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27.レイソン・『アークァー』


 「フッ、フッ、フッ…」


 森の中、木々の隙間から漏れる僅かな光が、男の汗に濡れた顔をかすかに照らす。男の荒い息遣いだけが、森の空気の中に響いている。


 「……」


 背中には、アホ毛が特徴的な紅髪の少女が眠るように……いや、気絶するように意識を失っている。決して重くはないため、足を止めることなく森の奥深くへと駆けていく。


 「……ふむ、ここまで来れば大丈夫か」


 そして男は……レイソンは、森の少し開けた場所に出ると、周囲を見渡しながら、紅髪の少女を枯れ葉の山に寝かせる。


 「……意識はまだ……戻らないか」


 ふう、と小さな息を漏らす。


 「落ちた先がゴブリン達の住みかだったとはな……バズーカをあんなに酷使したのは久しぶりかもしれないな」


 シムノとユカネとは別の場所に飛ばされ、墜落した場所がゴブリンの住みか。墜落の衝撃でゴブリンが数体消し飛んだが、球体から脱出したレイソンにめがけて大量のゴブリンが押し寄せてきた。


 レイソンは皆殺ししようと考えたが、さすがに数が多すぎるがゆえ断念。代わりにショットガンを撒き散らしゴブリンを蜂の巣にしながら、猪突猛進のごとく前方へと走り続けた。


 「……サコユ・ララバイ、ステラクラス所属、順位は現在36位……」


  ゴブリンの大群を背に、俺が走って逃げていると、視線の先に横たわっている少女が映った。


 そして、それに目掛けて襲おうとするゴブリン。


 「アルカナランクはE……なるほど、墜落の衝撃に耐えられなくて気を失っていたってことか」


 絵面的に不味いと感じたレイソンは、ピストルで脳天に命中させ撃退。


 流れるように紅髪の少女を横抱きでかっさらい、先にある森の中へ飛び込む……前に、俺を襲い、横たわる少女に手を出そうとしたゴブリンの大群に目掛けて、一発のバズーガをぶち込んだ。


 とても爽快だった。


 「しかし、シムノとユカネはもちろんだが、他の皆は大丈夫なのだろうか……」


 森の中に入る前、周囲には異形(モンスター)に立ち向かっている生徒が複数居た。その中には、気絶している生徒も何人か見受けられたのだが……


 「祈るしか無い……か」


 さすがに助けるのは断念した。どうか無事でいてほしいと願う他なかった。


 「……んぅ……?」


 「む?」


 これからどうしようかと考えていると、枯れ葉の山に寝かせていた少女がゆっくりと瞼を開く。


 レイソンは一度思考を止め、ユカネの前にしゃがみこみ視線を合わせる。


 「大丈夫か?」


 ただ一言、安否確認のために口にする。他の生徒ならもっと気が利いたセリフを言えるかもしれないが、レイソンには難しかった。


 「……私、は……」


 何故か静かに涙を流し、俯き始めた少女。レイソンは知らぬ内に自分は何かしてしまったのかと困惑するが、生憎と心当たりは無い。


 そして、少女は顔を上げ、涙ながらに言った。


 「────死んじゃったんですね」


 「勝手に死ぬな」


 レイソンは必死に経緯を説明し始めた。




 ◇




 「────すみませんでした。勝手に死んですまませんでした」


 「頭を上げてくれ。あとお前は死んでいない」


 どうしてこの森の中に居るのか、一体今は何が起きているのか……など、様々な経緯を説明し終えたと思えば、おもむろに立ち上がり、流れるように頭を下げ初めたユカネ。


 「……でも、危なかったのは事実ですよね」


 「それは事実だな」


 「……ゴブリンに襲われそうになったんですよね」


 「それも事実だな」


 「……私、まだそういう経験はしたことなかったのに……」


 「それもじ……待て、直前で助けたって言ったはずだが」


 「そうでしたっけ」


 「そうだ」


 「……変なこと言ってすみません」


 「頭を上げてくれ」


 埒が明かないな。そう思ったレイソンは真顔のままサコユに告げる。


 「……人は、感謝されて喜ぶ生き物らしい」


 どこかで見た文献に記載してあった内容をそのまま口にする。


 「……なるほど、確かに喜びを感じた方が、穏やかになれますもんね」


 「そういうことだ」


 レイソンは頷く。


 喜びという感情は、人が自己の人生に意義を見出し、自らの目標や価値観に沿って得られる感情だと思っている。


 ……つまり、喜んだ方がなんだかんだ良かったりする。


 「分かりました、えっと……」


 レイソンを見ながら困惑するサコユ。


 「……どうした?」


 レイソンは察する事が出来なかった。


 「……お名前を、聞いてもいいですか」


 「確かに名乗っていなかったな」


 レイソンは先程確認したから良いものの、サコユは目覚めたばかり。当然確認しているはずも無かった。


 「ステラクラス所属、レイソン・アークァーだ」


 所属クラスと名前だけ言った簡単な自己紹介。入学式の時は何となくそれだけじゃ駄目だと思い趣味まで暴露していたが、今はそういう場面でも無いため、簡潔に答えた。


 「あっ、同じクラス……私が覚えていないだけでしたね」


 えへへと言いながら頬をかくサコユ。


 サコユの事は先程確認するまで覚えていなかったことを、レイソンは口にしないと決めた。


 サコユが咳払いをし、レイソンの顔を見る。


 「私はステラクラス所属、サコユ・ララバイと言います。アルカナランクはE、趣味は音楽を聞いたり、歌を歌ったりすることです」


 よく聞く女子らしい普通の自己紹介。


 「よろしくお願いします」


 しかしこの瞬間、レイソンの人生の中で一番に匹敵する程の驚愕な内容を耳にすることになる。


 「────レイソン・アークァーくん」


 レイソンの目が、大きく見開かれた。

 

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