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6.秘められた重い


 「お手本は見せたし、本格的に始めていこう! 本当は順番が決められているんだけど、最初に行きたい人は行ってもいいよ! さあ、トップバッターは誰かな?」


 「俺から行くぜ!」


 間髪入れず声高らかに宣言するワルゴ。


 周りからは感嘆の声や応援の声が聞こえてくる。


 「じゃあワルゴくん! 思いっきりやっちゃって!」


 「おう! 学園が吹き飛ぶ勢いでやってやらあ!」


 そんなことしたら最高責任者であるおっさんが泣くぞ。


 「さあ、刮目してくれ! 俺のアルティメット!」


 ワルゴの周囲にアルカナが舞い始める。


 次第にそれは雷が迸る物質へと変貌する。


 「……雷を扱うんだ」


 「俺は炎とか扱うと思ってたんだが」


 「それはただの偏見だし、失礼だよ」


 ユカネとそんな会話を繰り広げている間に、ワルゴは準備が整ったようだ。クリスタルの上には、小さな黒い積乱雲が浮いていた。


 「イクゼ!」


 そうして、カッコつけながらクリスタルに放つ。


 『サンダーバースト』


 迸る音と共に、一直線に向かってクリスタルを攻撃した。


 「……アルティメット、ださくないか?」


 「少し同感しちゃった」


 まだトリアル先生のアルティメットの方がマシかもしれない。


 「っしゃあ! これはSランク乗っただろ!」


 アルカナランクを決めるルーレットが回り出す。確かにトリアル先生よりも演出は派手だったし、威力も上回っているようにと見えたが……


 ワルゴ・アンドリュードル『D-』


 「おいおい、俺の全身全霊がD-だと!?」


 ワルゴは頭を抱え、信じられないと言った感じに叫ぶ。


 「派手で良かったかもしれないけどね。見た目じゃ誤魔化されないよおこのクリスタルは! アルカナがどれだけ強いかなんて、ランクで寸分違いなく表示されるからね!」


 何故か両手を腰に当てクリスタルを有用性を説明するトリアル先生。


 貴女が作ったクリスタルでは無いでしょうに。


 「くっそー! 次はクリスタルを粉砕してやるらな!」


 ワルゴは悔しそうにクリスタルの前から去っていった。いつかクリスタルを破壊出来ると良いな。


 「トップバッターも終わっちゃったし、これから順番で名前を呼んでいくから、呼ばれたら指定位置についてクリスタルに全身全霊をぶつけてね! では、まずはタロウ君から────」


 「……シムノ君ってさ」


 「ん?」


 ユカネが急に話しかけてきた。主人公なの、とか言われるんだろうか。さすがに無いか。


 「何でこの学園に入学したの?」


 「成り行きとしか言いようが無い」


 「成り行きで入学できる場所じゃないよここは……」


 アルクレナ王国の中でも屈指の名門校であるアルクレナ学園。倍率は驚異の50倍だ。


 俺だって本当は避けたかった。何か適当に受けたらたまたまここで、たまたま受かっちゃったと分かった時の俺は神様を恨んだ。何故か辞退禁止という訳の分からないルールもあったし。


 今だから安堵しているが、ユーマ・グレーシアという存在が居なかったら、俺が主人公になってもおかしくなかった。


 『それは自意識過剰では?』だって?


