37.いざ、断罪の時
刃と拳が何度も激突する。
周囲の草原の草が消滅し、地面の肌が露になっている箇所が目立つ。
「────フッ!」
ユーマ・グレーシアは首に目掛けて刃を振り下ろす。
「甘いッ!」
ジャックスは首もとを義手で防ぎ、刃が重く叩きつけられると、鈍い金属音が響く。その瞬間、体をひねって大きく凪ぎ払うようにユーマへ反撃を試みる。
だが、ユーマはその一撃をわずかに身を引いてかわし、拳は空を切った。
「すばしっこい男だッ……!」
「君も充分すばしっこいよ」
互いに言葉を交わし、再び刃と拳がぶつかり合う。
実力は互角────ではなく、ユーマ・グレーシアが少し押している。
そもそも、ジャックスは生徒一同からアルカナを奪い取り、自分の体に取り込む事でユーマに近い力を得ているにすぎない。
他人のアルカナを取り込めば、本来なら適応しないため、暴走し、体の制御が効かなくなるが、ジャックスにそれは起きていない。
アルカナの扱いに長けているといえるだろう。精密性が非常に高い。
────だが、それがユーマ・グレーシアより上回る理由にはならない。
「グッ……!」
ここで初めて、義手がない方の片腕に切り傷が入る。
「そろそろ余裕が無くなってきたんじゃないか?」
そう言いながら、エクスカリバーを振り続ける。
肩、頬、腕、脚と、確実に切り傷を増やしていく。
「舐めてもらっては困るッ!」
ジャックスも弱い男ではない。巨漢と巨大な義手によるリーチを活かし、拳をユーマの顔にめがねて放つ。
拳が目の前まで迫った瞬間、ユーマは身を低くしてそれを回避した。
巨大な義手が空を切り、ジャックスの視界は一瞬、ユーマを見失う。
『……! 俺の義手で、奴の姿が見えないッ!』
ここに来て、巨大な義手が仇となる。
内心で焦るジャックスは、すぐに後方へと回避しようと脚に力を入れようとする。
────しかし、その隙をユーマが見逃すはずがなかった。
「────そこッ!」
瞬時に体をひねり、手に持つエクスカリバーを横に一閃。ジャックスの胴を深く斬り裂いた。
「グウゥゥゥッ!?」
鮮血が舞う。
返り血としてユーマの体に浴びそうになるが、すぐにその場を離脱することで、血に汚される事は無かった。
「まだやるかい?」
息を荒くしているジャックスに切先を向け、そう問いかける。
「今ならまだ間に合う。アルクレナ王国の防衛省に自首さえしてくれば、殺生をしていない分、罪が軽くなる。ただ、これ以上の事を起こすのであれば、僕も君を見過ごすことは出来なくなる」
自首。
防衛省に自ら首を差し出し、己の罪を認める。
実に簡単な事だ……ただ、ジャックスという男は首を差し出すのは大嫌いだ。
「もう一度言っておこう。俺は、ユーマ・グレーシアを殺しに来た。あの方は貴様以外は殺すなとおっしゃっていたが、俺は、必要であれば殺すことに躊躇はしない。どんな手を使ってでも、貴様を────厄災を根絶する」
深い傷を負わされてもなお、ジャックスの信念が傾く事はない。
それを確認したユーマは、残念そうにしながら軽いため息を吐く。
「そうか────なら、残念だけど、やはり僕は罪を犯さないといけないみたいだ」
エクスカリバーの塚を強く握り締め、アルカナを循環させる。切先が再び、光に包まれる。
「みんなごめん。ここで、命を断ち切らせてもらうよッ!」
大地を蹴った。
罪を犯す覚悟が決まった表情を露にし、ジャックスの心の部分へ目掛けて刺突。
これにて、断罪は完了する。
────かと思えた。
「……ッ!!」
ユーマは目を見開く。
切先の先には……負傷した生徒が居た。
「くッ!」
寸前のところでエクスカリバーを引っ込め、生徒に刺突してしまう事態を避ける。
────それが、大きな隙となる。
「隙を見せたな」
ジャックスの口角がわずかに上がると同時に、囮として掴んでいた生徒を乱雑に投げ捨てる。
「しまッ……!?」
ここで初めて、罠だったということを理解する。
しかし、気付くのが一歩遅れてしまった。
ジャックスは義手を一瞬引き絞る。
『ヴァルカニック・インパクト』
そして、勢いよく前に突き出す。
その一撃はユーマの体を捉え、途切れることなく連続する衝撃がユーマを襲った。
初めてモロに喰らってしまい、成す術もなく後方へと吹き飛ばされ、鎮座する岩へと激しく叩きつけられる。
「……やってくれたね」
衝撃で粉砕された岩の欠片が肩に付く。
ユーマはおもむろに手で払った後、少し細目になりながらジャックスを見据える。
「人を盾にするのは、君の先程の言動と矛盾しているんじゃないか? 僕だけを狙っているのなら、他の生徒達は一切関係ないはずだ。既に重傷にしているのにも関わらず、まだ傷を負わせる気かい?」
ジャックスの目的はユーマ・グレーシアの殺害。
既に他の生徒達に危害を加えているのにも関わらず、この闘いにまで利用しようとする神経が考えられなかった。
「言っただろう……使える物は何でも使うと。俺に都合が良い物は全て道具だ。いつ、いかなるときでもだ。負傷してようがしていまいが関係ない……最も、貴様がその剣を俺に振るうのであれば、傷付くのはこいつらになるがな」
