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4.主人公を見守る後方腕組み転生者


 思わず頬が紅潮してしまう。男の紅潮なんて需要ないのに。


 「趣味は人助けかな。困っている人が居たら見逃せないんだ。何かあれば僕を頼ってほしい。好きな食べ物は唐揚げ、嫌いな食べ物は特に無いな。みんな、これからよろしく!」


 ────主人公だ。


 整った顔立ちと優しい眼差し、瞳は深い青に染まっている。背は高く、筋肉質な体つきはどこか戦士のような風格を漂わせ、透き通る水色の髪はまるでこの世の神々の祝福を全て受けたかのように輝き、より存在感を一層際立たせた。


 俺が理想としている主人公。


 惚れ惚れとするような立ち振舞い、仕草、セリフ。


 座席は誰もが羨ましがる隅っこ暮らし。隣に座るは可憐な女子。


 声も主人公って感じだし、間違いなく、俺が望んでいた存在がそこにあった。


 「ついに……」


 異世界で生きて15年と少し、主人公はおろか、それに付随するヒロインも見つけることが出来なかった。


 どこか脇役を彷彿とさせる人物ばかりで、俺は主人公に起こりえるイベントに巻き込まれないかと不安な日々を送っていた。


 ────今日でそれが終わる。


 これから起こるイベントは全て主人公が関わる前提になるだろう。


 そうすれば俺に主人公という役割は回ってこなくなる。自然に脇役となるため、どんなイベントが起きようが、背景に存在する素材の一つにしかならない。


 「……俺の勝ちだな」


 勝ちを確信した俺は、着席したユーマを見つめ続ける。頬の紅潮は収まらない。むしろさらに染まっていく。


 「……どうしたの、惚れたの?」


 そんな俺を見たユカネが小声で俺に話しかけてきた。


 「惚れたなんて軽いもんじゃない、むしろそれ以上だ」


 「えっ」


 何故かユカネが固まってしまったが、一体どうしたのだろうか。目は瞬きを忘れ、口はチャックが出来なくなっている様子だ。


 「おい、どうし……」


 「はーい! 自己紹介ありがとね、ユーマ・グレーシアくん!」


 ユカネに追及しようと思った矢先に、トリアル先生の明るい声が俺の耳をこだまする。


 そういえば、ユーマ・グレーシア。『主人公』の自己紹介で最後だったのか。座席が隅っこだから当たり前である。


 ユカネのことは諦めおとなしく前に向く。


 宇宙と交信しかけていたユカネだったが、俺が前を向いたのを遅れながら確認したのか、慌てて前を向いた。


 「うんうん! みんな個性豊かで良いね! まだ初日だけど、先生はこのクラスを担当して良かったと思っているよ!」


 腕を組んでうんうんとうなずくトリアル先生。


 ……いや、片目だけ半目になりながら俺の方を見ていないか? 


 あ、いま目を逸らした。


 「じゃあさっそく今後の予定について話していこうか! 今日は初日だからね。予定を聞いたら各自解散という形になるよ! 学園を探索してもいいし、寮で惰眠を貪るのも良いね!」


 「じゃあ先生、この後一緒に探索しようぜ!」


 「うーん、先生はもう全部知っちゃってるし、この後惰眠を貪りたいから遠慮しとこうかなっ!」


 「先生は惰眠を貪りたいのかよ!」


 あざとくウィンクするトリアル先生だが、どう考えても惰眠を貪りたい顔じゃない。今の俺の方が惰眠を貪りたいまである。


 「じゃあ今後の予定をさらっと話していくよ! あまり長いと退屈しちゃうだろうからね」


 教師の鏡である。


 無駄な事を話しがちな校長とは違い、要点だけを話してくれるのはありがたい。


 「じゃあまずは資料に目を通してもらおうかな」


 トリアル先生がパチンと指を鳴らすと、机の上が淡い光に包まれる。


 「なんだ!?」


 「綺麗……!」


 驚愕の声と感嘆の声があちこちから聞こえてくる。


 ……アルカナを使っているようだ、粋な演出だな。


 次第に淡い光が無くなり、机の上には資料が置かれていた。


 「すげー! どうやってやったんだよ!?」


 ワルゴは皆が思っている事をすぐに代弁してくれる。アルカナだというのは皆分かっているだろうが、どうやるかまでは分からないのだろう。一種のテレポートみたいなものだし。


