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23.任務『主人公の殺害』


 「おいおい、脚と腕がプルプル震えてるじゃねえか、笑っちまうなあ! 確かこういうのを……そうだ、満腹素麺だったかあ?」


 「満身創痍だ馬鹿。お前二度と喋るな」


 「ああ!?」


 カイドは威圧するが、サイファーは無視を決め込む。


 仲間同士のはずなのに、どうしてそんなに仲が悪いのかなと、何やら言い合いしている男同士を見ながらトリアルは再び苦笑いする。


 しかし、それでこの状況が改善されるわけではない。


 ジャックスがこちらを値踏みするかのように睨みながら見つめてくるため、トリアルも負けじと睨み返す。


 「……ふむ、お前はやはり、他の教師と比べ、アルカナの操作に長けているようだ。先程のアルティメットも、当たれば即死もあり得たはずだからな」


 「……褒められても嬉しくないよ。言ってるよね、私達教師は仲良く平等だって。勝手に差別発言しないでくれるかなあ?」


 敢えて口角を上げながら威勢を張り、周囲を見渡す。


 侵入者に吹き飛ばされたり、アキレス腱を切られたことによって気絶する者、痛みに悶える者が視界に映ると、トリアルは少しだけ顔を歪ませるが、すぐに顔を左右に振り、再びジャックスを睨む。


 「……君たちを生徒の元に向かわせるわけには行かない。おとなしく帰ってくれないかな?」


 「それは無理な相談ですね」


 ついさっきまでカイドと言い合いしていたサイファーが、ジャックスの隣に並び、トリアルの言い分を拒否する。


 「我々はある目的のためにこの学園にやってきました。成果も出さずに、手ぶらで帰るわけにもいきません」


 「……既に皆に手を出してるよね? もしかしてそれは目的の内に含まれてるのかな?」


 「残念ながら含まれていません。こちらに攻撃してきたために無力化せざるを得ませんでした。どうか、ご理解ください」


 軽く頭を下げるサイファー。


 しかし、トリアルはそれで納得するはずもない。


 「……理解できるわけないよ。こんなことして、許されるはずがない……」


 未だに意識がある者は、痛みに耐えんとばかりに呻き声を上げている。


 そんな状況の中、一つの低い声が、管制室に響く。


 「……ト……トリ、アル」


 「……ッ! ゼラフおじちゃん!」


 ゼラフの弱々しい声が聞こえてきた瞬間、ジャックス達から視線を外し、しゃがみこんで声を掛ける。


 「ゼラフおじちゃん、大丈夫!?」


 「ト、トリアル……お、まえは……います、ぐ、ここから……にげ、ろ」


 「そんなこと出来るわけない! 皆を置いていけないよ!」


 トリアルの目頭が熱くなり、次第に涙となって床に落ちる。


 「学園、の外に……防衛者が、居る、はずだ。増援を呼べば……この状況を、打破でき、るかもしれん」


 「……ッ、でも!」


 それでもトリアルは、皆の事を見捨てるような真似をしたくない。少しでも自分が離れれば、他の皆が何されるかが分からないからだ。


 「残念だが、学園の周囲に居た防衛者達は、既に無力化させてもらった。」


 「……え」


 トリアルは、まるで信じられないという思いが顔全体に現われる。


 仮にも、平均アルカナランクはBランクを集めた精鋭達……そんな人達が、この侵入者達に負けたってこと……?


 トリアルは内心でそう思う。


 理解したことは、目の前に居る3()()は、タダ者ではないということ。


 「キハははハははッ! 良い顔をするねえ! 俺が大好物の顔だあ!」


 カイドの奇っ怪な笑い声が辺りをこだまさせる。


 「……別に、君の大好物になったつもりは無いんだけどなあ」


 「ホントにそうかあ? 今のお前は、恐怖、悲嘆、絶望、嫉妬、憤怒、悲痛、色々のマイナス感情に支配されている感じがするぜええぇぇ! ぎゃはははッ!」


 「そうかもしれない。けど、それでここを引く理由にはならない」


 「……ト、リアル……」


 ゼラフが心配そうにこちらを見上げている。トリアルはそんなゼラフを見て、改めて思う。


 皆を守るため、ここを離れるわけにはいかない。


 「おもしれえ女だ、俺はそういう女は好きだぜえ……そうだな、もっとお前の他の顔も見てみたいし、手始めに情けなく倒れているこいつらを皆殺しにしてやるかあ!」


 ────いま、何て言った?


 「だから殺さないと言っているだろうが! 何回言ったら分かるんだお前は!」


 ────殺す?


