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12.素質の塊


 「……んぅ……」


 主人公(ユーマ・グレーシア)のエクスカリバーを勝手に拝借しドロマルを消し去った数分後、ユカネが居た場所に戻ってみると、地面に項垂れるように気を失っていたのを発見した。


 「んん……」


 しばらくしたら起きるだろうし、そのまま放置しようかと一瞬考えたが、それは主人公関係無しに人間として終わる気がしたため、仕方なく俺が運ぶことにした。


 「んむぅ……」


 主人公がレディを運ぶ時は、お姫様だっこが定番だ。とはいえ、俺は主人公になるつもりは毛頭ないし、そもそも大衆の前でお姫様だっこという高度な技術を見せつけるのは少し気恥ずかしかった。


 「……んみみぃ……」


 よって、俺は肩に担いで部屋に運ぶことにした。それにより、より視線を集めてしまったような気がしたが、きっと気のせいだろう。


 「……すぅ……すぅ」


 「起きそうだったのに寝ようとするな。夢の世界から帰ってこい」


 「……んぇ?」


 ユカネは微睡みのなか瞼をこすり、身体を起こす。先程スタンバレットというものをくらっていたそうだが、様子を見るに効果は既に切れているようだ。


 ゆっくりと瞼を開ける。その際に、俺とユカネの視線を交わった。


 「……」


 「……」


 お互いに沈黙する。そして。


 「……私、死んじゃった?」


 「だとしたら俺も既に死んでるな」

 

 寝起きで俺を見るなり、私は死んだのかと思うのは少し失礼ではないだろうか。


 「って違う! ここどこ!? あの不審者はどうなったの!?」


 先程まで半目だったユカネが、俺の肩を掴んで揺さぶってくる。


 「ちょ、酔う。酔うからやめ……」


 手を前に出し止めようとするが、ユカネは止まらない。


 「いや、不審者のことはどうでも良い! 何でシムノ君は()()でここに居るの!?」


 ユカネの目を見れば、心配の色を浮かべていた。ある意味、俺がここで普通の状態にしていることに驚いてもいるのだろう。


 「……あの後逃げまくって、あのドロ野郎を撒いてからユカネを担いで寮に戻ってきたんだよ」


 俺、逃げ足だけは速いからな。


 そう言って、ユカネに納得してもらうようにした……が。


 「でも、シムノ君のアルカナランクはF-、少し悪口を言っちゃうけど、どんな人にも勝てないぐらいのナメクジ程度の実力しか持っていないんだよ!?」


 「少しどころの悪口じゃないだろそれ、あとナメクジに謝れ」


 「私はそのドロなんとかよりもランクは高かったかもしれないけど、それでも()()()()()()()()()()()()()()()。そんな奴を普通に撒けるなんて出来るの?」


