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25.突如現れる侵入者


 「俺の名前を知ってるんだな」


 「これでも王女の座に就いている者ですから、ソルクラス、ルナクラス、ステラクラスの皆さんはもちろん、上級生や教師の皆さんの名前も把握しています」


 コママは掴んでいたスカートを離し、把握しているのは当然のように言う。


 「ところで、話は変わりますが……貴方もここに飛ばされてきたのですか?」


 俺が自己紹介する暇もなく、コママ確信めいたように疑問を口にする。まあ、この3人もおそらく球体によってここに飛ばされてきた質だろう。


 「ああ、俺の他にも2人居たんだが、途中でバラバラにされてしまってな。今はどこに居るのか全く分からん」


 「やはり、それが普通ですか……」


 手を顎に沿え、難しい顔を浮かべながら何かを考え始めるコママ。


 一体どうしたんだろうか……と思った俺は、ある疑問に辿り着く。


 「そういえば、レオンとシエラだったか? 何で2人はコママと一緒に行動しているんだ? 俺が見た感じだと他のチームの皆はバラバラにされていたみたいなんだが」


 「……ああ、それは────」


 「それはこのレオンが直々に疑問にお答えしましょう」


 コママが理由を説明する前に、レオンが遮るように俺の疑問に答え始める。


 何故コママは何とも言えない表情をしているのだろうか。


 「敬愛しているコママ様が突然球体に包まれた時僕は何が起きたか分からずに思わず飛びついたんですよねそしたら何故か僕も球体の中に居たみたいでそのままくっついたと思ったらいきなり上昇してすごい勢いでこの洞窟に突っ込んできた感じです」


 ……呪文でも言ってるのか?


 俺が頭に浮かんだ感想はこれだった。コママはレオンの様子を見て苦笑いを浮かべていた。


 「私もレオンと同じです。屈辱ですが、コママ様の事になると同じ思考が働くようですね、屈辱ですが」


 「同じにしないでくれませんか? 貴女より僕の方がコママ様に対する想いは強いです」


 「何ですか?」


 「そっちこそ何ですか?」


 また喧嘩をし始める、と思いきや、コママが割って入り2人を静止させる。


 「2人とも、これ以上醜態を晒すのであれば、今夜の夕食は外で食べてきてもらいますよ?」


 「僕達が悪かったですコママ様」


 「申し訳ございませんでした。私達はコママ様の手作り料理が食べたいのです。どうか作ってくださいお願いします」


 2人仲良く土下座することで、青筋を浮かべているコママに向けて必死に謝罪していた。


 「全く……今夜はおいしいシチューでも作りましょうか」


 「ありがたき幸せ」


 「もうコママ様から一生離れません」


 ……どこか母性を感じる子供体躯をしたコママ王女と、息子娘のようにシチューで喜ぶレオンとシエル。


 「なるほど、だからコママなのか」


 「なにか?」


 「いや、何でもない」


 俺は内心で謎の理論に納得した。一応緊迫している状況なのに、どこか温まるような雰囲気が漂っているこの状況は、少し異常に感じた。


 「しかし……シムノ君。よく無傷で球体から脱出できましたね?」


 「というと?」


 それの何か問題でもあるのだろうか。


 「いえ、私達が飛ばされている時に見た光景なのですが……どうやら、ある程度の実力を持ち合わせていないと、球体が地面に衝突する際の衝撃に耐えきれないらしいのです」


 「ほう」


 「それについては、僕が確認したので間違いないでしょう。基本的に、アルカナランクが低い人が負傷していました。おそらくですが、ランクが低いと、アルカナの生成が間に合わず、衝撃を守りきれずに負傷している、といった感じでしょう」


 「なるほど」


 「そこで、私はコママ様に頼まれて隣でポイントランキングを覗いていたわけですが……シムノさん達のチームは現在18位、同じチームにはユカネさんとレイソンさんがいらっしゃいますね。こちらの二人のアルカナランクはB-とA-と、比較的に高い部類となっているので、衝突した衝撃に耐えられると容易に想像できますが……」


 「ますが?」


 何故かそこでコママに目配せをするシエラ。それに応えるように頷いたコママは、ゆっくりとした足取りで俺に近づいてくる。


 「シムノさんのアルカナランクはF-……これ、何を意味するのか分かりますか?」


 「……」


 俺が無言になっている間、コママは俺の耳元に口を近づける。


 「────シムノさん。貴方、ある意味私と同類ですよね?」


 レオンとシエラには聞こえないように、目を細めながら小声で感じたことを口にした。


 「……なんの話をしているんだ?」


 「うふふ、ただの勘ですよ……ここだけの話、実は(わたくし)もアルカナランクだけにおいては落ちこぼれでして、Gランクなのですよ」


 「Gランク」


 衝撃の事実発覚。母性を纏う王女は、最弱にふさわしい称号を背負っていた。


 「コママ様が小声で何かをおっしゃっている……?」


 「聞こうとしないでくださいよシエラ。あの行為をしている時はいかなる時でも秘密にしたい時。当然、それを聞こうとするのは不敬に値してしまいます」


 「もちろん分かっています。コママ様とのお約束は死んでも守ります」


 コママの背後に居る2人が何か言っているが、よく聞き取ることが出来ない。ただ、俺のアルカナランクが低いとは知っているが、コママのように深く追求してくる気配は無い。コママ以外、俺の本質に気づいていないということになる。


 ────最も、そのコママでもより深い本質にたどり着くのは相当難しいと思うが。


 「ふふっ……貴方とは、ぜひこれからも仲良くしていただきたいものです」


 「お断りだ。生憎、人気生徒であり王女であるコママと話すのは、俺の精神がもたない」


 むしろそれは、主人公(ユーマ)の役割だ。


 「では、よろしくお願いしますね?」


 「話聞いてた?」


 満足した笑みを浮かべながら俺の側から離れていくコママ。レオンとシエラに何か質問されているみたいだが、首を振ったり、人差し指を口に添えたりしていて、俺からはよく分からなかった。


