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7.無機物にすら覚えてもらえない


 「なん……だと?」


 「し、信じられない……」


 一体どうしたのだろうか。俺がよそ見している間に先程の複数の叫び声。はっきりいって耳が御陀仏になりかけた。


 「……うそ」


 「ユカネ?」


 両手で口を押さえ、驚愕したような表情をしている。一体何を見ているんだ。そう聞こうとする前に、ユカネは人差し指をある方向に向ける。


 「何があっ……はっ?」


 その光景を見て、俺は思わず固まってしまった。


 その手には、聖剣エクスカリバーを彷彿とさせる神々しい剣が握られており、透き通る水色の髪が風によってなびくことでより様になっている一人の男。


 ユーマ・グレーシア『S』


 ユーマ・グレーシアがそこに佇んでいた。


 「え、Sランクだとおおお!?」


 「入学したばかりでSランク!? 一体彼は何者なの!?」


 「あいつ凄すぎだろ!」


 「かっ、かっこいい……!」


 周囲から称賛と驚愕の声が飛び交っており、それはステラクラスだけでなく、ソルクラス、ルナクラスも例外ではなかった。


 「あれが噂のユーマ・グレーシア……」


 「あれ、知ってるの?」


 「ああ……容姿は抜群、性格は華やか、今回の測定で分かったが、実力は他の生徒より郡を抜いている……有名ならないはずがない」


 「えっ、うそ、全部最強じゃん。私アタックしてみようかな」


 ソルクラス、ルナクラスの生徒がいつの間にかステラクラスの方に集まってきており、皆がユーマに釘付け状態だ。


 「え、えーと、先生よりもアルカナランクが三つ上? 普段何を食べたらそうなるの?」


 「至って普通の食事ですよ。確かにアルカナランクは高いかもしれませんが、座学に関しては先生の方がより博識。これからもお世話になる予定です」


 「そ、そうだよね! うんうん! よーし、先生は全力で講義を全うするよ!」


 トリアル先生ですら驚愕しすぎてアワアワとなっている。当然だ、我が生徒がいきなりSランクを叩きだしたのだから。


 皆がユーマに対して称賛の声を浴びせている。そんな中俺は……


 「惚れた」


 主人公に惚れてしまった。


 だってそう思うのも仕方ないだろう!? 初日出会った段階でも既に主人公全うしていたというのに、容姿やオーラだけでなく、実力も神が公認したかというレベルの持ち主。しかも、手に握られてるのはあの伝説の聖剣エクスカリバー。


 「アルティメット主人公だな……」


 「本当に昨日から何を言ってるの?」


 ユカネが心配そうにこちらを見てくる。しかし、何も問題はない。いたって正常だから。


 「もう満足した。悔いは無い」


 「ええ……」


 ユカネの呆れ顔にも見慣れてきた。全く、一体何に呆れているのだろうか。


 一番見たかったものが見れたようなものだし、あとは適当に流し見でもしていよう。


 ……そう思ってはいたのだが。 


 「なん……だと!?」


 「しししし信じられない!?」


 「これがデジャヴっていうの!? 思わず言っちゃった!」


 先程よりも動揺している生徒達が目に映った。というかそこの女、自分の口からデジャヴってあまり言わないと思うぞ。


 「こ、今年はレベルが高いね……」


 「なにでそんなに驚いているんだ……って、まじか」


 ロセリア・スミス『S-』


 なんと、ユーマに続き、ランクは1つ違えど、同じSランク代を叩き出している女子が居た。


 「私にかかれば、これぐらい楽勝ね!」


 名前はロセリア・スミス。腰辺りまで伸びている金髪が特徴的で、その瞳には緑を宿している。台詞の言い回し的に美人系かと思えば可愛い系だった。


 「……今年の子たちは何でこんなレベルが高いの……? 何で……?」


 トリアル先生の方を見ると呆けており、何かをぶつぶつと喋っていた。


 大方、自分のアルカナランクを簡単に越えられて教師としての威厳が削られてるのかもしれない。


 でも大丈夫、座学に関しては貴女の十八番(おはこ)だろうし、自信をもって続けていたら良いと思う。


 「ユーマ・グレーシア、ちょっと良いかしら?」


 「ん? 何かなロセリアさん?」


 相変わらず爽やかな男だ。惚れ惚れしちゃう。


 「この後放課後、一緒に付き合ってもらえないかしら?」


 なん……だと!?


 「きゃああああああ!」


 「おいおいまじかよ!」


 ロセリア・スミス! まさか、ユーマの強さに退かれてこれを機に交際を申し込もうというのか!?


