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8.高みの見物


 「……みんな揃ってるね。うん、改めて、今日の測定お疲れ様! みんなの色々なアルティメットが見れて先生眼福だよー!」


 トリアル先生はどこかご機嫌そうだ。鼻歌を歌いながら、大量の資料が整理されていく。


 あの後、俺たちの世代は最高傑作と評され、教師一同はそれはもう有頂天に昇るぐらい喜んでいた。


 ユーマ・グレーシアによるSランクと、ロセリア・スミスによるS-ランクを叩き出したことによって、アルクレナ秘術学園中にはその噂で持ちきりだ。


 しかも、放課後に演習場を借りて、二人で仲良く決闘……何も起きないはずはなく。


 「傷一つ付けるなよロセリア・スミス……!」


 「ロセリアさんに何か恨みでもあるの……?」


 隣を見たら呆れ顔のユカネが居た。そういえば隣だったな。


 「聞いていたのかユカネ。ちなみに、恨みは全然ない」


 「すごい顔で見ていたけどね……」


 あまり意識していなかったが、表情に出ていたらしい。もう少しポーカーフェイスを鍛えるべきだろうか。


 「それじゃ、今日のところはここで解散! 明日からは普通の講義も始まるから、配布した教材はしっかり持ってくること! あと、遅刻は厳禁だよ!」


 ビシッと人差し指をたてながら皆に警告するトリアル先生。わざと遅刻したらどのように怒るのだろうか……想像しても、怖い要素が思い浮かばない。


 解散を告げられたことで、次々と席を立ち上がる生徒達。既に友人が出来ている人もいるらしく、帰りにどこかに寄っていこうぜ、そんな会話が聞こえてくる。


 「私も帰ろうかな」


 対してユカネは友人は出来なかったらしく、一人で帰路を辿ろうとしていた。


 「おう、また明日」


 「……」


 「な、何だ?」


 何故かジト目になるユカネ。俺、何かした……?


 「……ここは一緒に帰るか? って言うところなんじゃないの?」


 「俺は紳士じゃないからさ、そういうところに気が利かないんだよ」


 「自分で言っちゃった……」


 放課後で女子と二人で帰宅? どこのラブコメだよそれ。完璧に主人公がしそうな行動だ、ごめん被る。


 「……まあ、冗談だよ。また明日」


 「ああ、またな」


 ユカネは軽く手を振りながら帰路を辿っていった。


 「さて、俺がするべきことは……」


 周りの皆は既に帰宅しており、トリアル先生もつい先程講義室を去っていった。


 俺以外に講義室に残っているのは、金髪をなびかせるロセリアと、主人公のユーマのみだ。


 「じゃあ、早速行きましょうか」


 「うん、時間は有限だ。早く行って始めちゃおうか」


 そのまま二人は横並びになりながら、講義室から去っていった。


 そして、取り残されたのはシムノ・アンチ、ただ一人。


 ……そんな俺が、これからやるべきこと。


 「二人をストーカーして、ありとあらゆる事象をこの目で記憶(メモリー)しないとな」


 真顔でそう言った後、早歩きになりながら講義室を去り、二人の後を追った。




 ◇





 『フロスト・バラージ』


 叫び声と共に、彼女の手から無数のツララが一斉に放たれる。数多の氷の刃により、目の前の男は絶体絶命、確実に切り裂かれるだろう。


 ……もちろん、そんなことは起こるはずもない。


 『エクスカリバー・ホライゾン』


 彼は冷静な声で愛剣エクスカリバーを構えた後、鞘から素早く刃を引き抜いた。


 その刹那、エクスカリバーから放たれた斬撃が地平線を描くように広がり、迫り来るツララの嵐に衝突する。


 壮絶な衝撃音とともに、無数のツララ次々と粉々に砕け散り、氷の破片が空中に舞い上がった。


 その光景を見た彼女……ロセリアは、右手の手のひらに氷の結晶を生成し、凝縮させる。


 徐々に氷が形成され、鋭利で透明な氷の刃へと変貌した。


 剣でいうところの(つか)を右手で握りしめ、地面を蹴りだしある男に向かって距離を詰める。


 ある男……アルティメットな主人公ことユーマも地面を蹴りだし、ロセリアの元に向かう。


 互いの距離がゼロになるかと思った刹那に、刃の衝突した音が演習場に広がった。


 「くっ……」


 鋭い刃がかちりとかみ合い、金属と氷の軋む音が響く。


 少しだけロセリアが押されているようだ。


 「さすがSランク……攻撃の重みが違うわね……!」


 「そういう君は片手で剣を振るうんだね。僕なんか両手だというのに」


 片手で剣を振る。それは、本来ならおかしくないことだが、どういうわけかこの世界では片手で使う習慣が無い。


 理由としては、アルカナの伝達率が関係している。


 片手で使うのと、両手で使うのではアルカナ伝達率が倍以上の差があり、両手で使ってこそ従来の力が発揮出来るとかなんとか。ナイフや短刀など、リーチが短い武器は例外らしいが。