 「シムノさん、このままここに滞在しても仕方ありません。この学園バトルロワイヤルに、何か異常が発生したことは明らか。一度ここは、(わたくし)達の共に行動するのはいかがでしょうか?」


 コママが振り返ったと思うと、俺に提案を持ちかけてきた。


 「共に行動……」


 顎に手を添えて思考の世界に入る。


 共に行動するとなるとどうなるか。それを頭の中でロジックを組み立てる。


 一緒に行く。


 やむを得ないハプニング発生。


 抜けるに抜けれない状況になる。


 主人公(ユーマ)を探せなくなる。


 詰みになる。


 ……うん、無しだな。


 約0.2秒の思考の世界から、現実世界へと帰還する。


 「残念だが、今回はご縁がなかったと言うこ────」


 刹那、洞窟の天井から、不意に球体が落ちてきた。それは耳をつんざく轟音と共に、俺たちの少し離れた場所へと衝突し、地面が激しく震える。


 「きゃッ!?」


 「なんだ!?」


 「……」


 俺の前に居る3人が様々な反応を示す。シエラは可愛らしい声を出し、レオンはびっくりして素の男の声を出すといった感じ。


 対するコママは直立不動……えっ、髪すら靡いてなくないか、どうなってるんだその髪?


 「……サイファー、話と違う。私達も皆、バラバラになった……」


 立ち込める煙の中、1人の少女が、プラチナブロンドの髪を揺らしながら姿を現した。


 「……これはこれは」


 コママが何故か納得したように頷く。


 「……貴方達、誰?」


 「俺が一番聞きたいんだが」


 俺は思わず指摘してしまう。しまった、前世でツッコミ系主人公を目指していた時期があったから思わず口に出してしまった。


 「……ああ、そっか。学園の生徒……」


 小声で何かを呟いている謎の少女。


 ちなみに、学園指定の制服を着用していなかった。


 「……ねえ」


 少女は、こちらに向けて、想像もしていなかった内容を口にした。


 「────ユーマ・グレーシアって、どこに居る?」


 「「……ッ!」」


 前方に居たレオンとセイラは、アルカナを放出し、警戒心を一気に上昇させる。


 「コママ様、今すぐここから離れてください」


 「ここは私達にお任せてください。シムノさんも、コママ様から離れないようにしながらエスコートをお願いします」


 「お二人とも、何をなさるおつもりですか?」


 「こいつはアルクレナ学園の生徒じゃありません。それだけにあらず……」


 レオンは、少女の首元に着用されているそれを見る。


 「────ドミニオン財団に所属しています、こいつは」


 「……なるほど、ドミニオン財団の者ですか」


 ドミニオン財団? 聞き覚えが無い……どこかで遭遇した記憶も無いな。


 「……そうだけど、あいつらと一緒にしないで」


 「その紋章を身に付けている時点で、一緒のようなものです。おとなしく私達にやられてください」


 セイラが少女に少しずつ近付くと、レオンも同じく近付き始める。


 「……はあ、ユーマ・グレーシア以外はあまり危害を加えるなって言われているけど……」


 目を閉じながらカンフーのポーズを取る。


 そして、ゆっくりと閉じていた目をゆっくりと開眼する。


 「……ドミニオン財団所属のアレクシス。面倒だけど、おとなしく気絶してて」


 レオンとセイラは、アレクシスに向かってアルカナを繰り出した。

 

 「気絶するのは、貴女ですッ!」


 「コママ様の元には行かせませんッ!」


 アレクシスに迫る2つのアルカナ。


 「……」


 しかし、それはアレクシスに届かない。


 「……ッ!?」


 「受け流した!?」


 アレクシスは微動だにせず、それを軽やかに受け流してみせた。まるで最初から読んでいたかのように、無駄のない動きをしている。


 「……バレバレ、よく見える……」


 気だるそうにそう言うが、アレクシスから攻める気配は今のところ感じられない。


 「舐めないでください……!」


 「はああぁぁぁッ!」


 光と闇のアルカナが幾度もアレクシスに襲いかかる。だが、彼女は表情を一切変えず、そのすべてを難なく受け流していく。攻撃が触れることすらなく、彼女の身に傷ひとつ付けることが出来ない。


 「……そろそろ、おしまい」


アレクシスは静かに告げると、動き回るレオンとシエラの頭を一瞬の隙を見つけて両手で掴んだ。


 「ッ!?」


 「いッ!?」


驚愕の声が上がる中、アレクシスは淡々と軽く一言。


 「……えい」


次の瞬間、彼女はそのまま2人の頭を互いにぶつけ合わせ、鈍い衝撃音が洞窟内に響き渡った。


 「ガッ……!」


 「……キュウ……」


 レオンとシエラは一瞬、呆然とした表情を浮かべたが、そのまま白目をむきながら、ゆっくりと崩れ落ちた。


 「レオン、シエラ!」


 崩れ落ちる2人を見て、コママは呼び掛けるように名前を叫ぶが、返事は一切なく、本当にアレクシスの手によって気絶させられた事を認識する。


 「……あの2人を、1人でやったのか」


 そこそこ強いはずの2人が、たった1人の少女、アレクシスによって完敗している光景は、それほどまでに、目の前の少女が強い事を意味している。


 「……ここまで見られたら、……この後に支障をきたすかも……」


 気絶している2人から目を離し、立ち尽くす俺とコママを、表情を変えないまま見据える。


 「────次は、貴方達の番、覚悟」


 片耳に付けているイヤーカフが、ギラリと光る。


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