 「あり得る話かもしれんが、まだ交際させるわけにはいかない……!」


 「シムノくん? 怖いよ顔が、顔が怖いってば」


 止めるなユカネ。主人公が冒頭から交際するとか学園アニメでも少数だぞ。付き合うまでの過程がまだ描かれていないときに出来上がるとか俺には無理だ。


 俺は勢いよく立ち上がる。この際回りの視線は関係ない。目立ちたくはないが、なんとしてもそのフラグは折らないといけない。


 「ち、ちちち違うわよ! 皆が思っているようなことじゃなくて、一緒に鍛練に付き合ってという意味で言ったのよ!」


 「鍛練にかい? うん、僕で良かったら喜んで」


 ……何だ、そうだったのか。全く、紛らわしい言い方をする。


 「な、何だよ驚かせやがって……」


 「ま、まあいきなり付き合ってと言い出すのは、昔からの付き合いがないと中々難しいか……」


 動揺していた人たちも少し安堵したのか、二人の元から離れていった。


 「……シムノ君?」


 「よろしい」


 「なにが!?」


 再びユカネの隣に腰を降ろす。良かった良かった、これで本当に交際し始めたら物語がジ・エンドになるところだった。始まって間もないのにそれは駄目だろう。


 「え、えーと、次に測定する人は……」


 トリアル先生も現実逃避をしているのか、手元に持っている資料を世話しなく確認し始める。


 分かるよ先生。教師として、生徒たちには自分を模範的な存在として成長してほしいんだろう。それが既に頭角が現れているユーマ・グレーシアとロセリア・スミス。この二人のイレギュラーな存在により教師の私の立場が危ない、とか思っていそうだ。


 測定が始まる前にトリアル先生が少し話していたが、普通はCランクからEランクの人が多いみたいだしな……それを考えたらある意味ユカネは平均よりも強く、俺は平均よりも弱いイレギュラーな存在となるのかもしれない。


 「……っ! 次は、レイソン君! レイソン・アーバン君の番だね!」


 「はい、今すぐ行きます。ですが、俺の名前はレイソン・アークァーです」


 「わわっ、そうだった! ごめんね……こほんっ、レイソン・アークゥー君、前に」


 「行きますがレイソン・アークァーです」


 「……レイソン君だけで呼んで良い?」


 「最初にも同じやりとりをした気がしますね」


 これこそデジャヴだろうというやり取りを見せられ、レイソンはおもむろにクリスタルの前に向かう。


 ……あれ、今さらだが、レイソンの周り誰一人として居なくないか?


 「そういえば、測定ってどこまで進んだんだ?」


 「見たら分かると思うけど、レイソンくんで最後だよ」


 「マジかよ」


 思い返せばユーマ、ロセリアのアルティメットを見逃しているのではないか?高ランクを叩き出していたのだからアルティメットもさぞ派手だったはずだ。


 特に、主人公であるユーマのアルティメットは見逃したのは悲しい。いや、悲しいを通り越して痛い。


 「仕方ない、レイソンで妥協するか……」


 「シムノ君って、何を考えてるか分からないタイプの人だよね」


 それは俺にとって褒め言葉でしかない。むしろ、どんどんそう思ってくれ。


 「それじゃあ最後はレイソン君! どうぞ派手にやっちゃって!」


 「はい」


 二文字だけの簡素な返事。それだけなはずなのに、レイソンの周囲の空気が変わった気がした。


 「……な、なんか怖い?」


 ユカネはそう言うが、先程見せられた闇の瞳の方がまだ怖かったぞ。とは決して口に出さない。


 「そうだな、雰囲気が変わった」


 あいつも相当な実力者かもしれない。素質を確かめるためにも、この目で記憶しておいて損はないだろう。しょうもなかったから忘れるだけだ。


 「……」


 レイソンは動かない。


 「お、おいあいつどうしたんだよ……?」


 ワルゴが不安そうにレイソンを見ている。


 それを皮切りに、周りの生徒達もざわざわし始める。


 「……何がしたいのかしら」


 俺の隣にいつの間にか腰を降ろしているロセリア・スミス。いやなんでここに座っているんだよ。


 「……よし」


 レイソンが小さく呟いた。


 ────次の瞬間。


 ガチャリ!


 「……はっ?」


 そう声を漏らしたのは、俺だけではなかった。


 「んん?」


 ユカネは首を傾げていたし。


 「なにかしらあの鉄の塊」


 ロセリアは状況を理解していないし。


 「不思議なものを使うね」


 ユーマは何故か感心していた。だが、おそらくあれが何かまでは理解していない。


 ────鉄の塊、それは。


 「……フッ!」


 ────バズーカの事であった。


 レイソンがトリガーを引く。


 「うわ!?」


 「ぎゃあああ!?」


 「えっ!? なになになになに!?」


 クリスタルに着弾した弾頭が爆発し、耳をつんざく轟音と共に、まばゆい閃光と共に破片が四方八方に飛び散る。


 破片がこっちにまで飛んできてるじゃねえか、何て威力だ。というかバリアとか用意してほしかった。下手すると死人が出る災害だぞ。


 「す、すごかったね……」


 困惑したようにこちらを見てくるユカネ。破片があんなに飛んできたのに何故か平気そうだった。


 ……ただ。


 「……先生」


 「……な、なにかなレイソン君?」


 「……クリスタルを、木っ端微塵にしてしまいました。」


 「……あちゃー」


 トリアル先生は額に手を当て空を仰いだ。


 レイソン・アーパー『A-』


 クリスタルにすら、名前を間違えられていたレイソンであった。


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