22.佇む4つの影
────時は少し遡り、学園バトルロワイヤル開始から、約5時間半が経過した頃。
アルクレナ秘術学園の屋上には、3つの影が佇んでいた。
そこに、足音を反響させながらこちらに向かってくる一人の影が追加され、4つの影が並んだ。
その内の1つの影が、小さく息を吐く。鍛えられた身体に、短く刈り込んだシャープなショートヘアーを後ろに少し流し、髪色はシルバーブロンドに染められている。右腕の鉄の義手が軋み、ひとまわり大きい片耳には、目立つ銀色のイヤーカフを着けていた。
「……結界は、どのようになった?」
こちらにやってきた存在に顔を向けず、正面を見据えたまま、静かにそう聞いた。
「はい、ジャックスさん。調査したところ、随分杜撰な結界を学園全体に覆っていたようでして、少しいじったら簡単に解けました。おそらく、素人が展開したものと思われます」
こちらの男はいたって普通の身体をしており、前髪が長めで、片目を隠すようなシャギーヘアー。闇夜を彷彿とさせる深い髪色をしており、影に溶け込んでしまいそうな雰囲気を放っていた。
「ふん、だろうな。教師でも、最も無能な奴が結界を用意するからこうなる。アルクレナ秘術学園の教師の質も、随分と落ちぶれたものだな」
フンッと鼻で嗤いながら、ジャックスはここには居ない教師群を見下す。
「それでよおサイファー。異形とやらに情けなくやられて、ここに帰還して駄弁っていたあのガキ達はどうしたんだあ?」
舌を出し、尖った歯を露にしながらサイファーに近付く男は、サイドを刈り上げたアンダーカットスタイルに、髪色はダークブラウンを強調されていた。
「……カイド、それはお前が俺に聞く前に、俺がジャックスさんに報告を上げる義務がある。引っ込んでろ」
「相変わらず堅苦しい男だなあ」
サイファーは露骨に嫌悪な表情を浮かべながら顔を引く。それを見たカイドは、つまらなそうすると舌打ちし、サイファーに背を向け離れていく。
「……カイドが失礼いたしました。」
サイファーは頭を下げた。
「良い、続けろ」
ジャックスは特に気にする様子もなく、話の続きを促す。
「はっ……大講堂に集まっていた生徒達は、ジャックスさんが用意した睡眠ガスにて眠りに落ちています。おそらく、丸一日は起きないかと」
「当たり前だ、効果は既にサイファーで確認してある。よほどの事がない限りに起きん」
「はっ? 俺を実験台にしたんすか?」
「そうだ、お前は良い実験台になってくれた。誇っていいぞ」
「微塵も誇りたくねえなあ……」
サイファーが鼻で嗤い、カイドは複雑そうな顔をする。
「……下らない。いつまで無意味な言い合いをしてるの」
「ああ? 居たのか、アレクシス。急に喋り出すんじゃねえよ、居ないもんだと思ってたぜえ」
今まで無口だった少女は、突如として喋り出す。
プラチナブロンドのセミロングのウェーブヘアーが風で靡く。ジャックスと同じく片耳に銀色のイヤーカフをいじりながら、カイドを冷ややかに指摘した。
その様子を見て、カイドはゲラゲラと笑うが、アレクシスは気にする様子が微塵もない。
サイファーは二人のやり取りを無視しながら、ジャックスに報告を続ける。
「……あとは、管制室に滞在している教師陣を無力化し、ダンジョンに繋がる緊急転送装置を利用すれば、ターゲットに近付くことが出来ます」
「そうか、ご苦労だったな」
ジャックスは淡々とサイファーに感謝する。
それを聞いたサイファーは一礼し、後ろに下がった。
「これで、舞台は整ったようだな」
夕陽が少しずつ地平線に下がっていくのを見ながら、後ろの三人に向けて宣言する。
「ようやく皆殺しにできるってなあ!」
カイドは両手を握りしめ、五本の指に着けている指輪が夕陽に照らされながら、左右の拳をぶつける。
「皆殺しはしないと言ってるだろ、狙うのはターゲットだけだ」
サイファーはカイドに呆れ、持参した黒いコートを羽織る。
「……管制室、どこなの」
アレクシスは特にアクションを起こさない代わりに、ジャックスに疑問を投げる。
「下だ」
ジャックスは、アレクシスを見据えながら曖昧にそう答えた。
