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45.フラグとは、運命の伏線である


 「────まずは皆さまに、謝罪しなければならないことがある」


 登壇し、演壇に立ったかと思えば、ガルヴィン・セイフォードはそう切り出した。


 歓迎ムードから一転、講堂は静寂に支配される。


 それにより、生徒たちは思わず息を呑み、耳を傾ける。


 「本来皆さまは、一時的とはいえど活気溢れるリトルティアに身を置き、何の不自由もなく青春を全うしていただくおつもりでした────しかし、全員が揃うことは叶わなかった。」


 瞳には微かな悲しみと怒りが交錯し、頭を垂れるように俯く。


 「……皆さまは、厳しい試験を乗り越え、アルクレナ秘術学園に入学した。きっと、色褪せることが無いような青春が送れるはずだった」


 ガルヴィン・セイフォードは顔を上げる。


 彼の視線が、空席を一つひとつなぞるように動き、その度に悲しい表情に変わっていく。


 「学園バトルロワイヤルで起きた悲劇……あの愚かな集団が引き起こした悲劇は、決して消えることはない。優れた才能、若き身体、そして何よりも笑顔を────それらを奪い去った奴らを、私は決して許すことはしないだろう」


 微かに震える手で演壇を握りしめ、ガルヴィン・セイフォードは言葉を続けた。


 「私は、被害に遭ってしまい入院している生徒たちを一目見てきた。その時に見せられた悲しみ、怒りに満ちた表情を、私は忘れることはないでしょう」


 ガルヴィン・セイフォードの声に乗せられた深い後悔と無念が生徒たちの心を揺さぶる。


 ────少しの間、静寂が支配する。


 ガルヴィン・セイフォードは悲しい表情を浮かべたまま。


 生徒、教師たちはそんな彼を見て、目を泳がせたり、意味もなく俯いていたりと反応に困っていた。


 ────やがて、学院長は深い息をつき、温かな眼差しを生徒たちに向けた。


 「しかし、そんな悲劇を体験しながらも、皆さまはこうして前を向いていらっしゃる。そんな中、私だけが後ろを見ても仕方がないですな」


 そう言って穏やかに笑う。


 「皆さまを見習って、私も前に向きます。こんな初老の背中を見せても仕方がありませんが、これでもこの町を守る統治者の身。必ずや皆さまの安全を約束し、夏休みまでの短い期間ですが、かけがいのない青春を作ってくだされ」


 ガルヴィン・セイフォードは生徒たちにそう告げた後、後ろに1歩下がり、頭を下げる。


 「────私からは、以上です。ありがとうございました」


 何度目か分からない静寂が訪れる。


 ────最初の拍手は小さく、かすかに響く程度だった。


 それでも、それに続くように2つ、3つと増え、やがて拍手の音は伝播していく。


 音は次第に大きくなり、講堂全体を支配した。ガルヴィン・セイフォードはおもむろに目を閉じ、穏やかな笑顔で静かにその音を受け止めていた。


 ────本当に?





 ◇




 「……うーんっ! やっと歓迎会が終わったね!」


 ようやく束縛から解き放たれたといわんばかりに、ユカネは大きく背筋を伸ばす。


 「学院長からの挨拶が終わったかと思えば、この町での過ごし方と、私達の今後の方針について……他にも色々と言われましたが、まさか昼過ぎぐらいになるとは思ってませんでしたね……」


 「ホントだよサコユちゃん! どうしてくれるの!」


 「え、ええっ!? 私が悪いんですか!?」


 ユカネがサコユに飛び掛かったかと思えば、綺麗な紅髪を勢い良く撫で回す。サコユは、そんなユカネになすがままにされていた。


 「まあ仕方がないな。何せ俺達は初めてのリトルティアだ。右も左も分からない俺達に親切に教えてくれた現地の人に感謝しても良いだろう。そのおかげでオススメのスイーツの店も教えてくれたからな」


 「レイソンはスイーツが無いと死んじゃうタイプか?」


 レイソンの言い分に思わずツッコミを入れる俺。


 真面目に話を聞いているように見えて、案外話を聞いていないのかもしれない。スイーツ、主にアイスが絡むと思考能力が低下しているにちがいない。


 俺は内心で勝手にそう結論付けた。


 「レイソン君の言い分も分かるけど……そもそもだよ? あの後何故か途中で学院長がどこかに行っちゃったから、私達は昼前まで終われる予定が終われなかったんだよ!? 全く、私が学院長なら2秒で終わらせるのに!」


 「2秒は早すぎるよユカネちゃん……」


 ユカネはサコユのアホ毛で遊びながらも、不満そうに少しだけ頬を膨らませる。


 サコユの方も、どうやらユカネに撫でられるのに慣れてきたらしく、ユカネに何をされていても動揺することが無くなったようだ。


 「あはは……まあ、こうして歓迎会も終わったことだし、ようやくリトルティアの探索も出来るね」


 探索か。確かに、初めての場所は大抵探索から始めるものだ。そこでエンカウントした店、人に対して全力で楽しむ。ゲームの醍醐味みたいだな。となると、どこに行くのか少し気になってきた。


 「探索と言うと、どこを見に行くとか決めていたりするのか?」


 「それがね、びっくりするほどプランが全く無いの!」


 「1ミリも無いのは笑う」


 つまり、これといって目的も無いということだろう。ただ楽しく出来ればそれで良い、そんな感じがする。


 「探索の醍醐味だな。良いんじゃないか?」


 「分かってくれて良かったよレイソン君。あっそうだ、2人もこれから私達と一緒にリトルティアを探索する?」


 「俺は構わない。俺もリトルティアにあるスイーツの店を回ろうと思っていたからな」


 「あっ、私もそれ気になっています! 変わったスイーツが多いって有名でもありますよね」


 「ああ、是非ともスイーツに溺れていきたいものだ」


 レイソンとサコユがスイーツの話で盛り上がる。1人だけ言っていることがおかしい気がしたが、きっと気のせいだ。

 

 「シムノ君も一緒に回るよね?」


 笑顔を浮かべながら俺を強引に誘うユカネ。


 そんなユカネに抵抗するために、俺も穏やかな笑みを浮かべる。


 「悪い、俺はこの後寝るという鍛練が────」


 「回るよね?」


 「はい」


 抗えなかった。


 「うん、これで2人も誘えたね────というわけでロセリアちゃん。一緒に回ろう?」


 実はロセリアは、先程から俺達の近くにずっと居た。だが、特に会話することなく、無言を貫きながらも俺達の様子を見ていたようだった。


 「私は別に良いわ。ここに来たのはあくまでも学業を疎かにしないために場所を提供されたに過ぎない。どうせ夏休み前には学園の近くに戻るわけだし、探索の必要性は────」


 「はいはい、行くよおロセリアちゃん」


 「ちょ、ちょっと!?」


 ロセリアに最後まで言わせることはなく、手を掴み強制的に連行するユカネ。


 「それじゃあ、探索にしゅっぱーつ!」


 「お、おー!」


 腕を大きく上に掲げ、未知なる町へと一歩進める。


 「俺達も行くか」


 「結局俺も強制か……」


 寝たい気分だったのは本当だが、まあ仕方がない。


 この探索を通して変なフラグが建たないのであれば、何も問題はない。自分を一般男子高校生と思い込めば良いだけだ。


 「……フラグ」


 俺は何気なくその3文字を口にする。


 「────平和なら、それに越したことはないんだけどな」


 その言葉はフラグとなるのか、ならないのか。


 運命の伏線は、自分も、誰にも分からない。


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