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18.モンスター図鑑No.1


 「……で、何で私は君たちと一緒なのかな?」


 「さあな、俺達は運命共同体というやつかもしれない」


 「ロマンがあって良いと思うが、俺はそういうのは昔に捨ててきたから嫌だぞ」


 「シムノ君。一人で10000ポイント目指してみる?」


 「運命共同体らしく仲良く散るか」


 「手のひら返しがすごいな。しかし、目指すとかじゃなく散る前提なのか」


 大講堂からダンジョンに転送され、俺達は再び顔を合わせることになった。


 俺は滝の近くの生い茂る森の中に転送されたが……まさか、声のする方に向かっていったら二人が居るとは思わなかった。


 「……本気で、嫌な予感がする」


 「ん? どうしたの、シムノ君?」


 この二人は、ユーマに比べるとまだまだだが、やはり素質はある。ゆえに、何かに巻き込まれやすい可能性も捨てきれない。そんな二人と一緒のチームになった俺は……どうすれば穏便に終えることが出来るのだろうか。


 『あーテステス……うん、これで大丈夫かな。はいはーい! みんなー、聞こえてるかなー?』


 突如、腕に装着している端末から女性の声が聞こえてきた。俺は思考するのを止め、端末の方を見る。


 『おほんっ、皆はチームの人と顔合わせは済ませたかな? 今回の学園バトルロワイヤルで肩を並べながら競い合っていくから、仲良くするんだよ?』


 トリアル先生が喋る度に、レベルメーターが上下に反復している。この異世界にこんなものがあるとは……意外と近代的な世界だったのか。


 『あとはねえ……えっ、時間が押してるからさっさと始めなさいって? もう、せっかちだなあゼラフおじちゃ……っんん、ゼラフ大司教は』


 「トリアル先生、ゼラフ大司教のことをおじちゃんって呼んでるんだ……」


 「微笑ましいな」


 ユカネは驚いたような表情をしているが、レイソンは真顔のまま。本当に微笑ましいと思っている顔なのかそれは……?


 『それじゃあ、ここからは君たち全員が主役だよ! 皆で競いあって、頑張って一位を目指してね! 私達は君達の事を応援しているからね!』


 大講堂でも似たような事を言っていた気がする。教師らしさがあまり感じない口調ではあるが、そこはやはり教師。生徒のことを大切にしていることが分かる。


 『それじゃあさっそく始めよっか! ちょっと揺れるから、気を付けてね。学園バトルロワイヤル、スタートお!』


 トリアル先生が声高らかに宣言する。


 それと同時に地面が大きく揺れ始める。


 「わっわっわっ!」


 「地震か……?」


 「立ってるだけでも精一杯だなこれっ……!」


 俺達三人の足元は一気に不安定になり、それぞれで転ばないようにバランスを保つ。


 ユカネと俺は、腕や足を不規則に動かし、重心を前後に揺らしながら転ばないように必死に踏ん張る。


 レイソンは、俺達とは違い、足を全く動かすことなく、根を張っているかのようにその場でしっかりと固定されていた。しかし、体はまるでシーソーのように揺れ動き、上半身が前後に大きく傾いているため、はっきりいって気持ち悪いバランスの取り方だ。


 「……むっ、どうやら揺れは収まったようだぞ」


 レイソンのシーソーモードが終わると同時に、先程の揺れは嘘のように収まった。


 「何で揺れたか、シムノ君分かったりする?」


 「ただの演出とか?」


 「演出で揺らすぐらいなら花火でも良いじゃん」


 「そっちこそどうやって用意するんだ?」


 「教師の誰かがこのダンジョンにやってきて打ち上げるとか」


 「原則教師はこのダンジョンに来れないルールらしいぞ。それなら地面を揺らす方が簡単だ、俺だってやろうと思えば出来る」


 「なるほどお……んっ? いまやろうと思えば出来るって言っ────」


 「ユカネ、シムノ。お喋りは良いが、さっそく異形(モンスター)のお出ましかもしれないぞ」


 「えっほんと? どこに居るの?」


 「いや、まだ姿を現してはいないが……おそらく、地面から来るぞ」


 「地面?」


 それを聞いたユカネは、レイソンが見つめている方向を同じく見つめる。


 「……何か、どんどん音が近付いてきてない?」


 「ユカネ、今ならまだ気のせいと言えるぞ」


 「言う方が無理あるよね!? 絶対何か来るよこれ!」


 俺は気のせいと思いたかったが、ユカネの言う通りそれは無理がある。


 そして、音がだんだん大きくなると共に、ついにそれは地中から這い上がってくるかのように姿を表した。


 「……これは」


 レイソンが口元に指を添えた。


 「……この可愛いぽよぽよしているものは!?」


 ユカネは目をキラキラさせながらそれを見つめた。


 「……スライム、か?」


 俺は、ゲームの序盤でよく見る敵キャラが出現したことに、困惑した。


 「きゅう?」


 スライムは、可愛く鳴いた。


 「か……」


 「か?」


 ユカネの目は、より一層キラキラが増した。


 「可愛いいいい!」


 そして、俺達の元から離れ、真っ先にスライムに向かった飛び付いた。


 「きゅきゅう!?」


 「可愛い可愛い可愛い! 始めて見たけどこんなに可愛いなんてえ!」


 スライムの感触を味わうように、頬をすりすりし始めたユカネ。


 「シムノはスライムについて知っていたのか?」


 「あ、いや、どこかで見たことあるなと思ってな」


 「スライム自体は、千年前に絶滅したはずだが……?」


 「ああ違う違う。色々な異形(モンスター)が載っている文献で見たことあるだけだ」


 「そうか、俺も文献で見ていたから知っていたが……ふむ、確かに可愛らしい生物だな」

 

