17.チームガチャ、ハズレ!
アルクレナ学園、大講堂にて。
「本日は快晴。絶好の学園バトルロワイヤル日和ですね!」
歯を見せつけながら笑うのは、講壇に立っている最高責任者のおっさん、ゼラフ・アルクレナ。入学式以来の再開だ。あの時は名前が分からなかったが、後にユカネから教えられた。
「前回の開催から、11年という月日が経過しました。君達は実に幸運です。この学園でも最大のイベントを、その身で挑むことが出来るのですから」
腕を組みながらウンウンと頷く。
「とはいえ、まだ皆さんはまだ入学したての小さな子供。右も左も分からないまま、今回のイベントに挑むことになるのは少し不安かもしれません」
ゼラフは不安そうな表情を浮かべるが、次の瞬間には優しい笑みを浮かべ、生徒らに安心させるように話し始める。
「しかし、ご安心ください! ルールは事前に各教師から聞いているかとは思いますが、これだけは言えます! 今回のイベント、危険な事は一切ありません!」
それを聞いていた周りの生徒らは、安堵の表情をちらほら浮かべていた。怪我した時の事とかは事前に聞かされていなかったから、不安だったのだろう。
なお、俺はフラグとしか思えなかった。
「皆さんは、それぞれの自慢のアルカナを駆使して、チームの皆さんと切磋琢磨し、ぜひ、一位を目指して奮闘してください!」
ゼラフは言いたいことを言い終えて、一礼する。それを皮切りに周囲は拍手の音に包まれる。
俺は忘れず、エア拍手をしておく。
「私からは以上です。それではトリアル先生、後はお任せします」
「はい! 分かりました!」
ゼラフが降壇し、入れ違うようにトリアル先生が登壇する。
「トリアル先生、今回のイベント楽しみにしてたのかな?」
ユカネが俺に耳打ちしてきた。普通の男子なら動揺してしまうシチュエーション。しかし、俺は普通を彼方に捨ててきたので、真顔のまま応答する。
「裏では血眼になりながら準備していたらしいからな。今日で五徹目らしいぞ」
「それほんと?」
「真っ赤な嘘だ」
「顔を真っ赤に染めあげても良いんだよ?」
笑顔のまま怒筋を浮かべるユカネ。少しだけ怖い。
「ここからは私がメインで進行役を勤めます、トリアルです。」
トリアル先生が喋り始めたので、俺とユカネは意識をトリアル先生に向ける。
いつものようなほんわかとした口調ではなく、教師にふさわしい雰囲気を保ちながら、俺達生徒を見渡している。
仮にも教師なんだな。と、俺の中で認識を改める。今までの雰囲気を見ていたらあまり教師らしさを感じなかったからな……
「入学したての初めてのイベント。緊張しているかもしれませんが、とにかく、皆さんに優先してほしいことは全力で楽しむこと。それぞれの特色あるアルカナを、この目で見れたらなと思います!」
笑顔を振り撒きながら、俺達に向けて願いを発する。その笑顔の暴力に撃ち抜かれた生徒、教師が一部存在した。胸を押さえている。
レイソンも男だ。撃ち抜かれて心臓を押さえたりは……すごく綺麗な真顔だ。こいつには表情筋というのが存在しないのか。
「では皆さん、お手洗いは済ませましたか? もしも済ませていない人が居たら今のうちに行ってきてね……誰も立ち上がらないってことは大丈夫かな。うん、その意気や良し!」
誰も立ち上がらずトリアル先生を見据えていると、大講堂全体が淡い青色に光り出した。
「な、なんだ!?」
「この光は一体……!?」
突然の光景に、周囲の生徒達は動揺を隠せない。
「私達一同は、しっかりと君たちのことを監視しているよ! もしも何かあったら、遠慮なく声を上げて私達を頼ってね!」
大講堂の地面全体に、一つの魔法陣が形成される。
「初めて見る異形だから、すこーし怖いかもしれないけど……そこはチームで切磋琢磨して攻略してね!」
可愛らしいウィンクをするが、一部の生徒は顔を青ざめていた。怖いのが苦手に違いない。
「────それじゃ、幸運を祈るよ!」
魔法陣の光が強くなる。もう少しでダンジョンとやらに転送されるのだろう。
「どんな人と一緒になるのかな?」
「武運を祈ってるぞ、二人とも」
隣を見ると、これから起こる事にワクワクしているユカネと、控えめな激励をしたレイソンが視界に映る。
そんな二人を見ながら、俺は小声で呟いた。
「────嫌な予感、するんだよなあ……」
「────転送!」
