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28.花火と鎮魂歌


 「────」


 「……どうかしましたか?」


 「────いや、なんでもない」


 レイソンは見開いた目を元に戻す。


 そして視線を落とし口元に手を軽く当てた後、顔を上げサコユを見据える。


 「……もう一度、俺の名前を言ってみてくれないか?」


 「……レイソン・アークァーくん?」


 「……」


 聞き間違えなどではない。サコユは、間違えることなくしっかりと、目の前に居る男の名前を正確に言った。


 「────何故」


 「?」


 サコユが首を傾げ、不思議そうな顔でこちらを見てくる。


 「いや、なんでもない」


 レイソンは、先程の台詞を繰り返し口にした。


 「なら大丈夫ですね!」


 サコユは何の疑問も持たずに、レイソンに笑顔を見せながら納得した。


 その顔を見たレイソンは小さく息を吐き、再び真顔のままサコユに話しかける。


 「サコユは、これからどうしようと考えているんだ?」


 「えっ……どうしましょう。これからのことは、特に考えていませんでした」


 だろうな、とレイソンは内心で納得する。急に球体に飛ばされたと思いきや、地面に叩きつけられ気絶し、挙げ句ゴブリンに襲われそうになり俺により森の奥にさらわれた……これからのことなんて、考える暇があるわけがない。


 「そうか。俺も特に考えていない」


 とはいえ、レイソンも例外ではない。


 球体に飛ばされ叩きつけられゴブリンを吹っ飛ばして少女をさらったのだ。何が起きているのかあまりよく分かっていないため、どう動けば正解なのか理解出来るはずもない。


 「こういう時は、誰かと合流する、が鉄則ですよね」


 「……なるほど、合流、か」


 闇雲に歩き回るより、何か目標を決めて探索した方が幾分マシなはず。俺達は、無駄に時間を費やす事になりかけたため、サコユの案はレイソンにとって魅力的な提案だと思えた。


 「シムノとユカネの2人と合流して、情報を交換して……気絶している人が居たら都度救出して……いや、ユカネはともかく、シムノは気絶しているんじゃないだろうか……ここはロセリアも探すのを視野に入れるか……」


