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26.『たかいたかーい!』


 「……まずは、そこの王女から」


 ゆっくりとした足取りでコママに近付いていく。


 次の標的に選ばれたのは王女コママ。俺は少し後ろの方に居たから、貧乏くじを引かせてしまったようだ。


 「(わたくし)の事ご存じなのですね」


 「……王女は有名、当たり前」


 アレクシスの足は止まらない。


 「ふふっ、アイドルみたいで良いですね」


 「そんな機敏に動けるとは思えないが」


 コママがアイドル……何だか、足を滑らせてそのままフェードアウトしそう。


 「ええ、(わたくし)の場合、機敏に動く必要が一切ありませんから」


 「やけに断言するな」


 「事実ですから」


 俺よりもアルカナランクが低いというのに、何故か自信があるコママ。自信家なのか?


 「……心配しなくても、一発で終わらせる」


 「どうぞご自由に」


 コママの言葉を皮切りに、アレクシスは地面を蹴った。


 「……覚悟」


 拳にアルカナを宿し、握りしめた拳は迷うことなくコママへ向かって一直線に伸びる。アレクシスは風のような速さで迫っていた。


「────」


 だが、コママはわずかに目を細め、口の端を歪めた。


 アレクシスの拳がコママの顔に迫る。


 そして、ついに衝突した。


 「……ッ!?」


 ────ように見えた。


 「……届かない……!?」


 アレクシスの拳は、見えないナニかによって阻まれていた。


 「どうかしましたか? まさか、か弱い少女に傷さえつけることも出来ませんか?」


 煽るように言いながら、一歩、一歩と少しずつ前に進む。


 それと同時に、アレクシスもナニかに押され、少しずつ後退していく。


 「……ッ!」


 得体の知れない存在を見るような表情を見せた後、コママの側から離脱し、洞窟の天井に足をつけ逆さまになるアレクシス。


 「コウモリかよ」


 俺が一言呟くと同時に、アレクシスは力強く蹴り出し、鋭い音を奏でながら再びコママの元に接近する。


 「……こんな生徒……王女が居るなんて、聞いてない」


 殴る、蹴る。


 「そうおっしゃってくださるなんて、光栄ですね」


 殴る、蹴る、殴る、蹴る。


 「……別に褒めてない」


 殴る、蹴る、殴る、蹴る、殴る、蹴る!


 ありとあらゆる武術を駆使してコママに攻撃を加えるも、そのどれもが空を切って終わる。最終的に折れたのは、再び天井に足をつけたアレクシスだった。


 「……無理」


 「だろうな」


 真顔のまま呟いたアレクシスを見上げながら、未だ涼しい顔をしているコママの側に立つ。


 「アルカナランクがGランクっていうのは、実は嘘だったりしないか?」


 「本当ですよ、それは貴方も先程確認していたでしょう?」


 「確かに確認したけどさ……」


 アレクシスが殴る蹴るをしていた間に、コママのプロフィールを覗いてみたら本当にGランクで驚いたのはつい先程。


 「……(わたくし)の体質……いえ、アルカナは少々特殊でして」


 「特殊」


 「はい、ありとあらゆるアルカナ……だけでなく、(わたくし)に迫る脅威そのものを、無効化してしまうのです。そうですね、アルティメット風に言うなら……『アルティメット・ゼロ』でしょうか」


