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35.それは、あまりにも唐突に


 「……我らが主人公……どこ?」


 コママと華麗な連携プレイを繰り広げ、ドミニオン財団の一員であるアレクシスを撃退した俺は、洞窟だった所から抜け出した。


 その後は、沼地地帯、氷山地帯、砂漠地帯……といった感じであちこちを駆け回った。


 現在は、森の中を木々に飛び移りながら移動している最中だ。


 たまに襲いかかってくる豹変した異形(モンスター)を持ってきた洞窟の岩の欠片で粉砕したり、異形(モンスター)に苦戦している生徒達を手助けするために、岩の欠片を投擲してナイスシュートと言ってみたり。


 しかし俺は、途中であることに気が付いてしまった。


 「楽しくなって目的を忘れるとか……ちゃんと探せば見つかったかもしれないのにな……」


 そう、主人公(ユーマ)を探すことを忘れていたことに。


 ……だがしかし、そもそも学園バトルロワイヤルを中断させた奴らのせいで、異形(モンスター)を華やかに倒す主人公をこの目で見ることが出来なくなったのが原因だ。


 許せない、万死に値するッ!


 しかし、内心毒づいてもしょうがないのは事実。


 「……まあ、森の中を縦横無尽に移動する経験が出来たのは良かったか。2人が居るところでこんな動きしても着いて来れるかどうかだしな……」


 2人は強いし、猿如く木々を駆け巡りそうだ。


 「……おっ」


 そんな妄想をしながら森の中を駆けていると、前方から月明かりが見えてくる。


 「森の中も良いが、やはり広々としたところが一番、だな」


 月明かりに引き寄せられる────。


 「────綺麗だ」


 暗い森の中を抜けた先には、月光が広がっていた。


 「元居た世界でも、ここまでの技術は無い……おそるべし異世界だ」


 学園バトルロワイヤルに侵入者、荒れる異形(モンスター)、負傷する生徒達。


 そんな状況でも、目の前に広がる景色を見ると、ふと忘れそうになる。


 それぐらい、魅了されてしまう。


 澄んだ夜空に、月が白く優雅な光を放ち、星々が小さな輝きで寄り添うように瞬いている。   


 それはまるで、神聖な舞台のよう。


 「────ああ」


 両腕をおもむろに広げ、目をゆっくりと閉ざす。


 そして、澄んだ空気を感じながら、俺は言葉を紡ぐ。


 「このままずっと、眺めていたい────」


 「ギャギャギャギャッ!」


 「黙れ死ね」


 残っていた岩の欠片を取り出し、切先で突如現れた気持ち悪い生物を脳天を貫く。


 「グギャッ────」


 気持ち悪い生物────ゴブリンは、月光をその身で浴びながら、塵と化した。


 「せっかく綺麗な景色を見て心を満たしていたのに……許すマジだぞ、お前」


 塵に向かって説教する。


 しかし、当然反応は返ってこない。


 「……一気に現実に引き戻されたな」


 心なしか、遠くから悲鳴が聞こえてきた気がする。また犠牲者が現れたのかもしれない。


 「とにかく、主人公(ユーマ)探しは続行だ。さっさと見つけて、この目で勇姿を見届けてやる」


 俺はそう意気込み、ゴブリンの塵を雑に蹴って散らすと、広々としている草原地帯を歩き出す。


 ……すごいな、異形(モンスター)の気配が一切しない。こんなに広々としているぐらいだから一匹や二匹ぐらい居たとしてもおかしくないが……もしかしてさっきのゴブリンで最後だったのか?


 周囲を見渡しながら内心でそう思う。


 相当強い人が近くに居るのかもしれない……そんな事を考えていたら、見覚えがある二つの人物と、見覚えのない紅髪の人物が視界に捉えた。


 「あれは……レイソンとロセリア……と、誰だ? 俺が知らない女子が居るんだが……クラスに居たような、居なかったような……うーん?」


 「……むっ、そこに居るのはシムノじゃないか?」


 右手を顎に添え首を捻らせていると、レイソンが大きな声で俺の名前を呼んだ。


 「呼ばれたからには行くしかないか」


 目的はまだ達成していないが、絶対に避けられない通過点だと思えばいい。全力で逃げるのは……後が怖いから止めておこう。


 「レイソンか、奇遇だな」


 「シムノ、ここは無事だったんだなと言うところだと思うぞ」


 確かに。


 「シムノ君じゃない。貴方、よく生きてここに来れたわね。てっきり野垂死んでるかと思ったわ」


 「勝手に殺すな」


 会ってそうそう毒舌をぶつけてくるロセリア・スミス。こんな状況でも相変わらずのようだ。


 「こうしてシムノが五体満足でここまで来れたのは、運もあってこそなんだろう。なんせ、状況が状況だからな……もしかしたら、既に生徒の半数以上はやられているのかもしれない」


