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34.駆け付ける主人公


 「言え」


 月明かりによって照らされている草原に、鈍い音が響き渡る。


 「ユーマ・グレーシアはどこだ」


 巨漢の男が、義手の拳を握り締め、拳を正確に頬に打ち込む。


 「ウガッ!?」


 打ち込まれた男の顔が歪む。既に何発も拳を受け、頬には紫色の痣が浮かび上がっていた。肌は腫れ上がり、呼吸は荒れていた。


 「もう一度言う」


 そんな様子でも、おかまいなしに巨漢の男は問う。


 「ユーマ・グレーシアはどこだ」


 男の返答は決まっていた。


 「だから、知らねえって言ってるだろっ!」


 「……聞き分けのない小僧だな」


 巨漢の男────ジャックスは、再び義手の拳を男に打ち付ける。


 「グガ…ぁ……」


 鈍い衝撃が骨に伝わり、男の口から鮮血が飛び散る。


 「ワルゴ・アンドリュードル、貴様はユーマ・グレーシアと同じチームのはずだ。知っているだろう、奴の居場所を」


 「だか、ら……知らねえって、言ってるだろうがっ……!」


 ワルゴの周囲の草は鮮やかな緑を失い、赤に染まっていく。草の間に、無数の赤い斑点が広がっていく。


 「そうやって嘘をついても何も良いことはない。動揺が隠しきれておらず、表情にも出てしまっている」


 「ッ……! だからといって、お前みたいな奴に教えるわけがないだろうが……!」


 「そんなことを言って、お前以外の生徒はどうなった?」


 睨んでいるワルゴを見下すように見ながら、ジャックスは現状を口にする。


 「貴様達で示し合わせ、俺を狙うように一斉に飛びかかってきたのはいいが、少し拳を振るっただけで地に横たわり、木々にぶつかり気絶し、意識がある奴らにユーマ・グレーシアの居場所を吐かせようとしても決して口にせず、拳を少し振るうだけで簡単に意識を手放す……弱さを証明し、質問にも答える事も出来ない凡人以下、それが貴様達の現状だ」


 淡々とそう告げるジャックス。


 「……ああ、そういう意味では、お前は他と比べても頑丈だからマシかもしれないな。最も、ただそれだけに過ぎないが」


 そのあまりの言い分に、ワルゴはジャックスによって体中に大怪我を負っているにもかかわらず、その痛みを無視するかのように身を乗り出す。


 「ふざけんなッ! お前と違って皆は────」


 激痛が全身を貫いているのが明らかだったが、その目にはまだ消えない闘志が宿っている。ワルゴは相手を追い詰めるかのごとく叫び声を上げ、ジャックスの言い分を否定しようとした。


 「────」


 ────しかし、義手の拳が頬に振り下ろされたことにより、最後まで口にする事が出来なかった。


 「……誰が喋って良いと言った? 誰が否定しろと言った? 誰が叫べと言った?」


 疑問を投げ掛ける度に頬を殴る。


 「ただ俺の質問に答えろ……お前は、ユーマ・グレーシアと同じチームだ。つまり、お前は知っているだろう? ユーマ・グレーシアの居場所を」


 そしてまた殴る。


 その度に、鮮血が口から吐き出される。


 「……ぅ…………ぁ……」


 ワルゴは、ジャックスに向けて手を伸ばし、抵抗の意思を見せる。


 「……くだらんな」


 ただ冷静に、そう吐き捨てる。


 「お前は弱い。こうして俺に蹂躙され、己の力で抵抗することも叶わない。助けを呼ぶこともロクに出来ず、ただ孤独に絶望していく……ふむ、弱い者にふさわしい末路とも言えるだろう」


 ワルゴが伸ばしていた手が、無情にも地面へと落ちる。


 「しかし、そんなお前を殺すわけにもいかない。殺す対象は既に決まっているのだからな」


 ワルゴでも理解できる。その対象は先程から口にしているユーマ・グレーシアなのだろうと。


 「お前は、その前菜にすらなることはない……さて、改めて問おう」


 ────再び義手の拳を握る。


 「ユーマ・グレーシアは、どこだ?」


 どうせこいつが口に出すことはない。


 ユーマ・グレーシアと全く関係のない返答が返ってくるか、そもそも返答すらしないか。


 もしそうだとするならば、青くなった頬を淡々と殴り続けるだけだ。


 ────ジャックスは、そう考えていた。


 「……ゆー、ま、は……」


 ここで初めて、ワルゴの口からユーマ・グレーシアの名前が出る。


 「……」


 先程とは違う流れにジャックスは口を閉じ、ワルゴの口から出る回答を待つ。


 ────ようやく、俺の望む答えが返ってくるのか。


 「ユーマ、は……」


 ユーマ・グレーシアの居場所は?