 「これから学んでいけるから、楽しみにしててね!」


 トリアル先生はまたウィンクする。ウィンクしないと死んでしまうのだろうか。


 「それじゃあ、資料を見ながら私が補足していくから、よく聞いててね!」


 それを聞いた生徒一同はすぐに資料に視線を落とす。


 頬杖ついていた俺も、手を頬から離し、資料に目を通すことにした。


 「まずはみんな、改めて入学おめでとう! この学園は一般教養を学ぶと同時に、アルカナを学ぶ施設でもあるんだ!」


 それがこの学園を通う主な目的地だろう。一般教養だけなら他の学園に通おうと思えばいくらでもある。ゆえに、何か目標があってアルクレナ学園に入学してきたわけだ。


 まあ、単純にアルカナを使いこなしたいだけの人も居るだろうが。


 「明日から早速講義が始まったりするんだけどね、まずはその前に、今の自分がどれだけアルカナを使いこなせるか。それを確かめるためにちょっとした実技テスト実施をするよ!」


 資料を見る限り、明日の朝9時30分から、どれくらいアルカナを使いこなせるかを知るために実力を測るようだ。


 そして、アルカナにはそれぞれアルカナランクというものが設定されている。


 SSS(トリプルエス)SS+(ダブルエスプラス)SS(ダブルエス)SS-(ダブルエスマイナス)S+(エスプラス)……F+、F、F-、G。


 という風に、全部で26個のランク付けあるようだ。


 多すぎないか? 普通せいぜいあっても7個ぐらいじゃないのか? なんでプラス付けたりマイナス付けたりSの数を増やしたりしてしまったのだろうか。ランク付けを考えた先代の面を見てみたい。


 「個人によって得意分野が変わってくるから、水とか炎とか電気とか……私の場合は光関連が得意ってことになるかな? とはいえ、一概にランクが全てとは言えないんだけど……それでも、良い指標になると思っているよ。自分の実力を測る良い機会だしね!」


 なるほど、ランクだけが全てじゃないと。


 「明日はそれだけで終わってしまうけど、その次からは資料に書いてある学術行程の通りに進行していくから、別の場所にメモをとっておくか、資料を無くさないようにしてね!」


 数術学、帝国言語学、社会構成学、自然探求学、アルカナ実技学……言い方こそ違うが、アルカナ以外は前世にもあった教科ばかりだ。


 というか、異世界まできて社会とか学ぶのか……ただ暗記するだけのはずなのに、どうも苦手なんだよな。


 「うん、簡単に言ったけど、とりあえずこれで全部かな? なにか質問ある人はいる?」


 先生は手を上げながら視線を右往左往し始める。


 質問者はいないようだ。まあ特に疑問に感じることは無かったしな……皆にとってはそんなことよりも、早く寮に帰りたいか、学園内を探索したくてウズウズしているかのどちらかだろう。


 現にワルゴは落ち着かない様子だしな。おそらく後者だろう。


 「……いないみたいだね。よし! みんなお疲れ様! これで今日の講義は終わり! 解散!」


 トリアル先生が元気よくそう告げると、真っ先に立ち上がったワルゴが、真っ先にユーマの元へと向かう。


 「なあユーマ! 一緒に学園内回らないか!?」


 両手を広げ机に叩きつけ、ユーマの顔を見ながらワルゴは誘う。


 やはり主人公……オーラが出ているのか、どんなキャラでも引き寄せるみたいだ。


 もちろん俺は行かない。後方腕組部だからな。


 「ワルゴだったよね。うん、君とは友達になれそうだ。僕からお願いしても良いかな?」


 「そうこなくっちゃな! なあ、他にも一緒に探索する人は居ねえか!?」


 キョロキョロと回りを見渡すワルゴ。


 「じゃあ、俺も一緒に行くぜ!」


 そんな一人の言葉を皮切りに、僕も、俺も、私もと、続々とワルゴとユーマの元に集まってくる。


 これをきっかけに今のうちに友人作りをしておきたいのだろう。既に何人かは意気投合してるようにも見える。


 「……」


 ふと俺の隣を見ると、ユカネがユーマとワルゴの方を凝視していた。


 もしかして、混ざりたいんだろうか。


 そう思った俺はユカネに声をかけることにした。


 「ユカネも混ざってき────」


 混ざってきたらどうだ。そう言いきる前に、俺は講義室から姿を消した。


 「えっ?」


 ユカネからしたらシムノが私に話しかけているものだと思い、集団に向けていた視線を隣に戻したが、シムノは既に居なかった。


 「……えっ?」


 当然疑問に思う。何か言っていたのに急に居なくなるものだから、ユカネは理解することが出来なかった。


 「…………えっ?」


 そんな声しか漏らすことが出来なかった。


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