24.ジ・エンドってね
学園に帰還する事が出来る謎の球体。
物質や物理法則はよく分かっていないが、基本的に安心安全を信条としているらしい。
その信条の塊が、現在謎の暴走を引き起こし、学園バトルロワイヤルはめちゃくちゃになってしまった。
そんな状況の中、シムノ・アンチは────
「はははははッ! はっはっはっはっはっはッ!」
まだ声高らかに笑っていた。
「はっはっはっは────」
しかし、暴走を続けていた球体が、突如として方向を変え、隕石のように地面に向かって突進する。そのまま地面に激突すると、周囲を震わせるほどの衝撃が生まれ、大気が震え、土埃が舞う。
「……腕が折れるかと思った」
衝突によって服に付いた土を軽く払い落としながら、俺はまるで何事もなかったかのように、立ち込める土埃の中から姿を現した。
「ここは……洞窟か?」
周囲を見渡せば、天井からは無数の鍾乳石が垂れ下がり、岩肌には幾何学模様のような亀裂が走っている。地面は湿り気を帯びた砂と小石で覆われ、ところどころに小さな水たまりができていた。ひんやりとした空気が肌に触れ、わずかに滴る水の音が洞窟内に反響する。
「あそこから落ちてきたのか」
上を見れば、外の光が僅かに漏れている。どうも俺は、運が良いとは思えない場所まで飛ばされてしまったらしい。
「これじゃあユーマの元に行けなくなるし……というかどこに居るかも分からないしな……」
一番の大問題を口にする。俺にとってユーマを探す事以外は、全て二次被害に分類される。
「ここからだったら、あの穴から脱出できそうだが……その衝撃でこの洞窟は埋まるだろうな。そしたら、ここに居る生存者は全員御陀仏……」
最悪それは仕方が無いことかもしれないが、俺のせいで生徒が死にましたは後味が悪いどころの話ではない。
では、どうするべきか。
「こういう時は……とりあえず、歩く」
俺は歩くことにした。
「ダンジョンだから、異形とエンカウントするか、生きてる生徒とエンカウントするかもしれない。もしも死んでいたら、『ただの屍か……』とだけは言ってあげよう」
─────歩く。
─────とにかく歩く。
─────ひたすら歩く。
「……」
無言で歩を進めると、洞窟特有の環境音が耳に届いてくる。天井から滴り落ちる水滴の音、足元の砂や小石がかすかに擦れる音、遠くから聞こえるかすかな風のうねり、洞窟の奥深くから吹き抜ける冷たい空気の流れ……少しだけ、心地が良い。
洞窟の環境を肌で感じること数分。
「……ん?」
俺はついに、歩みを止めた。
「なんだあれ」
洞窟の薄暗い闇の中、ひとりの女子生徒が静かに佇んでいた。彼女の周囲には、狂気に満ちたコウモリの異形たちが音も立てながら舞い上がり、鋭い牙をむき出しにして彼女を取り囲んでいた。
「パンデミックが起こった時に一人で逃げてたらいつの間にか取り囲まれてしまったシーンに似てるな」
そんな的外れな感想を口にする俺。
『キシャアアアアァァァァ!』
「あ」
取り囲んでいたコウモリたちは、鋭い牙を見せつけるようにぎらつかせ、耳障りな鳴き声を上げながら、女子生徒へと一斉に襲いかかる。
────しかし、女子生徒はこちらを見ながら微笑んでいた。
……まさか、諦めて死ぬとでもいうのか。
少しだけ目を見開くが、俺が何かするというわけもなく、彼女に迫る黒い影が、一瞬で彼女を覆い尽くした。
俺は軽く目を伏せ、終わりを告げることにした。
「……ジ・エンドってね」
「勝手に殺さないでください」
「エンドにしないでください」
「んん?」
背後から2つの声が聞こえたかと思うと、次の瞬間、俺の両側を抜けて前へと飛び出していく人物が二人。
向かう先は、異形の群れだ。
「「はあああぁぁぁぁッ!」」
2つの声が響き渡り、勢いよく異形の群れに突っ込んでいく。闇と光のアルカナが交差し、目の前の異形たちを次々と撃退していく。
次第に、全ての異形は突如現れた二人によって撃退され、地面に落ちて塵となった。
「異形の殲滅を確認しました。今回私が倒した数は56体です」
「それは残念ですね。僕が倒した異形の数は57体です。あと一歩及ばず、ですね」
「……何を言っているのですレオン。55体の間違いじゃないですか?」
「いやいや、間違えてるのは貴女ですよシエラ。負け惜しみで計算すら出来なくなったのですか?」
「……それを言うなら、貴方はフライングして既に2体も倒していたじゃないですか。公平に、同時に倒し始めたわけでもないから、本来はノーカン。本当の負け惜しみはどちらでしょうか?」
「……ぐぬぬ」
「……むむむ」
2人共、あんなにかっこよく飛び出して蹂躙していたのに、終わったかと思えば口喧嘩を始めていた。
「こらこら、他の人が見ている前で喧嘩を始めないで下さい。貴方たち、もう15歳でしょう?」
「……そうですね、申し訳ございません」
「僕からも、申し訳ございません……ちなみに、僕はもう16歳になりました」
「今は余計なことは言わないでくださいレオンさん」
そこに、青髪の小柄な女子生徒が、二人の会話に乱入して軽くお説教を始めた。というか……
「無傷……?」
なんと、あのコウモリの大群の猛攻を受け、平然と立ち、会話を繰り広げていた。
「……っと、私ったら、あいさつも無しにお説教場面を見せてしまいました。レオン、シエラ、彼に挨拶しますよ」
はい、と返事をしたレオンとシエラは、青髪の女子生徒の隣にそれぞれ並び、姿勢を正す。
そして、目の前の三人の視線が、俺の視線と交わる。
「先程はお見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ございませんでした。私は、コママ様の側近である、シエラ・ルナイエと申します」
「僕からも、大変申し訳ございませんでした。同じくコママ様の側近、名は、レオン・エスプリスと申します」
「ふふっ、2人とも、しっかりと謝れてえらいですよ……申し遅れました、私、コママ・アルクレナと申します」
3人が名乗りあげた後、シエラとレオンはその場で跪き、コママはスカートの裾をそっとつまみ、ゆっくりと腰を下ろし、頭を軽く下げる。
「アルクレナ王国の王女を務めています。よろしくお願いしますね、シムノ・アンチさん?」
挨拶を終えたコママは顔を上げ、優しく微笑んだ。