 「……サイファー、放っておけ。カイドはこういうやつだ」


 「で、ですが……」


 ────絶対に、それだけはさせない。


 トリアルの何かが切れ、感情はまたたくまに怒りに支配される。


 「こいつは────」


 ジャックスが、驚いたように目を見開く。


 『────シューティングス────』


 トリアルは怒りに任せ、アルティメットを放とうとする。


 「……眠って」


 背後から声が響いた。


 「────ぁ」


 トリアルはその声に反応して振り返ろうとするが、その瞬間、首に強烈な衝撃が走り、視界が波打つように歪み始める。何が起きたのかも理解できぬまま、トリアルに、そして、ゼラフに襲いかかったのは、いつの間にかそこに現れていたアレクシスの手刀だった。その動きは、まるで瞬間移動でもしたかのように、凄まじい速さだった。


 「……ゼラ、フ……おじ、ちゃ……」


 トリアルは、既に気絶してしまったゼラフに手を伸ばす。


 しかし、それが届くことはなく、伸ばした手はゆっくりと地面に近付き、地面との接触を最後に、トリアルの手は動かなくなった。


 「……アレクシス。今までどこに行っていた」


 ジャックスは怪訝な目をしながらアレクシスに問う。


 「……こんなに数多いの、めんどくさい。だから、上からずっと、見てた」


 どうやら、教師達とやり合うのが面倒くさいだけのようだった。


 「チッ、アレクシスよお。教師共をその手刀で眠らせたら早かっただろうが。ま、それじゃ俺がこいつらを殺すことは出来なくなるがな、ぎゃははははは!」


 「だから……はあ、もう良い。アレクシス、お前も少しはジャックスさんに貢献するように動け。そんなにやる気が無いと、あの方にも切られるぞ」


 「……はあ」


 面倒くさいようにため息を吐いた後、アレクシスは口を閉ざす。どうやら、それ以上喋るつもりは無いようだ。


 「……行くぞお前達、時間を使いすぎだ。次からは、もう少し早く殲滅することを心がけろ」


 「申し訳ございません、ジャックスさん」


 「へえへえ」


 「……」


 三人が様々な返事を返すと、そのままジャックスと共に管制室のモニターの前に立つ。


 「へえ、ダンジョンと聞いていたから、どこかの洞窟とかだと思っていたがあ……こりゃすごい。まさか学園の地下に世界が広がっているなんてなあ」


 モニターに映されていたのは、学園の下に存在する一つの世界。現在進行形で学園バトルロワイヤルを繰り広げている『ダンジョン』と言われているものだ。


 「この学園の地下にこんな広大な世界が広がっているとは……」


 感心したようにサイファーが呟くと、そのままモニターに触れ、操作を始めた。


 「炎の障壁システムの解除、外部からのアクセスを許可、転送の瞬間のみ、ダンジョン負荷を最小限に設定、座標データ……は、ボックス化しているのか……アルカナ供給を臨界点に到達……ついでに生徒たちの座標を乱数に調整してバラバラに……」


 目まぐるしくモニターの情報が更新され、サイファーの独り言が聞こえてくる。


 「なあアレクシスよお、あれ何やってるか分かるかあ?」


 「……さあ」


 「だよなあ、あいつやっぱ気持ち悪いよなあ」


 「少し静かにしろ、お前達」


 へいへいとカイドが言うと、再びサイファーの独り言が周囲を支配する。


 カイドが退屈そうに欠伸を漏らした瞬間、よしっという小さな声が聞こえてきた。


 「ジャックスさん、俺達四人の転送準備が完了しました。これで、テレポートをする必要もありません、大声で『テレポート』と叫べば、いつでもダンジョンに向かえます」


 「そうか、ご苦労だった」


 全てのシステムが完璧に調整され、いまや転送は一瞬で完遂される準備が整っていた。


 サイファーが、後方に居る二人の元にもどり、代わりにジャックスがモニター前に立つ。


 「さっそく、お前達と共にダンジョンに向かうことになる」


 低い声で、そう宣言する。


 「……長く語る理由は無い。サイファー、今回の任務を宣言しろ」


 「はい、ジャックスさん」


 サイファーは一歩前に踏み出し、ジャックスの顔を見据えながら、今回の任務を口にした。


 「────ユーマ・グレーシアの殺害。これが、俺達の今回の任務です」


 ────4人が身に付けているドミニオン財団の紋章が、ギラリと光る。


 「行くぞお前達……テレポート!」


 ジャックスが力強くそう宣言した瞬間、4人の足元に魔法陣が浮かび上がる。その輝きは瞬く間に強まり、4人の身体を光が包み込んでいく。まばゆい光が四人を完全に覆い尽くすと、管制室全体がその光に呑まれる。そして、次の瞬間には、管制室から4人の姿は跡形もなく消え去っていた。


 「……役に……立ちますように……」


 管制室には、小さな声が響いた後、今度こそ静寂に包まれた。


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