21.最高の舞台
そんなこんなで、学園バトルロワイヤルが開始してから約6時間が経過した。
「一刀両断だよ!」
「蜂の巣にしてやる」
「仲間にやられるって、どんな気持ちだ?」
ユカネ、レイソン、シムノという順に物騒な事を言いながら、残った異形を殲滅していく。現在闘っている異形はウルフだ。
ユカネは鎌を振り回し、ウルフを文字通り真っ二つに切り裂いていく。
レイソンはライフルを生成し、向かってくるウルフに集中砲火することで、原型を無くす勢いで追い詰めている。
俺は、2人が作ったウルフを片手に、ウルフをぶん殴るという画期的な方法を使っていた。どうやらスライム以外にも有効だったようで、俺を攻撃しようとすれば、手に持っているウルフを前に突き出し身を守る。仲間を攻撃出来ないウルフ達は攻撃することを躊躇ってしまう。
そこをおいしく調理するのが俺の役目ということだ。
「……よし、今のやつで終わり……じゃなかった、まだ手元に残っているんだった」
右手を眺めると、見るに堪えない姿となったウルフが痙攣していた。もう、この命も永くない。
「ふんっ」
戦意喪失したウルフを地面に叩きつける。
次の瞬間には、どこからともなく飛んできた弾丸に脳天をぶち抜かれ、塵となって消滅した。
「……やっぱり、シムノ君の方が異形なんじゃないかって思ってきたんだけど、どう思う? レイソン君」
「間違いなく異形の素質がある。俺が保証しよう」
「レイソンだって瀕死のウルフに脳天を狙って撃ってただろ、そっちこそ異形の素質あるぞ」
このやり取りは既に何回か行われている。俺がこのような戦闘スタイルで闘うたびに、事あるごとに異形扱いをしてくる。失礼極まりないと俺は思う。
「……ところで、今何ポイントぐらい貯まったんだ? スライム、ゴブリン、スケルトン、オーク、ウルフ……俺達、だいぶ倒してきたと思うんだよ」
「ほとんど私達2人が、だけどね」
ジト目になりながら俺を見てくるユカネ。
何も言い返せない俺は、そっとユカネから視線を外すことしか出来なかった。
「ポイントは……あれだけ倒したのに、そんなに増えてないな」
レイソンは困ったような表情を浮かべながら、ホログラムに映っているポイントとランキングを俺とユカネに見せてくる。
「ポイントは3890ポイント……あんなに倒したのに思っているより少ないね……順位は……19位!? みんなポイント集めるの早すぎるよお!」
ユカネは両手で頭を抱え、ぶんぶんと首を横に振る。
「今から全力で異形を倒しにいったとしても、1位になるのはほぼ不可能かもしれないな。よくて10位以内に入れるかどうか、といったところだな」
「現実は非情だねえ……」
心なしか、ユカネの目が死んでいるように見える。覇気というか、生気というものが感じられない。鎌を振り回していたあのユカネはどこへ……ああ、スライムを倒していた時も目は死んでいたな。
「今の1位のポイントは……8200ポイントのユーマ・グレーシアのチームだな」
さすが主人公。どんな事でも勝利は揺るがない。
まだ勝利こそしていないが、結果はほとんど見えているようなものだ。
「確か、ワルゴ君とマユさんもそのチームだよね。ユーマ君と組めるなんて、羨ましすぎるよお……」
「なんだ、俺とチームじゃ不満なのか?」
「安心してくれユカネ。俺達は1位はおろか、上位にもなることはないからな」
「チームに関しては不満じゃないけど……あとシムノ君。きみがそれを言うのは良いけど、上位になれない原因を分かってて言ってない?」
なんのことだかよく分からない。だから俺はユカネから目を逸らした。
ユカネ、ジト目でこっちを見てくるんじゃない。
「ところでレイソン。2位はどこのチームだ? ポイントの差を把握しておきたいなって」
「あっ、はぐらかした」
ユカネから鋭い視線を感じたが、感じていないフリをして、ポイントの差についてレイソンに確認することにした。
「シムノは特に気にする必要はないと思うが……」
「特には余計じゃないか?」
ナチュラルな毒舌に思わずツッコミを入れたが、レイソンはそれをスルーし、ユーマチームの詳細画面を閉じ、ランキング画面に戻す。
「2位は……ポイントは7300ポイント、1位とは約1000ポイント差だな」
「やっぱり、ユーマ君の独壇場って感じだね……」
ユカネがユーマの強さを改めて納得し、軽く頷く。
「……あれ、この人って、もしかしてコママさん?」
誰だろうかその人は。そんな人はステラクラスには居なかった……ということは別クラスの生徒ということになる。
「どんな人なんだ?」
子供の母という由来になってそうな名前が気になり、レイソンの横に並び、ホログラムに映されている証明写真を覗き込む。
髪は夜空のような深い青色で、前髪に隠れかかる鮮やかなエメラルドグリーンの瞳が印象的な女子生徒だった。
「……俺は少なくとも会ったことがないな」
「あれ、そうなの? 私ですらこの前挨拶されたのに……」
ユカネは不思議だと言わんばかりの表情を浮かべながら首を傾げる。
「俺も挨拶されたことがある。なんというか、まさにお嬢様という感じの雰囲気だったな」
