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29.殺すのも吝かではない


 「ああ、もう! 数が多すぎるわ!」


 腰まで伸びた金髪が靡く。


 『フロスト・バラージ』


 少女はアルティメットを叫び、無数のツララを生成する。向かう先は、目の前で立ち塞がるゴーレムたち。


 「グオオオォォォ……」


 放った氷の刃は、ゴーレムたちの巨体を貫き、内部から氷が侵食していく。巨足のような足をゆっくりと踏み出していたが、次第にその動きは鈍り始め、巨体は氷によって包まれる。


 その状態を確認した後、少女は右手を掲げた。空気が冷たく震え初め、鋭く輝く氷の剣が形を成す。


 「ハアアアァァァ!」


 右手だけで握った氷の剣を、横に振り抜いた。


 空を裂く音が響き、剣の軌跡に凍気が舞う。


 一文字の斬撃が、鈍く凍りついたゴーレムたち届いた刹那、巨大な岩の体は氷の破片となり、粉々に砕け散った。


 「……これでやっと落ち着けるわね」


 氷の破片が、地に崩れ落ちていく。


 「全く……そもそも何でこんなところにゴーレムが居るのよ……!」


 氷の剣を振るっていた金髪の少女────ロセリアは、不満を隠さずにそう言った。


 「本来なら洞窟で出現する異形(モンスター)だったはず、それなのに、こんな草原が広がる場所で遭遇するなんて……明らかに、さっきの異変が原因ね」


 ロセリアも例外なく、球体に飛ばされ墜落している。その場所が、見渡しの良い草原だったということだけ。


 しかしその前に、ロセリアは球体に包まれ上空に飛ばされた時、奇妙な光景を確認していた。


 「加えて上空での移動中に周囲を観察していたら……火山地帯にスライム、墓地にドラゴン、砂漠に氷の精霊……環境に応じていない異形(モンスター)が居たという事実」


 何が起きているのかはっきり分かっていないが、目に見えて分かるものはあった。


 「このダンジョンに、私達を(おびや)かす存在が現れたということ……これしか、考えられないわ」


 その考えは何も間違えていなかった。ステラクラスの優等生は伊達ではない。


 ロセリアは顎に手を添え、歩きながら思考の世界へと沈む。


 「となると、まずはその犯人を探さないといけないわね……敵は1人? いえ、ここまで大規模の混沌を引き起こすなら、集団で起こす方が容易……この広いダンジョンかつ、そこそこの戦闘力を有しているなら、4人ぐらいで攻めても支配することは出来るかしら────」


 「────すごいですね、正解ですよお嬢さん」


 背後から、男の声が響いた。


 「ッ!」


 0.1秒で思考の世界から脱出し身を翻す。瞬時に氷のツララを生成し、声の主へと放った。


 「物騒ですね、いきなり攻撃を仕掛けるなんて……」


 唐突に氷の刃が迫るも、男は慌てることなく短刀を引き抜き、そのまま迫り来るツララを一閃。刃が氷に触れた瞬間、ツララは弾き飛ばされ、砕け散った破片が宙を舞う。


 「……あら失礼、背後から話しかけられるとついやっちゃうのよ」


 「お嬢さんではなく野蛮さんと呼び直しましょうか?」


 「レディに失礼なあだ名をつけないでくれないかしら」


 「失礼ではなく、事実を言ったまでですよ」


 互いに一定の距離を保ちつつ、会話の応酬を繰り広げる。


 「お名前を伺っても?」


 「侵入者に名乗る義理があるとでも思ったのかしら」


 「ファーストコンタクトは名前を伺うのが基本でしたので」


 「そういうのは自分から名乗るものなのよ」


 二人の表情には笑顔が張り付いており、一見すると冗談を言い合っているように見えなくもない。


 しかし、この場所は学園バトルロワイヤルの会場であるダンジョン、学生が集う場所。


 一人は学園指定の制服を着用している女子、一人はシャツにパーカーを羽織っている男子。


 異物がどちらなのか、誰に聞いても満場一致の答えが返ってくるだろう。


 ロセリアが大きくため息を吐く。


 「─────ロセリア・スミス。貴方……いえ、貴方たちの目的は、なに?」


 ロセリアは名乗り上げると同時に、確信めいたように男に問う。


 男の口の端が、僅かに上がるのが見えた。


 「────サイファーです。俺はただ、学園バトルロワイヤルという行事に興味を持ちましてね。教師の皆さんに許可を貰って、皆さんを応援しに来ました」


 「嘘ね」


 「はい嘘です、よく分かりましたね」


 パチパチと拍手をするサイファー。誤魔化すつもりは毛頭無いらしい。


 そもそも、あるものが視界に入ってからロセリアは確信していたことがある。


 「その紋章、ドミニオン財団ね?」


 「……ほう、知っているのですね」


 サイファーの雰囲気が変わる。してやったりという顔を浮かべるロセリア。


 「雲隠れしながら活動していたみたいだけど、最近は随分とガバガバになっているみたいね。そんなのが財団を名乗るなんて笑えるわ」


 挑発するようにケラケラと笑うが、警戒を強めていく。


 「これは我らの存在意義を示す紋章。常日頃から肌身離さず身に付けているものですので」


 そう言いながら紋章を軽く撫で回している。はっきりいって気味が悪い。


 「……私からいくつか質問があるわ」


 「……どうぞ?」


 それ以上気味が悪い光景を見たくないと思ったロセリアは、サイファーに疑問を投げる事にした。


 「異形(モンスター)の様子がおかしいのは貴方のしわざ?」


 「生徒たちには、より楽しんでもらおうと思いまして」


 「教師の皆は?」


 「今頃夢の世界じゃないですか?」


 「何人居るのかしら?」


 「黙秘権を行使させていただきます」


 「目的は?」


 「黙秘権を行使させていただきます」


 「そう。最後に一つ」


 右手を下げたまま、氷の剣を生成する。

 

 「────私が、黙秘する目的を妨害すると言ったら?」


 サイファーの短刀の切先が光る。


 「────殺すのも、吝かではありませんね」

 

 2人の姿が瞬く間に消える。


 次の瞬間、空気を裂く音と共に氷の刃と鋼の刃が激しく衝突した。

 

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