 「私、剣を扱うのが苦手なのよ」


 「随分と自己評価が低いんだね。僕のエクスカリバーと同格の氷の剣。正直、苦手には見えないかな」


 「苦手だからこそ片手で振るうの、よ!」


 ロセリアがわずかに後退し、氷の剣を横に凪払う。


 しかし、ユーマは地面を蹴り出し後退することで、氷の一閃を見事に避けた。


 「やはり、一筋縄ではいかないわね……」


 ロセリアの額が汗によって滲み出す。


 「僕こそ、ロセリアを簡単に攻略できるわけではなさそうだけどね」


 対して、ユーマは平気そうだ。呼吸一つも乱れていないように見える。


 「君は充分強い。どうやら僕達の世代は、『卓越したアルカナ(アルカナエクセレンス)』の集まりと言われているからね」


 「私より上のランクの人が言ったら、嫌味にしか聞こえないわよ」


 「嫌味のつもりはないんだけどね」


 ユーマは肩をすくめながら小さくため息を吐いた。


 「……今年の世代の平均アルカナランクはD+と言われているらしい。そんな中、僕達はSランクの範囲に入るほどの実力を持っている。焦る必要はどこにも無いんじゃないかな?」


 「……それじゃ駄目なのよ。」


 右手に力が込められる。


 きしきしと、氷の剣にひびが入り始める。


 「私は強くならないといけないから」


 最終的に拳を握ると、氷の剣は細かな氷の破片となって四散した。


 「……分かった。僕なんかで良ければ、時間がある時に手合わせするのもやぶさかではない」


 「……良いのかしら?」


 「自意識過剰かもしれないけど、ロセリアにとってはこれ以上に無い好敵手だと思うしね」


 エクスカリバーを片手で回しながらそう答えた。


 「随分と余裕ね……いつの間にか名前で呼ばれているし」


 「男は普通に名前で呼ぶけど、女性は好敵手と友人には名前で呼ぶって決めてるからね。今、君の場合は友人からじゃなく僕にとっての好敵手となったわけだからが、敬意も込めて名前で呼ばせてもらったのさ」


 回しているエクスカリバーを止め、切先を演習場の固い地面に突き刺す。


 「そう……生憎、名前だけ呼ばれても強くなれはしないけど」


 「そこは日々の鍛練によっていずれ成果が着いてくるよ」


 爽やかな笑顔をロセリアに向ける。


 ロセリアは一瞬居心地が悪くなったからなのか目を逸らしたが、すぐユーマを見据える。


 「じゃあ、続きを始めましょう」


 「ああ、外はまだ明るい。夕方になるまでは付き合ってあげるよ」


 「夕方までに持つといいわね!」


 ロセリアが駆け出すと共に、ユーマに向けて氷のアルカナを準備する。


 「互いに実力を磨き続けよう!」


 ユーマも同様に、ロセリアの元に向かって駆け出す。


 『フロスト・シャワー』


 『エクスカリバー・テンペスト』


 再び、高ランク同士の激しい攻防戦が繰り広げられた。


 そんな中、果たして俺はどこに潜伏しているのか。


 「上からぶら下がって生の戦闘を見るのは格別だな」


 演習場の天井にぶら下がっていた。


 「さすがはアルティメット主人公、動きに無駄が一切無く、剣のセンスも抜群だ。」


 まさに選ばれし最強の主人公、俺が求めていた主人公はこういうものだ。


 「手合わせする相手がおそらく全クラスの二番目に匹敵する戦闘能力を持つロセリア・スミス……」


 思わず口角が上がる。


 「いきなりロセリアがヒロインに昇格するのはまだ早い。手合わせ以外にも主人公に触れて、互いの事が知った上で交際を初めてもらいたいな」


 これにより俺が主人公になる確率が皆無に等しくなる。既にユーマを見つけてはいるが、そこまで大事になることはないはずだ。


 「……って、もう日が落ちてきてるな」


 ぶら下がりながら窓の外を見ると、オレンジ色の光が射し込んでくる。


 「……二人はまだ手合わせ中だし、俺がこそっと抜けてもバレはしないはず。良いものは見れたし、ここらでおいとましておくか」


 演習場の天井にぶら下がっている足を器用に動かしながら、演習場から去った。


 「さて、帰るか」


 演習場の出口付近まで来た。これで俺があそこに居たというのは二人でも気付かれることはないだろう。帰宅中に何も起きませんようにと祈りながら、俺は寮までの帰路を辿り始めた。


 俺が帰路を辿る背後からは、アルカナ同士がぶつかり合いがまだ続いていた。


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