16.学園バトルロワイヤル
「それで、トリアル先生の説明もロクに聞かずに、私の貴重な時間を潰してまで説明してほしいとお願いしているのは貴方達で間違いないわよね?」
「う、うん……間違ってない、よ?」
ロセリアの毒舌にユカネが少し戸惑う。モロに受けてしまうとこういう反応になるのか。
「うお……相変わらずロセリアは毒舌だな……」
「でもそこがクールでかっこいい感じするよね!」
「あの口調で踏まれたい……」
「きも」
ロセリアの毒舌に反応した生徒らが口々に感想を溢す。
なるほど、ロセリア・スミスは毒舌キャラクターとして認識されているんだな。どおりで周囲には友人らしき人物が居ないのか。
「ああ、レイソンとユカネがどうしてもロセリアに聞きたいらしくてな」
「シムノ君?」
「そんなこと一言も言ってないのだが」
ユカネとレイソンが俺の方を見てくる。何を言っているのかよく分からないな。
「とにかく、学園バトルロワイヤルの内容を私なりにノートにまとめたのがあるから、それを見ながら説明するわよ」
そう言いながら俺達三人が見やすいようにノートを広げる。
「私の貴重な時間を潰したと言っていたが、随分素直に教えてくれるんだな」
レイソンが感心した風に言うと、それに反応したロセリアが鼻で嗤いながら言った。
「だからこそ、よ。このまま放置して、駄々こねて迫られたらたまったものではないわ」
「鋭いな、もし放置されたらそのつもりだった」
「レイソンが駄々こねてる姿とか想像しただけで笑うんだが」
実際に想像しようとして、笑いそうになったため止めた。
「それじゃ、シムノ・アンチ君、ユカネ・カトリーヌさん、レイソン・アクヌ君、耳をかっぽじって脳内に叩き込みなさい」
「頼んだロセリアせんせー」
「お願いします!」
「よろしく頼む。あとアクヌではなくアークァだ」
そうして、俺達三人は耳をかっぽじってロセリアの説明に没頭するように聞き入った。
◇
────しばらくして、ロセリアから学園バトルロワイヤルについての内容を聞き終えた。
「えっと、つまり学バトについてまとめると……」
ユカネは、ロセリアから聞いた詳細を繰り返すように内容をまとめ始める。
まとめるとこうだ。
・舞台はアルカナシステムによって生成されたダンジョン。
・ソルクラス、ルナクラス、ステラクラス内でランダムに三人チームで編成され挑むことになる。
・バトルロワイヤルとはいえ、生徒同士で殺し合いをするものではない。
・異形と呼ばれる生物を狩り、それによってアルカナポイントというものを稼ぐ。なお、異形の強さによってアルカナポイントは変動する。
・アルカナポイントを10000まで貯めたチームが優勝となり、学園バトルロワイヤルは終了する。なお、順位によって成績に反映される。
……見る限り、ルールは単純。とにかく強い人が好成績を残すことが出来るイベントのようだ。
ただ、一言もの申したい。
「圧倒的に俺が不利なイベントだな」
アルカナランクが低い人に人権は無いのだろうか。どうやっても勝つビジョンが思い浮かばない。
これが実力社会というものか……最下位には死んでもらうとか無いよな?