俺が発した言葉は、二人の耳に反響することはなく、トリアル先生の魔法陣によって、俺達はダンジョンに転送された。
◇
「……みんな、大丈夫かなあ」
「大丈夫だと思いますよ。今年の世代は、志が強い生徒でいっぱいですから」
総勢180人の生徒が大講堂から姿を消すと、トリアルが心配の声を漏らす。そこに、ゼラフがトリアルの元に近づき、安心させるように言った。
「いま私達に出来ることは、最大限あの子たちのフォローをすることだ。これから忙しくなるぞ、トリアル先生」
トリアルは、少しだけ俯いていた顔をあげる。
視界に捉えたのは、教師陣が慌ただしく移動している光景。
教師たちには、それぞれのチームを監視する役割がある。10000ポイントを達成しないと終わることが出来ないこのイベントは、場合によっては徹夜してまで生徒達のコンディションをチェックしないといけない。
ゆえに、教師たちには強制的に残業させられるのだ。
「……そうだねえ、ゼラフおじちゃん!」
「こらこら、ここではゼラフ大司教と呼びなさい」
「はーい、ゼラフ大司教」
呆れたような笑みを浮かべたゼラフと、まるで少女のような笑みを浮かべたトリアル。
「ゼラフ大司教、トリアル先生。準備の方をお願いします!」
そこで、一人の教師が二人に向かって急かすように叫ぶ。
どうやら、少し話しすぎたようだ。
「では、行きましょうトリアル先生」
「はい! よおし、先生頑張っちゃうぞお!」
「はっはっは、ほどほどに頼むよ」
ゼラフとトリアルは笑いながら、先程呼び掛けた一人の教師に向かって歩いていった。
◇
「うわあ、凄く綺麗……!」
先程の魔法陣によって転送されたユカネは、転送先で感嘆の声を上げていた。
ダンジョンと聞いたからには、じめじめとした洞窟などを想像していたが、そんな狭苦しい場所ではなく、広々とした開放的な場所だった。
「こんなに綺麗な滝が見れるなんて、本当にここはダンジョンなのかな!?」
目の前には滝があり、その両側には苔むした岩壁がある。何とも、ダンジョンとは思えない光景が、目の前に広がっていた。
そんな光景を、目をキラキラさせながら一人でテンションをあげているユカネ。
そこに、茂みの奥からかすかな音が聞こえてきた。
「……ッ! 誰!?」
滝を眺めるのを止め、すぐに茂みの方を確認する。
もしかして、さっそく異形と出くわした?
ユカネは内心でそう呟き、音の正体を突き止めるべく、茂みの奥を注意深く見つめる。
しかし、実際に目の前に現れたのは、よく見た顔の男だった。
「……もしかして、レイソン君?」
「もしかしなくても、レイソンだ」
茂みの奥から現れたのは、レイソンだった。
「レイソン君、何でこんなところに居るの? もしかして迷子?」
「違う。どうやら俺達は、同じチームになったみたいだ」
「えっほんと?」
「ああ、腕に付けられている遺物を見てみろ」
「遺物……? あっ、ホントだ、いつこんなの付けたんだろう、全然気付かなかったよ」
腕を見ると、腕時計のような物がいつの間にか装着されていた。
ユカネは遺物に触れてみる。すると、ホログラムのような物が目の前に出現し、あるものが映し出されていた。
「No.11……もしかしてこれが、私達のチームナンバーってこと?」
「そうみたいだ、もちろん俺もNo.11となっている」
レイソンは、ユカネに見せ付けるように遺物を触れる。
レイソンも同じく、No.11と表示されていた。
「まさか私達が一緒になるなんてね」
「同感だ。こう言っては何だが、俺達のアルカナランクはそこそこ高い。故に、俺達が一緒になることは無いと踏んでいたんだが……」
「だとしたら、あと一人は誰なんだろうね?」
「この近くに居ると思うんだが、一体どこに……」
「────もしかしなくても、俺のことを呼んだか?」
「え」
「……なるほど」
一人の男の声と、足音が聞こえてきたと同時に、反応はそれぞれ違ったが、二人は察してしまった。
ユカネとレイソンは、その音の発生源を視界に捉えると同時に、苦笑いしながら諦めたように言った。
「ハズレ……ってやつかな?」
「失礼を承知に言うが、一般的にはハズレだろうな」
二人の目の前に現れた人物は────
「ハズレとは失礼だな、F-の力を見せつけてやる良い機会だろ、これは」
F-の男、シムノ・アンチだ。