 あっぶな。どこからどう見てもスライムだったから思わず口にしてしまったが、どうにか誤魔化せたようだ。


 「ぽよぽよしてて気持ちいい……ずっとこうしてたい……」


 「きゅきゅ……」


 すっかりだらけきった顔でスライムに抱きついているユカネ。

 

 「あんなに抱きついているけど、大丈夫なのか? 今のところ害は無さそうに見えるんだが……」


 だらけているユカネに指を差しながら、レイソンに質問してみる。


 「確かに、異形(モンスター)の文献によれば、スライム自体にはあまり害は無いと記載されていたな」


 「何だ、見た目通りって感じなんだな」


 「癒されるう……このまま寝ていたい……」


 「きゅ……」


 そこで、スライムの様子が少しだけ変わる。


 「……ただし、やはり異形(モンスター)異形(モンスター)、一見害が無さそうなスライムでも、見知らぬ存在にあれこれされていると……」


 「えへへ、えへへへ……ん? スライムちゃん、どうかした?」


 スライムはプルプルと震え出す。


 「スライムとて、攻撃対象にせざるを得ないだろう」


 「キュアああぁぁ!」


 「ギャフ!?」


 「あ」


 ユカネの熱い抱擁から抜け出したスライムは、そのまま勢いよくユカネの顎に向かって突進した。


 スライムのタックルをモロに受けたユカネは、ふわりと空中に舞い上がったと思うと、そのまま俺達の足元に倒れ込んできた。


 「……あー、大丈夫か、ユカネ?」


 ユカネは突っ伏したまま動かない。


 「屍になってやがる……」


 俺は勝手に、お亡くなりになったことにした。


 「シムノ、周りを見てみろ」


 「周り……? マジかよおい」


 俺達の周囲を囲むように、スライム達が地面から次々と湧き出てくる。


 「……スライムは、基本的に一体で行動することはなく、複数のスライムと共に活動していたそうだ」


 「キュアああああ!」


 先程ユカネが抱きしめていたスライムが、俺達に向かって真っ直ぐ飛んでくる。


 「だから、団体行動の性質のせいか、可愛い見た目とは反対に、意外と好戦的でもあったそうだ」


 そう言いながら、レイソンの手中には、既にピストルが生成されていた。


 「だから、油断していると、意外と手こずってしまうというわけだな」


 そしてレイソンは、ピストルの引き金を引き、スライムに見事命中させた。


 「キュア!?」


 スライムは悲痛な鳴き声を上げ、その原型を崩しながら、地面に溶けていった。


 「キュアああああ……」


 その光景を見た周囲のスライム達は、俺達を睨むように唸り声を上げる。完璧にターゲットにされたな、これは。


 「おいユカネ、大丈夫か? 起きてくれないと、レイソンが一人で戦うはめになるぞ」


 「シムノは戦ってくれないのか」


 「だって俺はF-だからな」


 「それ言えば何でも許されると思ってないか?」


 「……うう……」


 「あ、生きてた」


 ユカネはおもむろに立ち上がり、周囲のスライムをゆっくりと見渡した後、ため息を吐いた。


 「……私、決めた」


 「何をだ?」


 レイソンはユカネに問う。


 「……この戦いが終わったら、いつかスライムをペットにするんだ!」


 「絶滅してるから無理だろ」


 俺はマジレスするが、ユカネは聞いちゃいない。


 「だから、心苦しいけど、今は安らかに眠っててね……!」


 ユカネが手を掲げながら少し恐ろしいことを言うと、手のひらにアルカナを集中させる。


 そして、アルカナの光が消えると同時に、ユカネの手中には巨大な鎌が握られていた。


 「鎌……?」


 短い間だが、俺はユカネという人間性をこの目で見てきた。


 明るい性格でツッコミも出来る女。これが俺の認識だ。


 だからこそ俺は思う。ユカネにしては()()()()()()()()()()()()だと。


 「うう……覚悟!」


 涙目になりながら、スライムに向かって鎌を横に振るう。


 「キュアアア!?」


 鎌に被弾した複数のスライムは真っ二つに分かれ、残骸として地面に溶けていった。


 「……さあ、二人とも! スライムを倒してポイント稼ごっか!」


 鎌にスライムの残骸を付着させながら、笑顔で俺達の方に振り向きながら言った。


 「……こわ」


 「……いつか、スライムをペットに出来ると良いな」


 学園バトルロワイヤル、略して学バト。


 本格的に開幕だ。

  

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