「それよりも、異形を狩るって……確か大昔に絶滅したはずじゃなかったかな?」
「俺のことをそれよりもで済まして良いのか?」
俺は少し抗議したが、誰一人反応する者は居なかった。
「貴女、異形についても聞いてないの?」
「あ、あはは……」
眉を下げながら、困り顔を浮かべるユカネ。
「ユカネ、人の話はしっかり聞いた方がいいぞ」
「レイソン君は少し黙っててもらえない?」
困り顔のままレイソンに圧をかけた。少し怖い。
そのやり取りを聞いていたロセリアはため息を吐きながら、異形について語り出した
「……千年以上前、世界は異形という脅威に苛まれていた。しかしある時、とある四人の英雄が立ち上がり、強大な力を持ってすべての異形を討伐した。その時に使われていた力が『アルカナ』と呼ばれる秘術だった。四人の犠牲と尽力により、異形は完全に姿を消し、恐怖に支配されていた世界にようやく平和が訪れた……」
語り口調になっていたロセリアは一拍置いて、再び語り出す。
「それ以来、『アルカナ』という秘術は、英雄たちがもたらした象徴として世界に浸透していった。魔法でもなく、神の奇跡でもないその力は、未だ完璧に解明されていないまま、現在に至る……と、異形のついでにアルカナについての歴史も語ったけど、こんな感じね」
「おおー」
「まるで教師のようだったな」
ユカネとレイソンは感心したようにパチパチと拍手した。
「今回の学園バトルロワイヤルについては、この異形が存在していた時の文献を参考にして、学園側の技術でダンジョン内に生成されるとのことよ」
「何だか、ハイテクだね!」
「この学園実はすごいのか……?」
やっぱり、普通の学園じゃない。普通が良かった……
……あっ、一応、ロセリアにも聞いておこう。もしかしたら何か知っているかもしれない。
「俺のアルカナランクがF-の理由は?」
「前世で懺悔をし忘れたせいじゃないかしら」
即座に返答された。
前世で懺悔という摩訶不思議な状況をどうやったら思い付くんだろうか。ロセリアは真面目に見えて、案外変人要素もあるのかもしれない。
「……そういえば、ロセリア先生! ランダムに三人でチームを分けると聞きましたが、どのように分けるのでしょうか!」
生徒らしく、ビシッと右手を上げロセリアに質問するユカネ。
「それは私もノートに書いてないわね……えっと確か……」
「逆にさっきの語り口調で喋ってたやつは全部メモしてたとでも言うのか……!?」
この女、相当の猛者である。
「思い出したわ。生徒達のアルカナランクに応じて、教師側で選別してチームを編成するって言ってたわね」
「ばいばいシムノ君」
「短い間だったが、お前との時間は楽しかったぞ」
「二人とも、その顔面をアイスで埋め尽くしてやってもいいんだぞ?」
「貴方達、仲良いのか悪いのかどっちなのよ……」
ロセリアが呆れたようにため息を吐くと、開いてたノートを閉じ、椅子から立ち上がる。
「それじゃあ、大方説明も出来たことだし、そろそろ戻ってもいいかしら」
「ああ、助かった。恩に着るぞ」
「また何かあったら頼っても良いかな?」
「自分の時間が潰れるから遠慮願いたいわね」
ロセリアは自分の席に向かって歩き出す。
と思いきや、少し歩いたところで身体を俺の方に向け、真顔のままロセリアは言った。
「シムノ君は、チームになる人の足手まといにならないようにせいぜい頑張ると良いわ」
その顔で罵倒するのは止めて欲しい。主人公の特権っぽくなってしまうし。
「万が一の事があれば、ロセリアを囮にすれば万事解決だな」
だから俺は、主人公では言わなさそうな事を言う。
「……珍しいわね」
「うん?」
ロセリアの口元が微かに動いたが、何を言ったかまでは聞き取ることが出来なかった。
「……今度こそ戻るわ。ま、せいぜい奮闘しなさい」
それだけ言い残し、今度こそロセリアは俺達の元から去る。
「ロセリアさんって、思っていたより良い人だったね」
「ああ、毒舌なところはあるが、親切に分かりやすく説明もしてくれた。何故か周囲には友人らしき人は居ないが……」
「もしかして、一人が好きなタイプとか?」
「可能性としてはあるな」
ロセリアの背を眺めながら、ユカネとレイソンは各自思ったことを口にした。
俺は、二人が会話している様子を横目で見ながら、ただこう思った。
……今回のイベント、何も起こらないと良いなあ。
もし何か起こればロセリアかユーマに丸投げしよう。そうしよう。
内心でそう決意した後、社会構成学を担当している教師が講義室に入ってきたため、講義を聞くふりして寝るための準備に勤しむことにした。