「へえ……実際にお嬢様だったりしてな」
「……実際にお嬢様だよ?」
「え」
まさかのお嬢様だった。ていうか何でお嬢様……あ、ラストネームがアルクレナ王国と同じなのか。
「あのゼラフさんの娘だからな。しかも、ただのお嬢様ではなく、王女でもある……知らなかったのか?」
「全く知らなかった」
俺は即答した。
ユカネは呆れてため息を吐き、レイソンは相変わらず真顔だが、信じられないといったような眼差しでこちらを見据えている。
「嘘でしょ……この王国に住んでたら、知らない人は居ないはずだし、学園の皆も知っているよ?」
「全く知らなかった」
俺はまた即答した。
「……シムノは、もう少し世間に目を向けるべきじゃないか?」
レイソンに真顔のままアドバイスされてしまった。
「だってこの学園に入学するまでは……」
「入学するまでは?」
「……いや、何でもない」
「そこは最後まで言うところだよ?」
ユカネが何を言おうと、俺は答えるつもりがなかった。
……答えると都合が悪いことはもちろんだが、これは到底人に言えるものでは無い。来るその時に備えるため、自分自身のために全力で捧げてきた希望の十四年間は、公言するべきではない。
「……ところでレイソン、近くに異形が出没しているか確認してくれないか?」
「あっ、また話を逸らした」
そして俺もまた、ユカネから視線を逸らす。
「少し待て……ふむ、ここから少し歩いたら、草原が広がっている場所がある。そこにまたスライムの軍団が────」
レイソンが最後まで言葉を紡ごうとしたその刹那────俺達は見覚えのある球体に包まれながら、少しずつ上空に向かって上昇していた。
「この球体は……!?」
レイソンが真っ先に反応し、驚きながら球体に触れる。
「あれ、私たち異形にやられたわけじゃないよね? 先生の誤操作かな……?」
ユカネは困惑し、トリアル先生が誤操作していると思っているようだ。
「いや、俺はこれはこれで……うん?」
このまま学園に帰還して、主人公を眺めるのも一興だな。と言おうとしたが、何やら球体の様子がおかしい。
「何か……震えてない?」
ユカネが異常に気付き、震えている球体におそるおそる触れる。
「一体どうし……っ!?」
次の瞬間、俺たちを包む球体が、地面に向かって急降下を始めた。
「きゃあ!?」
「おおっ!?」
そのまま地面に衝突し、その衝撃が容赦なく俺たちの身体を揺さぶる。
────危なかった。素人なら間違いなく、死んでいた衝撃だ。
学園の生徒達なら大丈夫かもしれないが……それにしても衝撃が強すぎる、何かがおかしい。
咄嗟に受け身を取った俺は、内心でそう分析した。
「……っ、無事か、二人とも!」
「う、うん、何とか……!」
「どうにか生きてるぞ!」
レイソンが俺達の安否を確認し、俺達は大丈夫の旨を返答する。
────しかし、球体の暴走は収まる様子が無い。
「また振動……!?」
「一体、何がどうなっているんだ……」
振動により、俺達は満足に立つことも出来ない。気を抜けば、間違いなく生命に関わる事は言うまでもない。
────だが、振動は突如として無くなった。
「……収まった?」
今思えば、このセリフはフラグというやつだったのだろう。
俺がそう呟いた瞬間、レイソンが俺達に向かって叫び声を上げた。
「違う! これはまた暴走する前ぶッッ!?」
最後まで言い終わることなく、俺たちを包む球体は再び上空に打ち上げられる。
上昇していく中、球体の中で、俺たち三人は視線を交わす。
「……!? 二人とも!」
嫌な予感を感じとったのか、ユカネは俺とレイソンの二人に向かって手を伸ばす。
……しかし、球体に包まれている今、その手は俺達を掴むことは無い。
「……まずい、これは、飛ばされる────!」
レイソンの言葉を最後に、俺たちの球体は、それぞれ異なる方向へと飛び立っていく。
「シムノ君、レイソン君────!」
ユカネが、手を伸ばしながら俺たちに向かって叫ぶが、次第に距離が遠くなり、その声やがて、完全に聞こえなくなった。
「何が起こって……うおっ!?」
目の前で、球体が風のような速度で通りすぎていく。
「……まじか」
視野を広げれば、空中で球体が、生徒たちの叫び声とともに、あちこちへと飛び交っていた。
俺がこの光景を見て感じとったのは、恐怖でも不安でもない。
────歓喜だ。
「……ははっ、ははははっ!」
思わず笑いが溢れ出てくる。周囲の叫び声の中に、狂気な笑いが混じる。
明らかによろしくない状況なのは、周囲の叫び声を聞けば誰でも把握できる。
────でもこれは、救世主である主人公の出番ということじゃないか?
「誰がこんな状況を作り出したか知らないが……」
揺れる球体の中、俺はおもむろに立ち上がる。
そして、ゆっくりと腕を広げ、空を見上げながら────
「最高の舞台をありがとう! 黒幕!」
名も姿も知らない存在に、感謝の言葉を贈った。
見つけて下さりありがとうございます。
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