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5.必ず守り通さなければならない


 「思わずフラグを作ってしまうところだった……我ながら危ないことをしたもんだ」


 学園が管理する寮までの帰路を辿っている人物、シムノ・アンチはひとりごちる。


 先程の流れに見覚えがあったと思う人は少なからず存在すると思っている。


 『あっちで皆が集まっているぞ、お前も混ざってこいよ』


 それは皆に繋げる橋ごとく、これをきっかけに友好関係を広げさせようとする一種の手段とも俺は思っている。


 そして送り出した張本人は陰ながら温かい眼差しで友人を見つめる。


 もしくは口角をあげながらクールに去っていく。


 もしくは……と、あげだすとキリがないが、とにかくそういうパターンを幾度となく見てきたし、聞かされたこともある。


 この一連の行動、俺が考えるには、主人公がその役割を担いがちではないかということ。


 もしもユカネに向かって『お前も、混ざってきたらどうだ?』と、ドヤ顔で言っていたらどうなっていたのだろうと考えると、思わずぞっとしてしまう。


 まあ、そのぞっとすることを前世ではアホの一つ覚えにやっていた時期があったが、今となっては黒歴史でしかない。


 「……ん?」


 歩きながら考え事に没頭していると、不意に視界に路地裏が映り込んだ。


 そこには、怪しい人物が路地裏から周囲を見渡しており、表情を見る限りでは何かを企んでいる様子のように見えた。


 「……」


 しかし、例え何が起きようが俺には関係ない。そう思い込んだと同時にすぐ視界から外し、再び帰路を辿り始める。


 明日からは学園生活が始まる。よりにもよって、学園生活が始まってしまう。


 「見つけることは出来た……あとは、俺は傍観者になれば良い」


 寮にたどり着き、アルカナリフトに乗る。前世でいうとエレベーターみたいなものだ。


 4階のところでリフトから降り、今日から俺の城となる404号室に向かう。


 「絶対に……守り通さないといけない」


 暗号化されているドアを解除する。


 「……あれ以上の主人公は、見たことがない」


 15年間、ずっと探し続けたんだ。


 俺が思う最高で最強な主人公属性を持った人物を。


 ────ユーマ・グレーシア。


 前世の記憶が蘇る。転生しても忘れることができなかった、忌まわしい記憶が頭をよぎる。


 「……」


 バックを無造作に放り投げる。


 「……運命を全うするその姿、俺はこの目で必ず見届ける」


 まだ昼ぐらいにも関わらず、部屋の中に既に設置されていたベットに身を投げると、すぐに夢の世界に旅立った。


 この日の俺は、何故か明日の朝まで起きることが出来なかった。





 ◇





 「はーい、今からアルカナ適正を測定するから、みんな順番に並んでねー!」


 朝の9時30分、俺を含めた180人の生徒達は、学園内の広場に集まっていた。


 「多いな……帰りたい」


 思わず愚痴がこぼれてしまう。前世のせいで、集団で集まるのが少し苦手になっていた。


 とはいえ、各クラスの60人ごとに集まっているため、そこまで圧迫感は感じていない。せめてもの救いだ。


 「まだ来たばっかりだし、実力を試せる良い機会でしょ?」


 「えっ?」


 俺に話しかけてくる人物がいるだと……!?


