヌみたいな子供を連れてはいけないと。
でも、コリーヌは願った。
役に立ちたい。コリーヌの家は貧乏な農家だ。だから、辺境騎士団の役に立てば、少しは両親に楽をさせてあげられるだろう。
辺境騎士団。彼らは、国を問わず、危険な魔物が出る場所へ出向き、魔物討伐をする、逞しい騎士達の集団だ。
そんなムキムキの騎士達にコリーヌは可愛がられて、よく、討伐した魔物の肉をおごってもらった。皆でする夜の食事はとても楽しかった。
辺境騎士団については変な噂を耳にすることがある。
高位貴族の美しい男達を好んで愛好する騎士団だと。
騎士団長は笑って、
「そんな事はない。ほら、そんな美しい、か弱い男なぞいないだろう?」
「確かにいませんね」
まぁここにはいないだけかもしれないが、何故ならムキムキ騎士達が皆、さりげなく視線をそらしたからだ。
コリーヌにとってはそんな事はどうでもいい。
ただ、彼らにくっついて魔物討伐をし、怪我をした彼らを治してやる、その生活は危険もあったが、楽しくもあったのだ。
国外追放を言い渡されて、コリーヌは辺境騎士団へ助けを求めた。
国内の両親の元へ戻ったら、迷惑をかけるかもしれない。
国外追放を言い渡されたのだから、
悩むコリーヌに、辺境騎士の一人が、
「確か、ハルド王太子は美しい王太子だったな」
「ああ、銀の髪に碧い瞳はそれはもう……美しいと評判だぞ」
「「「おおおおおっーーーーー」」」
なんか皆のテンションが一気にあがった気がする。気がするけれども、
辺境騎士団長が、コリーヌの頭を優しく撫でながら、
「どうだ?仕置きをしてほしいか?お前を雑に扱った婚約者のハルド王太子を」
「ハルド王太子殿下だけですか?」
「「「女はどうでもいいーーー」」」
思えば、ハルド王太子殿下だけでなくて、色々な貴族の令嬢達に馬鹿にされた。
だが、いちいち復讐したいと思えなくて。
「私は王国へ戻れればいいです。復讐なんて望んでいません」
辺境騎士団長はにこやかに笑って、
「コリーヌはいい子だな。そうだ。エリク。お前をコリーヌの騎士に任命する。聖女様を守ってやれ」
「聖女様。エリクです。どうか、聖女様をお守りする栄誉を」
エリクは特にコリーヌによくしてくれた。
小さいコリーヌを一番、気にかけてくれて。歳はエリクは26歳。
出会った頃はコリーヌは10歳。エリクは22歳。
歳は離れているけれども、コリーヌはエリクの事が大好きだった。
そして、今も大好きだ。
「私は婚約破棄された身です。エリク様。私、貴方の事が」
エリクは微笑んで、
「私は男性に興味はない。ずっとコリーヌの事を思っていた。この通り、ムキムキだけれども、だからこそ、コリーヌの事を守れると思っている。どうか、私と結婚しておくれ」
皆が、拍手で祝ってくれた。
コリーヌはエリクと共に、王国へ戻る事となった。
何故、戻れたかと言うと、何でもハルド王太子殿下が行方不明になったらしい。
国王達は必死に探したが、とある書簡を受け取って、諦めたように、
「あの騎士団に目をつけられては、どうしようもない。今頃、ハルドは……」
王妃も、諦めたように、
「病死した事にするしかありませんわね」
ハルド王太子が行方不明になってしまい(病死したと発表されて、葬儀が行われた)、公爵令嬢のアステリーナは、嘆き悲しんだ。アステリーナはハルドが、病死したのではなく、行方不明になった事を知っていたから。
コリーヌの元へアステリーナが怒鳴りこんできた。
「貴方が、ハルド様をどこかへやったのね。返して。ハルド様をっーー。小汚い平民の癖して、我が公爵家を敵に回したら、貴方の命なんてっ」
傍にいたエルクが守るように、コリーヌの前に出る。
