36.VIP席から見届ける結末
────時は、数分前に遡る。
「……さすがはアルクレナ秘術学園一の強さを誇る男だな。卓越したアルカナの集まりと言われている中でも、他の奴らとは比べものにならない」
地面に散らばった木片を踏みしめ、立ち込める煙の中から姿を現すジャックス。
「まさか褒めていただけるとはね、光栄だよ。ただ、比べものにならないという発言はいただけないかな」
「事実だろう。その気になれば、お前一人でアルクレナ王国の人間を皆殺しに出来るはずだ」
「僕の力はそのためにあるものじゃない。皆を守るためにあるものだ」
「……綺麗事を」
ジャックスの発言に不快な気持ちを抱いたユーマは、エクスカリバーの切先をジャックスに向ける。
「……随分と好き勝手やってくれたみたいだけどね、僕が来たからにはこれ以上被害を増やさせない。ここにたどり着く前、暴走した異形の対処や、無事な生徒、負傷した生徒を既に安全な場所へと移動させている」
「俺……俺たちは他の生徒がどうなろうと微塵も興味が無い。しかし、あの方から殺める行為は止めろと命令を受けているのだからな……ユーマ・グレーシア、貴様を除いてな」
「なっ!?」
「それって!?」
ユーマから少し離れた位置で二つの声が上がる。ワルゴ・アンドリュードルとマユ・シスカのものだ。
「……目的は、僕を殺すこと、かな?」
「ご名答」
ジャックスは淡々とそう返した。
「な、なんでユーマくんが狙われなきゃいけないのよッ!」
ワルゴを治療しながらも、鋭い視線をジャックスに向けるマユ。
「それは、ユーマ・グレーシアが我々にとって厄災そのものだからだ」
「厄災……だと?」
ワルゴの身体が震える。
「こいつのどこが厄災なんだッ! 皆の人気者で、いざというときは助けてもくれる、俺だけじゃなく、マユや他の皆とも友達になってくれるんだぞッ!」
ワルゴがジャックスに怒声を浴びせる。
ワルゴの言った通り、ユーマ・グレーシアという人物像はそれらによって形成されている。当然、そこに嘘偽りはない。
「貴様たちの友情なぞどうでもいい。俺たちにとってユーマ・グレーシアは厄災、それが全てだ」
ジャックスは再び、淡々とそう返す。
「僕がきみたちに何かした記憶は無い。人違いじゃないかな?」
「何度も言わせるな。何を言おうと、貴様は厄災。いまここで殺すまでだ」
────ジャックスの雰囲気が一変する。
「殺すとか言ってるけど、あんたがユーマくんに勝てるとは思えない。返り討ちに遭うのがオチじゃないの?」
マユの言うことは最もだった。
ユーマが本気を出せば、ジャックスは数分も持たずに殺されてしまう。
「────ふむ、確かにその通りだな」
ジャックスも、それは理解していた。
「────だが、俺が無意味に他の奴らに手を出すと思っていたのか?」
「なにを────!?」
ユーマが驚愕すると同時に、ジャックスが義手から黒い稲妻が迸る。
そして、それは出現した。
「……黒い、球体、か?」
マユに治療されながらも、視線はジャックスの方へと向けていたワルゴがそれを見て思ったことをそのまま口にする。
「いや、この感じは……もしや、皆のアルカナか……!?」
「ほう、やはりお前は感じることが出来るのだな」
「う、うそ……あれが……?」
ユーマが答え、ジャックスが感心し、マユが混乱する。
「利用出来るものは全て利用する、力で負けるのであれば、それに対抗できるアルカナを集める、それだけの事だ」
まるでそれが当たり前かのように言う。
「ちょっとっ! アルカナは生命の源でもあるのよっ! それをそんな風に扱い続けたら、皆の体に馴染んでいるアルカナが元に戻らなくなって、最終的に皆が死んじゃうわ!」
マユは治療を得意としているため、生命についての知識は豊富。
現に、マユはワルゴへとアルカナを送って治療しているが、その過程でワルゴの体に馴染んでいるアルカナに変換させ、体内に送っているからこそ、初めて治療が成立する。
「ああ、それは俺もよく分かっている────だが、言っているだろう? 殺める行為はしないと。せいぜい、ずっと眠り続けるだけだ」
「て、てめぇ……!」
「ちょ、ちょっと、治療中だから落ち着いてっ!」
ジャックスの言い分に、ワルゴが殺意を抱きながら睨み付ける。
「────そちらの言い分は分かったよ」
殺意剥き出しのワルゴを、ユーマは手で制した。
「……人殺しは悪だ。ましてや、何の罪もない人間が、理不尽に殺されるのもおかしいと思っている。ただ、実際にそれは現実となって、今もどこかで起きてても何も不思議じゃない」
ユーマのアルカナが体内に駆け巡る。
「当然、正当な理由があっても、人殺しはしてはいけない。何故なら、誰も幸せにならないからね」
アルカナが、エクスカリバーの切先まで到達する。