 昨日は誰かと会話した記憶が無いし、ヌルっと抜け出してきたはず、一体誰が……って、何だ。


 「ただのユカネのようだ」


 「ただの私ってなに!?」


 鋭いツッコミを返してくれるユカネ。見た目に寄らずおもしれー女のようだ。


 「昨日は『えっ』としか言わないロボット化していて心配だったが、直って良かったな」


 「誰のせいだと……」


 ユカネは俺から視線を逸らし額をおさえる。


 「そもそも昨日も何か言っていると思ったら急に居なくなってるし、そりゃ思わず『えっ』という声しか出せないに決まってるよ……」


 「あー……あれはフラグを回収したくなくて」


 「フラグ?」


 「なんでもない」


 ユカネに言ったところで頭がおかしいやつと思われるのは間違いない。俺は至極真面目だが、人によって価値観は違うのだ。そこを追求するつもりはない。


 「よーし、みんなしっかり並べたね! えらいえらい!」


 「扱いが5歳児のそれだ」


 「そうかもだけど実際に言うのは駄目だよ……」


 トリアル先生はこんなところに居るより保育士でもやった方が良いのではないだろうか、たぶん似合う。いや、かなり似合う。


 「ではこれより、第111回、アルカナランク選定祭を開始しまーす!」


 トリアル先生の掛け声共に、それぞれのクラスで測定が始まろうとしていた。


 「よし! まずは測定の仕方を簡単に説明していくよ!」


 軽快に指を鳴らすと、どこからともなくクリスタルが湧いてきた。好きだな、そういう演出。


 「おー! 綺麗だなー!」


 ワルゴの言う通り、クリスタルには魔法陣にルーンの文字が刻まれており、淡い光によって辺りを照らしていた。


 「やり方はとっても簡単! 皆が体内に蓄えているありったけのアルカナを……」


 トリアル先生の身体が眩いばかりの光に包まれ、周囲の空気を震わせる。頭上に集まった光のエネルギーが眩いオーラとなって渦を巻き始める。


 その力を掌握するかのごとく腕をゆっくりとクリスタルの方へと伸ばす。


 『シューティングスター』


 次の瞬間、指先に光が収束し、星の形状の光線となって一直線にクリスタルへと向かった。


 クリスタルに直撃したと同時に、物凄い衝撃が俺達を襲う。


 「うわあ!」


 「きゃあ!」


 砂埃が舞っている間にも、悲鳴があちこちから聞こえてくる。


 測定するってだけでこれか、やっぱり異世界は伊達じゃない。


 「こんな感じでクリスタルに攻撃してえ……」


 砂埃が消えていき視界が晴れていくと、クリスタルは眩い光を放っていた。


 「綺麗だ…….」


 そんな言葉を漏らしたのは我らが主人公のユーマ。


 「言うだけで様になるな……」


 「やっぱり惚れてるじゃん」


 「だからそれ以上だと言ってるだろ」


 「ラブなの?」


 「違う」


 「えっ」


 ユカネが続けて何かを言おうとしたが、相変わらず『えっ』を最後に口を噤んだ。


 クリスタルの眩い光は次第に消えていき、今度はルーレットのようなものが現れた。


 異世界だからってなんでもありってわけじゃないぞ。誰だよ測定にルーレットとか採用したやつ。


 軽快な音を鳴らしながらルーレットは回転している。次第に回転の動きが収まり、ルーレットは消えた。


 「おい、消えたぞ!?」


 「ど、どこに行ったのかしら!?」


 消えるのかよ。


 次の瞬間、軽快な効果音と共に、ある文字が浮かび上がる。


 トリアル『A』


 「『A』っていう文字が浮かび上がってる……」 


 ユカネは小声で呟いた。


 これがいわゆる『アルカナランク』というやつだろう。


 「……っていう感じで、とにかくクリスタルに向かってアルカナを放出すれば、こんな感じでアルカナランクが表示させるから、それが初期ランクってことになるよ! 今持てる力を全て使って、鬱憤を晴らすようにクリスタルにぶつけちゃおう!」



 「すげー面白そう!」


 ワルゴがそう叫ぶ。個人的にワルゴのアルカナランクは少し気になる。


 いや、一番はもちろんユーマだ。


 「ちなみに、これだっていう決め手のアルカナがある人は、私みたいに『アルティメット』を叫んでも良いよ! 本来は測定だから駄目だけど、私が許可します!」


 両手をピースして目に当てるトリアル先生。


 「アルティメットなんか、幼い頃から考えてきたから決まってるぜ!」


 「私も!」


 「先生可愛え……」


 この世界のアルティメットは、技名として使われている。前世では究極、最高という意味があったが、どうやら造語として作られたようだ。


 技の名前を叫びたくて仕方がない人ばかりらしい。もちろん、全員がそういうわけではない。


 「……ユカネは何か決め手のアルティメットがあったりするのか?」


 俺はユカネに問う。


 「無いことは無いけど、叫ぶのは少し恥ずかしいね……」


 そう言ってユカネは視線を落とす。頬が少しだけ紅潮しており、本当に恥ずかしがっているのが窺える。


 「……アルティメット、か」


 ユカネからクリスタルに視線を戻す。


 「……」


 俺にアルティメットは……必要あるのか?


 その疑問は、誰にも回答を得ることなく、アルカナの測定が本格的に始まる。


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