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13.心臓を鷲掴みされる男


 ドロマルを消し去った次の日。

 

 「講義って、何故存在するんだろうか」


 講義中に言うことではない内容を呟いて見せる。


 「教養を身に付けるためだと思うよ?」


 いきなりド正論を言われてしまった。


 「いや正直さ、アルカナを使えるんだったら教養なんてあってないようなものだろ? とりあえず悪い奴らをぶっ飛ばして懸賞金を儲ければ生活できるだろうし」


 「それかなり昔の話だよ。今はそういう時代じゃなくなってるし、似たようなものなら防衛者になることだけど……そもそも、シムノ君ってアルカナランクF-だよね?」


 「うぐ」


 「夢物語を読むのは良いけど、実際にその夢に入れるかどうかは別の話だよ」


 「ぐぐっ……」


 言葉のボディーブローを受けた気がする。何故こんなに痛覚を感じるのだろうか。


 「かといって、防衛者になるつもりは無いんでしょ?」


 「無いな」


 「道が途絶えたね……」


 「それしか道が無いことにこの世界の常識を疑う」


 「また変なこと言ってる」


 講義中、隣に居るユカネと中身の無い会話をする。ユカネは講義に没頭する真面目人間かと思ったら、講義中度々こういった感じで話しかけてくる。それでいて、しっかりと講義内容を紙にメモしている。器用な女だ。