「あっ? そりゃここは屋上だから下に管制室があるのは当たり前だろうが、なめてんのかあ?」
「おい、カイド!」
カイドは苛立ちを全く隠すことなく、怒りを込めて問いかける。
「……だから、真下だ」
今度こそジャックスは、三人に向けて意図を伝えることが出来た。言葉足らずは、時に盛大な誤解を生むようだ。
「……真下というのは、まさか」
「行くぞ」
サイファーの疑念を無視したまま、右手の義手を振り上げる。
「おいてめえここでやるのかよお!?」
「……はあ」
開かれていた手がゆっくりと握り締められると、瞬時に電流が迸る。その光が鉄の義手に絡みつくようにして纏わり────
「ハァ!」
次の瞬間、ジャックスはその力を解き放つように床へと叩きつけた。眩い閃光と共に、周囲には激しい衝撃が広がる。
「うわ、何だ!?」
「誰だお前ら! ここは立ち入り禁止だぞ!」
「いや違う、侵入者だ! ここの教師でも生徒でも無いぞ!」
床は粉々に砕け散り、その破片と共に上空から侵入者達は降り立った。管制室にいた教師達は、思わぬ光景に驚愕する。
「……まあいっかあ! ヒャッハァ! 狩りの時間だぜえええぇぇぇ!」
ジャックスに文句を言おうとしていたが、目の前の弱そうな獲物達を狩るために、カイドは真っ先に一人の教師に飛び込んでいく。
「お前ら、こんなところに来てただで済む……ぐあッ!」
「雑魚は大人しく死んでろよバーカァ!」
カイドをアルカナで仕留めようとしたが、立ち向かった教師は呆気なくやられてしまう。
一人を戦闘不能にしたカイドは、瓦礫と化した床、ヒビ入った壁を巧みに利用し、縦横無尽に駆け回る。その動きは疾風のように速く、拳や足蹴りを繰り出すたびに教師達は次々と倒れていく。
「加減しろよカイド! ったく、何で俺があいつを気に掛けながら対応しなきゃいけないんだ……」
カイドに文句を言っている間にも、教師達は一斉にサイファーに襲いかかる。しかし、サイファーはその猛攻を鮮やかに躱し、手に持つ短剣を閃かせる。
「……遅いですよ、皆さん」
次々と教師達の足元に迫り、一人、また一人と、確実にアキレス腱を断ち切っていく。
「ひるむなッ! かかれ!」
「よくも私達の生徒に手を出したなッ!」
運良くサイファーの攻撃を避けれた教師達は、負けじと別の侵入者へと歯向かっていく。
────しかし、向かう先は侵入者達を牛耳る存在。
「それで良い、手間が省ける」
低い声でそう呟いた後、鉄の義手に微かな電流を纏わせる。
「はァ!」
ジャックスは目の前に迫る教師達に向けて拳を突き出した。その拳から放たれた痺れる風圧が、教師達をまるで紙くずのようにあらゆる方向へ吹き飛ばす。その中には、教師同士で衝突してしまう者もおり、一瞬で多くの教師が戦闘不能に陥った。
「おいおい雑魚ばっかりじゃねえかあ。これじゃあ張り合いもクソもねえなァ」
カイドは侮蔑しながら近くに転がっている教師に蹴りを入れる。
「おいカイド、動けないように調整して攻撃してるんだぞ。それで死んだらどうするんだ」
サイファーがカイドに近付いていく。
「さっきからゴチャゴチャうるせえよサイファあよぉ。何ならいまここで俺とお前で決着でもつけ────」
『シューティングスター』
アルティメットの叫び声がボロボロになった管制室にこだまし、一筋の光線が言い合いする二人へと向かう。
「うおッ!?」
「……ッ!」
二人は同時に後ろへ跳び、間一髪で避ける。
「……まだ、意識があるやつが居たか」
ジャックスは少しだけ感心したように言う。
言い合いしていたカイドとサイファーは、ジャックスの視線の先を追うようにして、ある人物を視界に捉えた。
「よ、避けられたあ……結構速いアルティメットなのにぃ……」
後ろで倒れている初老……ゼラフを庇うように、女の教師は立ち上がる。
「……ほう、先程の衝撃で吹っ飛んだと思っていたが、どうやら上手く受け身をとれたようだな。他の教師とは違うと見た」
「……全く嬉しくない褒め言葉、教師からしたら、みんな仲良し平等なんだよ、差なんて無いよお」
トリアルは脚と腕を震わせながら、苦笑いでジャックスの言い分を否定した。