 「……」


 ここにきてとんでもないチートキャラが現れやがった。しかもアルティメット・ゼロて、奥義にゼロ足しただけじゃないか。


 俺が内心動揺しまくっているのをよそに、コママは話を続ける。


 「先天性のものなのか、神からのご加護なのか……お父様は特に持ち合わせていないアルカナなので、真実はずっと分からないままなのです」


 「……へえ」


 コママは、自らを囲むように存在するアルティメット・ゼロを可視化させる。


 実際はシールドみたいなものか。


 「こんなにヤバい能力を持ってるんだから、あのコウモリもどきを倒すことだって一瞬で出来たりしないのか?」


 少々のアルカナを手に込めながら触れてみる。確かに干渉することが出来ないな、改めてチートすぎる能力だと思う。


 「……残念ながら、(わたくし)にはそれが出来ません」


 「何故?」


 こんなにも分かりやすいチートを持ちながら、一体どんな欠点を持ち合わせているのか。


 「(わたくし)は……」


 天井に張り付いていたアレクシスは、足にアルカナを循環させ、その場で蹴りだしこちらに向かって急接近する。


 「(わたくし)は?」


 オウム返しに答える俺に向けて、衝撃の答えを提示した。


 「────攻撃する手段を、持ち合わせていませんので」


 この王女、無駄に無敵な置物でしかなかった。


 アレクシスの鋭い蹴りが俺を襲う。


 咄嗟に身体をひねり、後方に跳ねるようにしてぎりぎり躱す。


 「……王女は諦めて、貴方から制圧する……」


 「流れ弾のようにこっちを狙ってくるな」


 いずれ俺を狙ってくるとは思っていたが、理由が理由だから全く納得していない。むしろ理不尽とすら思える。


 「……貴方、攻めはしないのに逃げ足だけ速い……卑怯」


 「卑怯では無い。俺は俺なりの戦い方がっ、あるっ、んだよ」


 「……さすがF-、説得力、ある……」


 「殴ったり蹴ったりしながら褒めてるのか貶してるのかよく分からない事言うのやめて貰えないか。あと俺の名前はF-じゃなくてシムノ・アンチだ」


 そもそも何故俺のアルカナランクを知ってるんだ。


 「おいコママ! 仮にも王女だからこのっ、状況をどうにかしてくれないか!」


 俺は少し声を張り上げてコママに助けを乞う。


 「仮にもじゃありません、実際に王女です! それに、(わたくし)には攻撃手段が無いと言ったじゃないですか!」


 「王女のくせに……」


 でも、このままじゃ埒が明かない。レオンとシエラ以外に、無力化出来そうな対象が俺しか居ないことも相まって、ずっと拳と足を付き出してくるアレクシス。


 ……だが、俺自身が反撃するのは違う気がする。こういうのは、主人公(ユーマ)に譲って倒してもらうか、はたまたそれに近い存在に倒してもらうというのは、俺の中での相場で決めたことだから。