「────ただ、理不尽に抗うには、理不尽で抵抗するしかない。だから────」
ユーマの体が震え、爆発音と共にアルカナがその身から解き放つ。
理不尽に対する怒りを込めながら。
そして、周囲にアルカナの輝きが渦巻きながら、光となり、夜空の彼方へと昇る。
「みんな、今から僕は理不尽に罪を犯す。そんな僕を、許してくれないか」
許しを乞いた。
「……面白い、そうこなくてはな────ならば俺も応えるまで。最初から全力でいかせてもらうッ!」
ジャックスは、手に持っていた黒いアルカナを心臓の部分へと押し込む。
「ウッ、グオオォォォアアアアァァァァッ!」
覚醒する。
数多の性質が混じったアルカナが、ジャックスの体を蝕み、一際大きい義手に循環していく。
ユーマのように、夜空の彼方へ昇るほどの勢いはない。しかし、その身にはユーマに劣らないほどの纏う黒のアルカナが強調される。
「────さあ、始めようかッ!」
「────こちらこそ、よろしく頼むよ」
互いに抱えるのは、理不尽な想い。
次の瞬間、2人は地を蹴り、伝説の刃と鉄の拳が火花を散らし衝突する。
2人は姿を瞬時に消え去り、どこからともなく、鋭い音色が響き渡りだした。
「す、すげぇ……俺とは次元が違う……」
2人の激突を自身の目で確認したワルゴ。
感嘆しつつも、自分との差に痛感する。
「あんたは大人しくしてなさい。怪我人……じゃなくて重傷人なんだから。今はユーマくんに任せておきましょ」
マユも2人の激突を視線で追いながら、ワルゴの傷を癒していく。ほんの少しずつ、顔の痣が無くなってきている。
「確かにそうだけどな……あいつにやられるだけやられて、俺が何も出来ないってのは嫌だ。何か一発仕返ししてやらねえと気が済まねぇよ」
口を噛み締めながら拳を握る。
「でも、私達じゃあの男に太刀打ち出来ないわよ。なんせ、倒れている皆のアルカナを体内に取り込んでいるんだし……他人のアルカナを取り込むと、本来なら体が拒否反応を起こして、体の制御が効かなくなる事が大半なんだけど、どうやら上手く使えているみたいね、ホント、理不尽ね」
「くそがッ……何か、何かないか、ユーマを助ける方法、あいつを倒せる決定的な何か……」
思考する。
考えることが苦手なワルゴ。それでも、友人の手助けになるなら……と、思考を加速させる。
「……あぁもう! 速すぎて何が起きてるのかすら分からないわ! せめて目で追えるようになったら、何か手助けが出来たかもしれないのに……」
マユも悔しそうにしている。
ワルゴと同じく、助けてやりたいという想いはある。
だが、やはり決定打が欠けてしまっている。
「……そうだよな。せめて、せめてこの目で追えたら、対策のしようがあるのによ……遅くならねえかな……遅く……おそく?」
遅く。
この単語を噛み締めるように何度も口にするワルゴ。
「遅く……ッ!」
そして、閃いた。
「マユッ!」
「ひゃっ!? 急にどうしたのよ!?」
急に叫ぶように呼ばれたため、マユは驚きながらも困惑する。
「────作戦がある、力を貸してくれ」
「作戦……?」
「良いか? あいつが────」
ワルゴが考え付いた作戦を、マユは黙って耳を傾ける。
「────という作戦だ、どうだ?」
「……成功するの?」
「させるんだよ。なにがなんでも」
ワルゴの真剣な眼差しがマユに刺さる。
マユは一度目を閉じ、おもむろに目を開けた。
「────乗ったわ。目にものを見せつけてやるわよ」
逆襲の時だ。
◇
「さて、ユーマはどこに……居たッ! やっぱりあの光はユーマのものだったか。あの時のアルカナを覚えておいて正解だったな……まぁ、覚えてなくても分かりそうな気はするが」
夜空に昇る光を捉えた俺は、直前まで話していた三人の元を離れ、森の中を走り抜けた後に見晴らしの良さそうな木を登り、ユーマの姿と、対峙している巨漢な男を発見した。
……周囲に生徒が倒れている。おそらくは巨漢の男の仕業だろう。その近くには……ワルゴ・アンドリュードルとマユ・シスカが居る。ワルゴが負傷しており、マユがそれを癒しているように見える。
大変そうだ。しかし、先程からマユのアルカナをワルゴに譲渡しているに見えるが……何を考えているのだろうか。
「……と、今はあの2人より、ユーマの方、だな」
二人の激突を目で追う。
とにかく速い。傍から見れば姿を捉える事は難しい。
「伝説の剣と義手の拳との闘い……剣同士、拳同士というわけではないけど、良い味を出している」
どちらも真剣な表情で対峙している。素晴らしい。
「若干ユーマの方が押しているか……さすが主人公」
そして、この闘いでユーマはさらに成長する。
そんな予感がする。
「VIP席から見届ける主人公は、良い思い出になりそうだ」
俺は楽な姿勢を取り、観戦者として行く末を見届けることにした。