コリーヌはアステリーナに向かって、
「貴方達、貴族は私の事をさんざん馬鹿にしてきました。小汚い平民だからって。それじゃ聞きますけど。貴方達はお綺麗なのですか?私達と違って、どうお綺麗なのですか?教えて頂きたいのですが」
アステリーナは叫ぶ。
「わたくしは高貴な生まれなのです。だから、美しいのよ」
「人は皆、平等です。平民に生まれたから小汚いって……」
この王国の貴族の令嬢は皆、こんな感じで……
コリーヌはため息をつく。
エリクが優しくコリーヌを抱き上げて、
「コリーヌ嬢は誰よりも美しく、優しい方だ。色々な人たちの病や怪我を治してきた。生き方が美しい方だ。その点、お前らはなんだ?お前らはどういう美しい生き方をした?贅を尽くして人を貶める事しかしてこなかった。違うのか?平民がいるから、貴族の生活が成り立つ。その事すら解っていない愚か者だ。今、ハルド元王太子殿下は、我が辺境騎士団において、再教育を受けている。もう、戻ってはこられないだろう。更生はするだろうがな。その腐った心根を我が先輩たちが鍛え直しているはずだ」
アステリーナはコリーヌとエリクを睨みつけた。
その後、どこからか圧力がかかったのか、アステリーナや、他の令嬢達は平民落ちをし、教会で働く事になった。
神殿と違い、預けられた教会はとても貧乏だ。
小汚い恰好をして、教会の傍にある川で、懸命に川にいる貝をとっている、アステリーナをとある日、通りかかったコリーヌは見つけた。
川に腰までつかって貝を探している。
「アステリーナ様?」
「コリーヌっ」
アステリーナは睨みつけてきた。
コリーヌと比べて、汚い恰好をしているアステリーナ。
そして、彼女はやせ衰えていた。
コリーヌはアステリーナに駆け寄って、川から引き上げ、いくばくのお金の入った袋を渡してやって。
「これで、美味しい物を食べて。アステリーナ様は酷い人だったけど、苦しむ姿を見たくない」
アステリーナは涙を流して、謝罪した。
「ごめんなさい。申し訳なかったわ。教会に送られた他の令嬢達も苦しい生活をしているの」
「任せて。神殿に皆でいらっしゃい。手伝ってもらうわ。だから、もっと美味しい物も食べられるようになるでしょう。私のせいよね。申し訳ないです」
これ以上、アステリーナ達、貴族の令嬢が苦しんでいるのを見ていられなかった。
神殿で働けるよう、10人いた、令嬢達を神官長に頼んで、雇ってもらった。
令嬢達は口々に反省をし、皆、真面目に働いた。
ハルド元王太子はというと、
王国へ戻ったコリーヌは、辺境騎士団の魔物討伐へ、時々、同行したけれども、ハルド元王太子殿下に会う事はなかった。
辺境騎士団にはいるけれども、魔物討伐に出てくる部署ではないのだろう。
まぁ、あんな自分を貶めてきた元王太子なんてどうでもよいのだけれども。
ただ、辺境騎士団のムキムキ達が、
「今度の元王太子殿下、教育のし甲斐があるな」
「本当に、たまらんよ」
「「「美男はいいっーーー」」」
と、小声でコリーヌに聞かれないように、話しているのを聞いてしまった。
いやもう、何だか別の意味で、興味がわいてくるような気がするが、
ハルド元王太子殿下の事なんてどうでもいいと、首をぶんぶん振って、気にしないようにした。
コリーヌは神殿で癒しの魔法を今日も使う。
両親も呼び寄せて、今は、一緒に暮らしている。
いずれは、愛するエリクと結婚する予定だ。そして、小さいながらも屋敷を構えて、両親と愛するエリクと暮らすのだ。
エリクは今は、コリーヌの護衛騎士として、毎日、神殿でコリーヌを守ってくれる。
抱き締めて、愛を囁いてくれる。
愛しいエリクと共にいられる幸せを今日も噛み締めるコリーヌであった。