 「とはいえずっと、このっ、状況がっ、続くのもっ、嫌だっ、な」


 「……いい加減、諦めて」


 不味い、攻撃の速度が加速している。本気で俺を無力化しに来てるのが分かる。


 俺は、少し遠くに佇んでいるコママを捉える。


 「……よし、巻き込もう!」


 笑顔を貼り付けながらコママの元へ向かう。


 「えっ……えっ、ちょっと……!」


 綺麗なフォームを保ちながらこちらに向かってくる俺を見たコママは、困惑と驚きの表情をこちらに見せてくる。


 残念ながら、そんな顔を見せても俺は容赦はしない。


 「コママ、諦めてくれ」


 「何がです……ひゃっ!?」


 両手をコママの両脇に入れ、そのまま持ち上げる。


 そして、瞬時に後ろに振り返った瞬間、轟音が洞窟内に響き渡る。


 「……それは、ずるい」


 迫るアレクシスの拳を、コママのアルティメット・ゼロで無力化してやった。


 「ちょっと、(わたくし)を赤ちゃんのように抱えないで……ひゃあっ!?」


 アレクシスが消えたと思えば、今度は俺の背後に回り蹴りを繰り出してくる。もちろん喰らうわけにはいかないため、俺も抵抗して抱えたコママを振り回すことで無力化を図る。


 しばらくはそれの繰り返し。殴ってきては無力化、蹴ってきては無力化……アレクシスがどれだけアルカナを込めて攻撃を繰り出しても、俺とコママによって全て無力化する。


 そしてまた、アレクシスの渾身の拳を、コママ目の前に突き出し無力化する。


 「……さっきから、それずるい……止めて」


 「無理な相談だ。これが俺の戦い方だ」


 「……(わたくし)を振り回して、楽しいですか」


 「わりと楽しい」


 「ここまで王女に対して不敬な人は初めて見ました」


 それはそうだろう、俺はとっくの昔に、正当なやり方は辞めたからな。


 「……何とかして、シムノから王女を切り離さないと……」


 そう呟きながら、アレクシスは俺達の元を離れ再び天井へ。


 ────その時を待っていた。


 「コママ、アルティメット・ゼロを可視化してくれないか」


 「はい?」


 訝しげにこちらを見てくるが、渋々可視化してくれた。


 これで準備が整った。


 「……コママ王女、貴女は幼少期の頃、高い高いをしてもらったことはありますか?」


 意味不明な質問をされ、コママは頭の上に大量のクエスションマークを浮かべたが、俺によって振り回され疲れきっているのか、素直に答えた。


 「……お父様に何度か、されたことはありますけど」


 それを聞いた俺は、コママを少し高く掲げた。


 コママが見下ろし、俺が見上げる形になる。


 「────もう一度、あの高い高いを思い出してみませんか?」


 「もう一度……ッ! 貴方まさか!?」


 天井から衝撃音が聞こえてくる。隕石のごとく、アレクシスがこちらに向かって接近する。


 アレクシスのやり方は賢い。横から殴ったり蹴ったりするよりも、重力に沿って落下するように攻撃すれば、重みと勢いが増し、凄まじい一撃を放つことができる。


 ────そのぶん、身体の制御が効きづらくなるわけだが。


 「よし」


 腰を落とし、両手で抱えたコママを少し下げる。


 「ちょっ、やめてくだ─────」


 コママも、アレクシスも、止まることは叶わない。


 『たかいたかーい!』


 ただ高く掲げるわけもなく、俺はコママをアレクシスに向けて全力で宙に放り投げた。


 「きゃああぁぁッ!?」


 「……ッ避け……!?」


 アレクシスは目を見開き、身体を捻って避けようとするが、当然間に合うはずもなく、そのままコママのアルティメット・ゼロに激突すし、そのまま一緒に上昇する。


 「ぐッ……すぐに、脱出を────」


 このままじゃまずい。そう内心で焦ったアレクシスは、コママから逃れるために脱出しようと試みるが、上手く身体を動かせない。


 そして、何気なく後ろを振り向いたアレクシス。


 「────あ」


 視界に映ったのは、自分がコウモリのように足を着けていた洞窟の天井。


 迫る洞窟の岩壁にアレクシスは唖然となり、コママは悲鳴を上げる。そして────


 「……やっぱり、ずるい」


 もの凄い速度で二人は岩壁にめり込み、洞窟全体が轟音に包まれる。


 「高い高いとか初めてした」


 俺は上を見上げながらそう呟き、粉々になった岩が煙のように舞い上がっているの光景を見る。


 「……あっ」


 煙の中から、一人の女の子が……いや、王女が降ってきた。


 幸い、落下地点は俺から近かったため、問題なく両手で受け止める。


 構図からして、お姫様だっこというやつだ……あれ、これは俺じゃなく主人公(ユーマ)がやるべきことでは?


 俺は内心で後悔しつつも、手に収まっているコママの安否を確認する。


 「……」


 めっちゃ頬を膨らまして涙目になってる。


 「……コママ、上を見てみろよ。アレクシス、めっちゃめり込んでるぞ」


 めり込みすぎて人型の穴が出来てしまっている。|アルティメット・ゼロはこういう使い方も出来たんだな。


 さて、あのアレクシスを見て笑ってくれれば良いが……


 「……極刑です」


 駄目みたいだ。


 「結果オーライってことでどうにか……ん?」


 どうにかしてコママをあやそうと奮闘しかけたところで、俺とコママは異変に気付く。


 「……揺れてないか?」


 「……揺れてますね」


 顔を見合わせる。


 そういえば、この洞窟は一種の空洞みたいな作りになっており、刺激を与えすぎると崩落しかねない場所だった。


 先程の激突の衝撃で、洞窟の天井に蜘蛛の巣状の亀裂が走る。次の瞬間、轟音と共に岩が崩れ、上から岩の雨が降り注ぐ。


 「……誰のせい?」


 「貴方のせいです」


 洞窟に居た5人は、岩の雨によって飲み込まれた。


 

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