 なんとでも言えば良い。どうせ俺には何も効かないし、効くつもりもない。


 「ユカネはどうしてここに入学したんだ?」


 これ以上追及される前にユカネにも話を振っておく。


 「……私は」


 「えーと次は……ユカネちゃんだね! ユカネちゃーん、測定始めるからこっちに来てー!」


 「あ、はーい!」


 ユカネがここに入学した動機を聞いてみたかったが、どうやら測定の順番が回ってきてしまったようだ。


 ていうか、自己紹介の時と順番がかなり違うような……いや、トリアル先生が適当に選んでるだけだなこれ。


 「アルティメットを叫ぶのに期待しておくぞ」


 ユカネがトリアル先生の元に行こうとする前に、俺はそれだけ言った。


 「……私は」


 ユカネがこちらに振り向く。


 「……私は、恥ずかしがりだからね、やっぱり言えないかな」


 こちらを見据えた瞳は、先程までの琥珀色ではなく、漆黒に染まる闇深い瞳だった。


 ────この瞳は。


 「じゃあ、行ってくるね!」


 ユカネは身体を振り返り、クリスタルの元に向かっていった。


 「……ああ」


 ……俺は極力冷静に返事した。


 一筋の冷や汗は、気にしないことにした。


 「それじゃあ、始めさせていただきます」


 「うん! 遠慮なくぶつけちゃって!」


 ユカネが配置についた。


 アルティメットを叫ばないとは言っていたが、何も叫ぶ必要はない。小声で言うのかもしれない。


 俺の聴力を活かして聞いてみようかな……


 「……ふう」


 ユカネのため息からは、緊張しているのが感じてくる。


 緊張する要素は無いと思うが……そう思っていた時だった。


 「……ふっ!」


 ユカネがなぎ払うように腕を動かす。


 次の瞬間、クリスタルから大量の破片が飛び散った。


 「うわ、すげえ!」


 「今のどうやってクリスタルに攻撃したのかしら!?」


 それにより外野も大騒ぎになる。


 ちなみに、表示されたアルカナランクは……


 ユカネ・カトリーヌ『B-』


 「アルカナランクは……『B-』! 平均ランクよりかなり高いね! ユカネちゃん、凄いよ!」


 まるで自分のことのように全力で喜びを示すトリアル先生。よく動く教師である。


 「あ、ありがとうございます……?」


 トリアル先生により両手を握られ、勢い良くブンブンと振られているからか、ユカネは困惑の表情を浮かべていた。


 「しかし、今のはどうやって攻撃したんだ? ()()()()()()()()()()()()()()……」


 「()()! そういうアルティメットなのかな?」


 ……確かに他の人から見たらなぎ払うように腕を振るっただけで、あのクリスタルを負傷させることが出来た。


 ────ように見えるだけだ。


 俺は見逃していない。腕を振るうと同時にナニかを手に握りしめていたのを。そして、一瞬だけ怨念に満ちたあの闇の瞳に変わっていたことを。


 今見ると、相変わらず琥珀色の瞳を輝かせているが……俺が絶望したあの時の雰囲気とそっくりだったあの闇に満ちた瞳、一体何を経験したらそんな瞳に陥るのだろうか。


 「はーい、ユカネちゃんは待機場所に移動しておいてね! 次に測定する人は……シムノくんだね!」


 次に選ばれたのは俺だったようだ。ニパッとしたトリアル先生がこちらを見ている。


 「いま行きます」


 おもむろに立ち上がり、クリスタルに向かう俺。


 丁度ユカネもこちらに戻ってきており、すれ違う形になる。


 「頑張ってね、シムノ君」


 それだけ言って、待機場所に戻っていった。


 「……」


 俺は特に返事せず、クリスタルの前にたどり着く。


 「よーし、早速測定開始するよ! 思いっきりやっちゃって!」


 「……はい」


 俺がこの場で出せる全力を振るおう。


 「せいやっ!」


 少し間抜けな声を出し、クリスタルをぶん殴った。


 「物理!?」


 トリアル先生が驚愕の表情を浮かべる。他の生徒たちも唖然としているようだ。


 「大丈夫です。アルカナは全力で込めましたので」


 「いや、それはそうかもしれないけど、そうじゃなくてさあ!」


 両腕を縦にブンブンと振りながらツッコミをしてくれるトリアル先生。可愛い。


 「クリスタルもこんなにヒビが入っているし、きっと良いランクが出るはずですよ」


 クリスタルはボロボロ、それでも軽快な音を発しながらルーレットは回りだす。


 「……いや、でもこれは……」


 何故か浮かない顔をするトリアル先生。おかしい、何でこの人はこんな不安そうな表情なのだろうか。


 「安心してください。このシムノ、おそらくAランクは固い……えっ?」


 『F-』


 アルカナランクが決まったかと思えば、ワーストランクに近いものが叩き出されていた。


 「……確かにクリスタルはぼろぼろかもしれないけどね? あまりアルカナの強さを感じなかったから……多分、クリスタル自身が憐れに思ったのか、わざとヒビを入れてくれたのだと思うよ」


 確かに今までにクリスタルにヒビを入れてきた生徒は、次の生徒の番が来るまでに時間が掛かっていた。つまり、その間にはクリスタルの修復に時間を要していたことになる。


 それが今、目の前で、一瞬で修復されている。


 「このクソクリが……!」


 「なにクソクリって!? もしかしてクリスタルのこと!? 怖い!」


 トリアル先生が何か言っているが、俺にはもう関係ない。さっさと待機場所に移動するとしよう。


 「おもしれー奴だなあいつ」


 「でも……ちょっと弱すぎない?」


 「()()ですらないしな……」


 ……平凡の定義が分からない。誰か教えてほしい。


 「ふっ……ふふっ……測定お疲れ様、シムノ君……ふっ」


 「めっちゃ笑うじゃんお前……」


 ユカネの隣に腰を下ろす。別に隣に座る必要はないが、確かめておきたいことがあった。


 俺はユカネの瞳をじっと見つめる。


 「……どうかした?」


 ユカネは俺に疑問を抱いたのか、首を傾げてこちらを不思議そうに見てくる。


 「いや、何でも。ほら、次の測定が始まるみたいだぞ。」


 「ホントだ、次は誰なんだろう」


 俺の方に向けていた顔を、アルカナランクを測定している現場へと向ける。


 綺麗な琥珀色の瞳。しかし、右目には少しだけ、ほんの少しだけ黒く染まっているのが隠せていなかった。


 「……そういう意味では、()()はあったりするのか?」


 俺の疑問の声は、大勢の生徒が叫び声をあげ、空気を震わせたことで消えていった。


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