 その後も適度にユカネと喋りながら講義を聞いていると、突然、扉に響くノックの音が二度聞こえてきた。


 「はーい、どうぞー!」


 講義をしていたトリアル先生は扉の奥にいる人物に向けて声を張る。


 「すみません、少しお時間を借ります」


 扉をスライドさせると、奥から現れたのは若い男性の教師だった。


 そして、ステラクラスの講義室に入ると、周囲を見渡しながら言った。


 「ユーマ・グレーシアは居ますか?」


 一瞬だけ、講義室全体に静寂が訪れる。


 「僕ですか? なんのご用でしょう?」


 静寂を打ち破ったのは、先程呼ばれた本人であるユーマだった。


 「僕は貴方を呼びに行ってきてとしか言われていませんので具体的な内容は分かりませんが、とりあえず、僕に付いてきてくれませんか?」


 「えーっ! ユーマ君が何をしたっていうのよ!」


 そう言いながら立ち上がったのは、ユーマの隣に座っている女だった。


 やはり隣に座っていることもあり、よく喋る仲になっていたのだろう。ユーマを庇うように声を荒げている。


 「おいおいユーマ! お前なんかやらかしたのか!?」


 「ユーマ君が変なことするわけないでしょ!」


 「俺だってそれは思ってるぜ! でも気になるだろ!」


 「大丈夫だよマユ、ワルゴ。僕は何か悪いことをしたつもりはないよ、心配しないで」


 そう言って、隣のマユという名前の女を宥めるように着席させる。ワルゴも、それ以上何か言うのを止めた。


 押さえ方が上手いな。さすが主人公だ。


 「では、僕と一緒に来てください。そう時間はかからないと思いますので」


 「分かりました」


 「ユーマ君……!」


 諦めきれずに呼び止めようとするが、ユーマが笑顔で微笑むと、マユ……マユ・シスカは心を打たれてそのまま席に収まった。


 あの顔面破壊兵器、さすが主人公。


 マユという女子だけじゃなく、周りの女子も大半が胸を押さえている。


 さすがのユカネも胸を押さえているに違いない。そう思い隣を見てみると。


 「……」


 興味がなさそうに頬杖していた。何でだ。




 ◇




 それから数分後、トリアル先生の講義が終わり短い休憩時間になった頃、ほどなくしてユーマは講義室に帰還した。


 「ユーマ君! 大丈夫だった!?」


 「何か変なことされたか!?」


 ワルゴとマユは心配しながら真っ先にユーマの元に向かう。それに続いて、他の生徒達も追尾するようにユーマの近くに向かう。


 某RPGゲームを彷彿とさせる、それぐらいの追尾具合だった。


 「いや、特に変なことはされなかったよ」


 「良かったあ……でも、ユーマ君が呼ばれた理由はなんなの?」


 「だな、気になるよな!」


 「ね!」


 ワルゴとマユはお互いに顔を合わせた後、再びユーマの方を向く。


 二人の周囲の生徒達も、早く理由が聞きたそうだ。全員が無言になり、ユーマに早く話せと催促しているように見える。


 「うん、まず僕が呼ばれた理由なんだけどね……どうやら、僕がアルクレナ学園近くの家を破壊したんじゃないかという噂が出回っているらしくて」


 「ユーマ君が」


 「家を破壊だあ?」


 俺はそれを聞いて、ペン回しをしていた指が硬直した。それにより、ペンは小さな音を立てながら机の上に落下する。


 「なんでもね、夕方ぐらいに、轟音と共に突如現れた光によって家の一部が破壊されていたらしくて、その時の光が僕のエクスカリバーから発する光と酷似していたらしい」


 「あの虹色に光るやつか?」


 「でも、そんなことあるの? 見間違いとかじゃなくて?」


 全身が徐々に振動し始める。


 「うん、確かに虹色に光っていたって、目撃した人はそう証言していたらしいね」


 「そういえば、昨日はやけにでかい音が鳴り響いてたな。それと関係あるのか?」


 「それについては僕も知っているよ。かなりの轟音だったからね。皆も知っているんじゃないかな」


 一同は首を縦に振る。


 「考えられるとしたら……誰かが持ち出して街中で暴れたとか?」


 ユーマはいいやと言いながら、首を横に振る。


 「それは考えづらいね。そもそも、僕のエクスカリバーは()()()()()()()()使()()()()ようになっているんだ。SSS(トリプルエス)でも、SS(ダブルエス)でも、持ち出すことは出来ない。使えない人には使えない代物になっている」


 全身から、冷や汗が吹き出す。


 「じゃあ、一体誰がやったんだ?」


 「そこが一番謎なんだ。まず僕は、僕以外にエクスカリバーを使える人に出会ったことが無い。仮に僕からエクスカリバーを奪ったとしても、ほとんどの確率でただのなまくらになるんだ。そんなものを持ち出す意味がない」


 「ユーマ君、そもそもエクスカリバーはどこに置いてたの?」


 「基本的に自分の部屋以外に置くことはしないんだけど……唯一、トリアル先生に呼ばれて、エクスカリバーを講義室に置いていった時があってね……でも、その時はロセリアも居たから、置いていくことが出来たんだ」


 その言葉を皮切りに、一同は座っているロセリアの方を見る。何かを言いたげにしていたマユとワルゴだったが、その前にロセリアが口を開けた。


 「確かに私もこの講義室に居たわ。でも、私にはその剣を扱うことは出来なかった。一度ユーマ君にお願いして、持たせてもらおうと思ったのだけれど、柄すら持てなかった。適正が無かったってわけね。まあでも、私には氷の剣があるし、別に持てなくても良かったのだけれど」


 少しだけ間を空け、ロセリアは断言する。


 「私が奪って持ち出すことは、到底不可能ってこと」


 少しだけ悔しそうにしていたが、容疑者から外れたロセリアを一同が認識した後、再びユーマの方に向き直す。


 「じゃあ、一体誰が……?」


 大勢いる生徒の一人が疑問の声を漏らす。


 「演習場から講義室に帰ってきた直後に、ユーマ君が呼ばれたのは知っているわ。私は用事があったからすぐその後に帰ったけれど、もしかしたらその間に誰かが奪って、街中で暴れた、という線も考えられるかもしれないわ」


 疑問の声に応えるように、ロセリアは補足した。


 「だとすれば……僕が呼ばれた後、ここに帰ってきたのは約10分後、その時間の間に持ち出すチャンスはあるね」


 その言葉を聞いて周囲がざわつき始める。


 ユーマはすかさず、まあまあと言いながら両手を軽く前後させる。


 「でも大丈夫だよ。証拠が無いらしいし、何より十分間だけでは持ち出せるはずもないしね。今回の情報だけで僕が犯人になることほとんど無いみたいだから、安心してほしい」


 「なんだよお! 心配かけさせやがって!」


 ワルゴは笑いながらユーマと肩を組む。


 「犯人にならないなら、安心だね!」


 マユはユーマの手を取り、両手で強く握る。


 「うん、心配かけさせてごめんね」


 笑顔を振り撒き、近くに居た女子達の心を鷲掴みした。


 俺は、心臓を鷲掴みされている気分だった。


 「お前ら席につけ、講義の時間だぞ」


 ここで男性教師がステラクラスに入室し、皆に座るように催促する。


 「欠席者は居ないな。それじゃ、講義を始めるぞ。まずは前回の軽い復習からだ。アルクレナ王国の歴史についてだが────」


 各自が席についた後、いつも通りの講義が始まった。


 「なんだか物騒な話だったね。家が破壊されたとか、エクスカリバーが盗まれたとか、轟音と共に現れた光とか……」


 俺の隣で先程の会話を振り返っているユカネ。


 「私はその時寝てたから知らないけど……ねえねえ、シムノ君は何か知らない?」


 「知らない」


 「えっ?」


 「ユカネが涎を垂らしながら寝てたことなんか知らない」


 「えっ! ちょっと、何でそこまで見てるの!? あっそっか、肩に担いで部屋に入ったから知ってるか。じゃなくて!?」


 「そこ、静かにしなさい!」


 男性教師がユカネに向かって注意する。


 「あっ、すみません……」


 消えるような声で謝り、顔を赤くさせながら俯いた。


 ……良かった、何とか誤魔化せたようだ。


 一番真実に辿り着きそうなのはユカネだからな。ここで話を逸らして正解だ。


 絶対にこの話は墓まで持っていく。


 ユカネが顔を赤くして、こちらを睨んでいる姿を横目で見ながら心の中でそう意気込んだ。


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