 「運だけが取り柄だって言いたいの?」


 「事実だが面と向かって言うのだけは止めてくれないか」


 さすがの俺でも少し傷付くぞ。


 「────あ、あのっ!」


 ここでついに、紅髪の少女が俺に話しかけてきた。


 「……貴方が、シムノくんですよねっ!?」


 俺に近寄り、背伸びをしながら顔を近付けてくる。


 その際に、目立つアホ毛がぴょんと立つ。


 「お、おう……?」


 あまりに唐突だったため、思わず普段言わない言葉が口から出てしまう。


 「あっ……ご、ごめんなさい」


 自分がやっていることに気付いたのか、少しだけ頬を染めながら後ろに下がる。


 「こ、こうして会話するのは初めてですよね……私は、サコユ・ララバイと言います。同じステラクラスに所属しています」


 えっ、こんな女子居た? いや、居たような居なかったような……居た?


 「……俺は、シムノ・アンチ、だ」


 とりあえず名前だけ名乗っておいた。


 「そ、その、こんな状況なんですが────」


 手をもじもじとさせながら、サコユは言った。


 「────私と、友達になってくれませんかっ!」


 「喜んで」


 「即答するのね……」


 友達なら大歓迎だ。俺の身に余計な事が降り注がない限り、ある程度の友達を作っておいて損はない……決してボッチは嫌だとかは思ったりはしていない。


 「シムノも俺と同じで友達がかなり少ない。こうして自ら友達になってくれと言ってくれる人に対して無下には出来ないはずだ」


 「さらっと俺の事馬鹿にしてないか?」


 「あら、事実じゃないの?」


 「それ言うならロセリアだって……なんでもないからその氷を仕舞え。それで俺になにする気だ」


 無言で氷を生成しないでほしい。


 「良かった……レイソンくんとロセリアさん、シムノくんとも友達になれた……あとは、ユカネさんだけです」


 両手で小さくガッツポーズするサコユ。


 「んっ? ユカネの事を知ってるのか?」


 「はいっ! レイソンくんがシムノくんと一緒に紹介してくれました! ……まだ、会うことは出来ていないんですが……」


 なるほど、友達になりたいんだな。


 「なるほど……俺も球体で飛ばされた以降は知らないな。まあ、どこかで何とかやってる可能性はあると思うけど」


 「そう、ですか。こんな状況ですし、どこかで頑張ってますよね……無事だと良いなあ……」


 なんだこの生き物、可愛すぎか。


 「何か変なこと考えてないかしら」


 「滅相もない」


 危ない、ロセリアに変態認定されるところだった。


 「……というか、ロセリアも友達になってあげたんだな。そういうの苦手そうなイメージだと思ってた」


 俺は即座に話題を逸らすために、ロセリアに話を振る。


 「……いや、それは……」


 俺の問いに、ロセリアは露骨に顔を横に向ける。


 何故俺達から顔を逸らすのだと疑問を抱いたが……


 「ロセリアさんも、私が友達になってほしいとお願いしたら、他にもっと良い人が居るって言っていたのですが、最終的には『私でよければ……』って言ってくれて、友達になることが出来ました!」


 それはサコユが解消してくれた。


 「なるほど、ツンデレか」


 「ああ、ツンデレだな」


 「私はいま猛烈にかき氷を作りたくなったわ。二人とも、材料になってくれるかしら?」


 ロセリアが恐ろしいことを言い出した。女子が男子に言っていい言葉じゃないだろそれ。


 「落ち着けロセリア。あくまで俺たちは事実を言ったまで────」


 ────レイソンが火に油を注ごうとした刹那、光が支配した。


 「むっ!?」


 「ひゃっ!?」


 「い、一体なんの光!? 眩しい……!」


 「おいおい今度は一体何が────」


 俺は、その正体を確認するために、その光をこの目で確認する。


 「────」


 その光は、『希望』だった。


 夜空を突き抜けるその光は、まるで大地から天へと伸びる刃のよう。


 侵入者によって荒れてしまったこの舞台に、一筋の希望が、俺達の元へと降臨した。


 それにより、辺りにいる者たちはその迫力に圧倒され、ただ呆然と見上げるしかない。


 「き、きれい……!」


 最初に声を上げたのは、サコユ。


 「……この圧倒的なアルカナ、一体、どこの誰が……まさか……!」


 次に、驚きと戸惑いを隠しきれないロセリア。


 「……やはり、とんでもない男だ」


 次に、何かを確信しきったレイソン。


 そして────


 「シムノくん、見てくださいっ! あんなに綺麗な光、初めて見まし───って、あれ?」


 サコユが後ろを振り向きながらある人物に話しかける。


 「……シムノくん?」


 アホ毛と首を傾けながら、少女は言う。


 「────消えちゃった?」


 シムノ・アンチは、この場から姿を消した。 


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