 口に手を当てぶつぶつと独り言のように喋り出すレイソン。


 レイソンの言ったことをしっかりと聞いていたサコユは、個人的に気になった事を質問した。


 「シムノとユカネという人は、もしかしてレイソンくんのお友達ですか?」


 「……むっ、まあそうだな。最近友人になったばかりだが、仲良くしてもらっている」


 「そうだったんですね」


 「サコユは、仲が良い友人は居たりするのか」


 そう言うと、何故か顔を赤らめながら俯くサコユ。


 「……恥ずかしながら、まだお友達が居なくて……」


 「……今回で一緒のチームになった生徒とは?」


 「……その、あまりお喋りが得意じゃなくて……」


 「……そうか」


 レイソンは、聞いたことを少し後悔した。


 「……あの!」


 「!? ……どうした?」


 急に大声を出したサコユに、レイソンは肩を軽く揺らしたが、すぐに落ち着きながらサコユに問いかける。


 「……もし、お二人と合流できたら……」


 モジモジしながら喋り出すサコユ。


 「……わ、私にも紹介してほ────」


 「ギャギャギャギャッ!」


 しかし、森の茂みから飛び出してきたゴブリンによって、サコユの願いの言葉は遮られてしまった。


 「……!」


 レイソンはすぐさまピストルを召喚し、ゴブリンの脳天に向けて引き金を引く。


 「ギャアアぁアアぁア!?」


 放った弾は命中し、おぞましい雄叫びを上げながら、頭に穴が空いたゴブリンはサコユの隣に倒れる。


 「ひゃッ!?」


 腰が抜け、顔を青くしながら後ずさるサコユ。


 「大丈夫か?」


 そんなサコユに、レイソンは心配しながら手を伸ばす。


 「あっありがとうございます……」


 サコユも手を伸ばし、レイソンの手に掴まりおもむろに立ち上がる。


 「……まずいな」


 「ど、どうかしましたか?」


 恐る恐るサコユが聞く。


 「────囲まれている」


 レイソンの独り言を皮切りに、周囲から緑の住人達が姿を現した。


 「ギャギャギャ……」


 「グギャッ、グギャッ」


 「ガアァァ……」


 総数は……100体は軽く超えている。


 「近くがゴブリンの住みかだからか……どうやら、俺が激しくやりすぎたせいで、怒っているみたいだな」


 レイソンはピストルを1体のゴブリンに向け、引き金を引く。


 「ギャアアアアッ!」


 雄叫びを聞いた後、ピストルを消滅させ、代わりの銃を召喚した。


 ────アサルトライフルだ。


 「サコユは俺の後ろに隠れてくれないか。こいつらは俺が直々に粛清する」


 そもそもバズーカで派手に吹っ飛ばした事がゴブリン達の怒りを買ったのだろうと、レイソンは内心で結論付ける。


 サコユにこの事実がバレてないといいが。と思っていると、レイソンの隣から音符が通り過ぎた。


 「ギャフッ!」


 そしてそれはゴブリンに命中し、かなりの勢いで後方に飛び、木に叩きつけられた。


 レイソンはその光景を見届けた後、後ろに振り向く。


 「私はあまり強くないですけど……ゴブリンの一体や二体ぐらい、私でも倒して見せます!」


 周囲に音符を浮かしながら、サコユは自身を奮い立たせていた。


 「……そうか、本来なら別のチームだが、こんな状況だ。共闘といこうか」


 「はい!」


 サコユが元気良く返事をすると、それを皮切りに周囲のゴブリンが俺達に襲ってくる。


 「ギャアアアアッ!」


 軽やかな音符の音と、乾いた銃声が、森の中で反響し始めた。




 ◇




 ゴブリン無双をしてから約1時間が経過した頃。


 「……キリがないな」


 「ふう……ふう……」


 レイソンとサコユは、未だに突破口が見えないで居た。


 「どうやら、この森全体もゴブリンの住みかみたいだが……何故ここまで暴走している」


 「……何だか、怖いです。まるで、全力で殺しにかかってきていような……」


 「……そうだな」


 その通りだ。学園バトルロワイヤルが始まった時と比べ、明らかに様子がおかしい。あくまでこのイベントは実質試験のようなもの。いくら異形(モンスター)が危険な存在とはいえ、生徒達には怪我する程度の攻撃しかしてこなかった。


 しかし、このゴブリンはもちろん、おそらく他の異形(モンスター)は確実に()()()()()()()()()()()


 加えて、今は安全装置であるあの球体が自動的に発動しないため、()()()()()()()()()()()()()()に陥ってしまっているのが現状だ。


 「どうすればこの状況を打破できる。また正面突破でもするか……?」


 思考をしていてもレイソンは攻撃は止めない。ひたすらライフルをゴブリンに向けて撃ちまくる。


 「もしくは辺り一帯を爆破……」


 それは無し。この森で爆破すれば、たちまち森は燃え尽くされ、ゴブリンと共に二人も丸焦げになってしまう。


 「……ふむ」


 万事休すか。レイソンは内心で若干焦りを感じていると。


 「……私に、考えがあります」


 サコユが、レイソンの隣に並びながら突然そう言った。


 「何か策があるのか?」


 「ふぅ……今は、とにかく時間がありません。まずは、レイソンくんのアルカナを少量で良いので私にください」


 「やろう」


 レイソンはライフルをサコユに向け、引き金を引き一発ぶちこんだ。


 「ひゃっ!?……あれ、痛くない……」


 サコユは反射的に両手を前に突き出すが、痛みは一向に感じない。代わりに、自分とは別のアルカナが、身体の内部に存在している事を確認する。


 「渡し方が物騒で済まない」


 レイソンは、迫り来るゴブリンをライフルで撃退しながらサコユに謝罪した。


 「……ふふっ、いえ、ありがとうございます」


 こんな状況なのに、少し笑ってしまうサコユ。


 しかし、サコユはすぐに真剣な顔に戻り、落ち着くように大きく息を吐く。


 「……私がお願いすることは一つです」


 レイソンの少し後方に下がり、両手を祈るように合わせる。


 サコユのお願いは────


 「耐えてください」


 ただそれだけ。しかし、様々な意味が込められている気がする。


 レイソンはそう感じた。


 「────託された」


 サコユの考えは一切聞いていない。しかし、レイソンは疑問を一切抱かずに、ただそう返事した。


 それを聞いたサコユは少しだけ顔を伏せ、アルカナを循環させるのに徹し始める。


 「邪魔だけはしてあげるな」


 「ギャアアアァァァ!」


 レイソンは、余計なことを考えるのを止め、迫り来るゴブリンを蹂躙することを決めた。


 「ギュアッ!?」


 ライフルで滅多打ちにする。


 「……ギィッ!?」


 時には、スコープも覗かずにスナイパーをゴブリンの脳天に命中させる。


 「ギャ!?」


 時には、初心に戻るようにピストルで的当てのごとくゴブリンの脳天に命中させる。


 「ギ……」


 時には、サコユの背後から迫るゴブリン共を、悲痛な声も許さない勢いでショットガンで一網打尽にする。


 「────アルカナの消費が激しいが」


 そしてレイソンは、この状況において最善の正解をにたどり着いた。


 「これで舞おう」


 二丁のサブマシンガンを召喚し、右手と左手で引き金に指を構える。


 『ソウセン・ランブ』


 次の瞬間、レイソンは自分自身を回転しながら、踊るようにサコユの周囲を回る。


 「グギャアァア!」


 「ギ!?」


 四方八方から迫り来るゴブリン。


 しかし、レイソンは滑らかに舞い、サコユに近付く事を一切許さない。


 ひたすらに、ゴブリンを撃つ、撃つ、撃つ、撃つ。


 ────そして、遂に時は訪れた。


 「整いました!」


 サコユは閉じていた目を開き、大きめの声でレイソンに叫ぶ。


 「頼んだ!」


 レイソンはサコユを信じて、攻撃の手を止める。


 「────それでは、聴いて下さい」


 サコユは手元にマイクを召喚し、口元を近付ける。


 『夢幻鎮魂歌(ムゲン・レクイエム)