 「おま、えの……」


 ────しかし、その疑問は、すぐに解消することになる。


 「────目の前、だぜ……!」


 ワルゴは、はっきりとそう言った。


 「ッ!」


 ジャックスはワルゴから視線を外し、顔を上げた。


 目の前には、鋭い眼差しを放ちながらこちらに迫ってくる影が1つ。


 ジャックス達が任務を遂行する前に資料にて確認していた見覚えのある姿────ユーマ・グレーシアが、目の前まで迫ってきていた。


 「────僕の友達になにしているんだ?」


 冷ややかな声が響く次の瞬間、ユーマの手には一振りの剣が輝きを放つ。


 それは、伝説の剣と称されている、エクスカリバー。


 銀光が一閃し、空気を裂くように振り下ろされ る。


 「ぬぅッ────!?」


 ジャックスは咄嗟に義手を横に構え、振り下ろされる斬撃を受け止める。激しい衝撃が義手から全身に伝わり、足元が揺れる。 しかし、その一撃は彼の想像を超えていた。

 

 「────ぐッ!?」


 防いだものの、勢いを殺しきれず、ジャックスの身体は後方に吹き飛ばされる。衝撃が体を襲い、ジャックスは近くにそびえる大樹に背中を強く打ちつけられた。


 「大丈夫か!? ワルゴッ!」


 危機一髪のところでワルゴを救った主人公(ユーマ)は、倒れているワルゴに向けて心配の言葉を投げかける。


 「……くる、と、思ってたぜ……ユーマ……!」


 ワルゴは震える手を動かし、ユーマに向けて親指を立てる。


 「親指を立てるなら、僕にするよりも彼女にした方が良いかな」


 「それは、どういう……」


 「ワルゴッ!」


 ユーマに聞く前に、叫び声と共にこちらに向かってくる存在。


 「マユ……!?」

 

 ユーマと同じくチームメンバーであった少女、マユ・シスカがワルゴの元へと駆け寄る。


 「お前、せっかく逃げれたのに、何で戻ってきたんだよッ!」


 「私が何もしないで逃げると思うッ!? 走り回ってユーマ君助けてってずっと叫び続けて、ユーマ君が私に気付いてくれたから、ここに駆け付ける事が出来たの! だから、今は余計な事を言わずにじっとしていなさいよッ!」


 「お、おう。悪い……」


 マユの気迫に圧倒される。


 起き上がろうとしたワルゴの体がマユによって無理やり押し戻される。


 「動いたら駄目だからっ!」


 両腕を痣だらけの頬へと伸ばす。


 『キュアー』


 マユの得意技になりつつある治療に特化したアルカナを使用し、ワルゴの傷を癒そうと奮闘する。


 「頬だけじゃなくて体の傷も酷い……あんた、どれだけあいつにやられたのよっ……」

 

 マユの言葉を表すかのように、ワルゴの傷が中々癒されない。


 そもそも、この草原地帯に居たワルゴ以外の生徒が、ジャックスの手によって全員重傷を負って倒れているため、ワルゴの傷は不自然ではない。


 ゆえに、マユはかなり焦っていた。


 「俺は弱いが、無駄に頑丈なのが取り柄ぁからな。だから俺なんかより他の奴らの治療にしたほうがイテテテテテッ!?」


 「一番重傷なのに意識ある方がおかしいのよっ! ああもう!」


 マユはアルカナの出力を上げる。

 

 ほんの少しずつだが、ワルゴの傷が癒されていく。


 「……うん、ワルゴに関しては、マユに任せた方が良さそうだ」


 後ろを振り返り2人の様子を見ていたユーマは、小さく頷いた後、ジャックスが吹き飛ばされた大樹の方に視線をやる。


 「……僕は、こんな状況にした不届き者を倒さないといけないからね」


 爆発と共に、そびえ立つ大樹が一瞬で木片と化し、四方に飛び散った。


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