口角を上げる。
ユーマは一瞬唖然となり、信じられないといった表情を浮かべる。
「……君に、情状酌量の余地は無い……危険な存在だ。今ここで、絶やす他ないなッ!」
エクスカリバーにアルカナと怒りを込め、背後にある抉れた岩をさらに粉砕する勢いで、ジャックスに元へ飛び込む。
「やってみろ、出来るものならな」
再び、撃ち合いが始まる。
どんな状況になろうとも、優勢なのはユーマな事に変わりはない。
しかし、ジャックスによる生徒達の囮によって、ユーマは決定打を与える事が出来ないまま、時間だけが経過していった。
「どうした? 俺を絶やすんじゃ無かったのか?」
「くっ……!」
悔しい。
自分を殺しに来る存在によって、無関係な人達まで巻き込んでしまうことに、ただただ悔しい。
「貴様は強い。だが、貴様は弱い。こうして他の生徒を前に出せば、すぐに躊躇してしまう。俺を絶やしたければ、こいつごと貫いてしまえば良い。だが、お前にはそれが出来ない」
ユーマ・グレーシアはそこまで非情になれない。
もしそんな自分が居たとしたら、確実に失望してしまうだろう。
しかし、ジャックスが言う弱さというのも、あながち間違いではない。
『せめて、何か決定打を作る事が出来れば……! だけど、どうする? 無理やり攻撃を加えて生徒を傷付けるわけにはいかない……!』
負ける事はない。
しかし、勝つ事も出来ない。
「どうすれば……!」
せめて、生徒を囮に出来ない状況を作り出すことが出来れば……!
「どうした? 万が一、生徒が死んでしまっても責任は取れんぞ? それでも剣を振り続け────」
「────いや、責任を取るのはお前だッ!」
突如、男の声が響き渡る。
「ッ!?」
「ワルゴ!?」
声の正体はワルゴ・アンドリュードル。
二人は驚愕し、声が聞こえた方向顔を向ける。
────ワルゴの全身に、雷が迸っていた。
「────ッ!」
嫌な予感がしたジャックスは、直ぐにその場を離れようとする。
『サンダー・フォーカス・バインド』
「グゥッ!?」
たが、一歩遅かったようだ。
「何だ、これは……う、動けんだとッ……!?」
必死に全身を使って離脱を試みるが、一ミリも動かす事は叶わない。
「ワルゴ、マユ! 大丈夫か!?」
よく見れば、ワルゴがアルティメットを発動している背後には、マユが自身のアルカナを譲渡していた。
「心配しないで、私は大丈夫よ!」
「ああ、お前らが闘っている間に、このアルティメットを発動するためにアルカナを蓄え直したんだよ! 最も、ユーマと違って量そのものは多くねえから、こうしてマユからも貰えないといけないけどなッ!」
「ワルゴは集中してッ────ユーマくん! ワルゴのアルティメットはそう長くは持たないわッ! だから、今のうちにあいつを────皆の命を解放してあげてッ!」
2人は叫ぶ。
互いに脚は震え、顔からは冷や汗が吹き出ている。
それでも、ユーマを信じて、2人は隙を作ってくれた。
「小癪な真似を……!」
しかし、ジャックスは足掻く。
「く……くそっ!」
「あいつ、まだ動けるの!?」
片足を上げ、勢い良く地面を踏みつける。
「……存外、大した事は無いのだな……!」
サンダー・フォーカス・バインドから逃れられれば、再び生徒を囮にし、ユーマは決定打の隙を失ってしまう。
「……クソッ!」
ワルゴが叫ぶ。
自分にもっと力があれば────
「────なんだ、これはっ!?」
そんな想いに答えるかのように、ジャックスの背後から光輝く小さな球体が浮上する。
ジャックスが驚愕の声を上げ、それに釣られて残りの三人もその正体を確認する。
「あれは……アルカナ!?」
マユが声を上げて正体を口にした。
その瞬間、それに応えるように光輝く球体は弾け、周囲に粒子を撒き散らした。
「……? こっちに近づいてきて……」
ユーマ、ワルゴ、マユの元に、光輝く粒子が寄ってくる。
粒子は、3人の体内に吸収されていく。そして────
「すげぇ! 力が湧いてくる、俺のアルティメットがより強固のものになってるぞっ!?」
「私も! 今ならワルゴにアルカナを切らさずに送り続けることが出来るわ!」
力の源と変換される。
「グッ! ……何故だ、何なんだ、この光はッ!」
ジャックスはワルゴとマユにより、今度こそ完全に拘束され、一歩も動かせなくなっていた。
「このアルカナは────トリアル先生の?」
ユーマの全身が光輝く。元ある力が増大され、もはや敵なしの状態となる。
「バカなッ! あの教師は俺達が気絶させて────」
『……役に……立ちますように……』
ドミニオン財団の4人がテレポートする直前、小さな声でそう呟いた女の声が聞こえた気がした。
────いや、実際にそう言ったのだ。
そう、この光は、間違いなく、紛れもなく。
「────あのオンナアアアアァァァァァ!」
確実に仕留めるべきだった。
しかし、もう遅い。
「────ありがとうございます。トリアル先生」
ユーマ・グレーシアは、切先をジャックスに向ける。
「今度こそ君を─────いや、お前を断罪することが出来る」
エクスカリバーを切先を夜空に向け、高々と掲げた。