 透き通るような声が、騒がしい森に響き渡る。


 「────これは」


 その歌声は、静かに周囲を包み込み、迫り来るゴブリンたちの目が徐々に重くなっていく。


 「ギュア……」


 荒々しい怒声が消え去り、やがて森全体に潜むゴブリン全員が深い眠りに陥った。凶暴だった顔も、今はどこか安らかで、まるで無垢な生き物のように見える。


 「ふう……何とか効いてくれました……あっ」


 サコユは額の汗を拭い、レイソンに近付こうとするが、脚に力が入らず、前のめりに倒れ込む。


 「わぷっ」


 「大丈夫か」


 レイソンは急いでサコユに近づき、小さな身体を受け止める。


 「……あはは、ありがとうございます……貯めていたアルカナ、全て使いきってしまいました」


 「だろうな」


 森全体の規模に向けて、自らの歌声を聴かせた。かなりのアルカナが必要だったことは、想像に難くない。


 「俺のアルカナを欲しがったのは、そういうことか」


 「やっぱり分かっちゃいましたか……そうです、私の歌声は、事前にアルカナを覚えさせれば、対象から外れる仕組みになっているんです」


 「すごいな」


 レイソンは素直に称賛した。例えアルカナランクがGでも、やりようによってはSにも匹敵するほどの力を持っていることに。


 「ありがとう、ございます……ふう……」


 サコユは疲れきった顔を隠そうとしない。それほどまでに消耗してしまったのだろう。


 そんな顔を見たレイソンは、ただ一言。


 「歌、良かった」


 サコユがレイソンの顔を見る。


 「出来ればまた、聴かせてくれ」


 レイソンは、サコユに約束を取り付けた。


 「……はい、いくらでも!」


 サコユは、はにかんだ笑顔で了承した。


 その顔を見たレイソンは、少しだけ口角を上げ、また元の真顔戻る。


 「さて……」


 レイソンは周囲を見渡す。


 緑の住人が気持ち良さそうに寝ている。


 「こいつらは、しばらくしたら目覚めたりするのか?」


 「えっ……そうですね、すぐには覚めないと思いますが、いずれは起き上がると思います」


 「分かった、サコユ。お前はしばらく休んでいてくれ」


 「え?」


 「────やることがある」


 レイソンは、最後の仕上げに取りかかった。




 ◇




 「これで終わりだ」


 担いでいたものを、山に積み上げる。


 「……ゴブリン達をここに集めて、何するんですか?」


 サコユが見上げている山は、ゴブリンの山。レイソンが森全体を散策し、担いで持ってきたらいつの間にか山が出来上がっていた。


 「これから分かる……動けるか?」


 「あっはい。少し休憩したので、歩けるようにはなりました」


 「そうか、なら着いてきてくれないか?」


 「? ……分かりました」


 レイソンが歩き出し、サコユがその隣に並び一緒に歩く。


 少し歩いたところでレイソンは立ち止まり、後ろに振り向いた。


 「ここまでくれば大丈夫だろう」


 サコユも立ち止まり、レイソンと同じく後ろに振り向く。


 「急に振り向いてどうしたんですか?」


 サコユは、これからレイソンが実行することに気付いていない。


 「────こうするためだ」


 レイソンは、片膝を地面に付け、もう一方の足を前に踏み出す。


 そして、あるものを召喚した。


 「……あっ」


 ─────バズーカだ。


 サコユも、レイソンのバズーカを見て思い出した。あのバズーカは、この生徒のものだったんだということを。


 「俺達は危ない目にあったんだ。これぐらい、許して貰えるだろう」


 バズーカの発射口に、アルカナを吸収させる。


 「────そうですね」


 サコユは、この光景を見届けることに決めた。


 「よし」


 吸収は完了した。最大出力で、発射できる。


 レイソンはおもむろにトリガーに指をかけ────


 『タマヤ』


 引き金を引いた。


 焔の弾が、ゴブリンの山に向かって疾走する。


 着弾と同時に轟音が響き、ゴブリンたちは一瞬で蒸発し、残骸も何もかも一緒に消え去った。


 燃え盛る森が、周囲を明るく照らしている。気付けば、このダンジョンにも夜が訪れていた。


 「……さて、移動するか」


 「……そうですね」


 燃え盛る光景を背にしながら、2人は歩き出す。


 「あっ……そういえば、言いそびれた事がありました」


 「なんだ?」


 レイソンは正面を向きながら、サコユに問いかける。


 サコユも正面に向いたまま、レイソンに願いを口にした。


 「────シムノとユカネという人に合流出来たら、私にも紹介してくれませんか?」


 レイソンの答えは決まっていた。


 「ああ」


 その答えを聞いて、ユカネは満足したように微笑んだ。

 

見つけて下さりありがとうございます。


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