 失礼かもしれないが、ユカネは俺が生きて帰れるとは到底思わなかったらしい。ふざけた名前の奴だったが、ランク相応の実力を持っていたことはこの身を犠牲にして理解した。


 「ランクが低い奴には低い奴なりの戦い方があるんだ。今回はそれがたまたまハマった、それだけだ」


 ユカネを引き離し、人差し指を立てて無理やり納得させることにした。こういうのはごり押しが正義だ。


 「……」


 ユカネはジト目になりながら俺を見る。どうやら完璧に納得はしていない様子。俺も目力を込め無言の圧をかける。


 折れたのはユカネだった。


 「はあ、まあいっか、助かったのは事実だし」


 ため息を吐いた後、穏やかな表情になりながら言った。


 「ありがとね」


 ……何だか、主人公みたいなことしちゃっていないか、俺。


 「お礼はユーマ・グレーシアに言ってくれ」


 「何でそこでユーマ君が出てくるの……」


 こういうのは全部主人公に丸投げしておこう。事実、エクスカリバーのおかげであの場面は乗りきれたんだ。間違ってはいない。


 「というか、今気づいたけど、ここ私の部屋だね。シムノ君、私の部屋の場所分かっていたの?」


 「気づくの遅すぎだろ……管理人に聞いたら快く教えてくれたぞ」


 「鍵はどうしたの?」


 「ユカネを振ったら硬貨と一緒に出てきたからそれ使って開けたぞ」


 「なるほど……ん? いま私を振ったって言った?」


 「言ってない」


 「言った」


 「……肩に担いでたから丁度振りやすかったんだよ」


 「やっぱ言ってるじゃん。しかもそれ別に振りやすくはないんじゃ……待って、肩に担いで運んだの!?」


 「だってお姫様だっこされると恥ずかしいだろ? 俺にはそこまで勇気ないし」


 「それは……そう、かもだけど! 肩に担ぐのはどうかと思うよ!?」


 ユカネは腕を上下に振り抗議する。感情表現が激しい人だな。


 「でも良かったじゃないか、命があって。」


 どんな夢や使命を抱えようと、命の灯火が消えてしまえば意味が無い。俺も、異世界転生してから15年、命だけは失くならないように様々な対策をしてきた。


 この世界は、前世と比べてほんの少しでも希望があるから。


 「……まあ、肩に担ぐぐらい許してやりますか……」


 諦めたようにため息を吐く。しかし、口角が上がっており、どこか嬉しそうだった。


 「身体に異常は無いか?」


 「少し身体が動かしづらいけど、明日には治ってると思うよ」


 「そっか、じゃあ外も良い感じに暗くなってきたし、俺はそろそろお暇する」


 ベットに座っていた俺は立ち上がり、玄関の扉に向かう。


 「もう帰るの?」


 「これ以上居ても仕方無いからな……ユカネの仕事は安静にしておくこと、それだけだ」


 「ご飯ぐらい振る舞うよ?」


 「安静にしときなさい。あと、作るにしても2人分は手間だ、せめて1人分だ」


 「……じゃあ、1人分を2 人で」


 「ユカネ?」


 「……はーい」


 頬を膨らましているようだが、残念だが俺が折れることは無い。


 「そういうのはユーマ・グレーシアにやってくれ。俺は主人公になりそうなことはしたくない」


 「やっぱりシムノ君って変人だよね。よくわからないことに固執してるし」


 「むしろ褒め言葉だ」


 変人と呼ばれれば呼ばれるほど主人公というフラグから遠ざかる。そして、主人公はより一層輝き、物語の重要な存在になっていく……ああ、変人は実に素晴らしい。

 

 俺は心の中で満足したまたドアノブに手を掛ける。


 「……あっ、ちょっと待って」


 そのまま捻って自分の部屋に帰って寝よう、そう思った時に、背後から声を上げるユカネ。


 「どうした?」


 ドアノブを捻りかけたままユカネを見る。思い出したかのような表情をしているみたいだが、だとしても、何を思い出すというのか。


 「私の硬貨、ちゃんと私に返した?」


 「……」


 「シムノ君?」


 「…………いい、え」


 「返して」


 「はい」


 俺はポケットに手を入れ、ある物体をユカネに向かって軽く投げた。


 「全く、最初から余計なことせずに……ってこれ、あの不審者の財布じゃん!」


 ユカネが両手で受け取ったものを見れば、かつて俺が盗んだドロマルの財布が手中に収められていた。ちなみに意外と重かった。割と入っているのだろう。


 「生活の足しにしようとして盗んだものだが、よく考えたら特に欲しいものが思い浮かばなかったし、俺物欲無いからさ、ユカネが使った方が有意義だろ」


 これは事実だ。俺にはあまり物欲が無い。


 前世では主人公になるための必需品を揃えていたりして金が枯渇しがちだったが……今は、必要ないし。


 「……ありがと、大事に使わせていただくね。でも、ちょっと待ってね」


 そう言ったユカネは、ドロマルの財布のジッパーを開け、ひっくり返す。


 出てきた硬貨や紙幣は、ベットのシーツの上だからか、金属の鈍い音を立てることなく、静かに着地する。


 「これ、返すね」


 中身を全て出しきった後、俺に目掛けてドロマルの財布を投げてきた。


 「おっ」


 急に投げてきたため、一瞬受け止め損ねたかと思ったが、何とかギリギリ手中に収めた。


 「別に財布ぐらい貰っても良いんじゃ……」


 「いらない」


 ユカネははっきりと、そう言った。


 「それを見たら……多分、私は今すぐに()()を八つ裂きにしたくなる」


 小声で何かを言ったが、俺とユカネは少し離れたところに居るため、聞こえないと思ったのだろう。


 もちろん、俺はばっちり聞こえていた。


 ユカネの右目の瞳が、琥珀色から闇に染まる。


 かと思えば、すぐに元の琥珀色に戻し、笑顔で俺の方を見る。


 「じゃあね、シムノ君。今日はありがとね! またどこかでお礼させて!」


 「……うん、お大事にな」


 そう言って、今度こそドアノブを捻り、ドアを開け、寮の共用廊下に出る。


 振り返ってドアを閉めようとしたとき、ユカネが笑顔で軽く手を振っていた。


 俺も軽く手を振り、ドアを閉めた。


 「……」


 脳裏に浮かぶは、闇の瞳になりかけたユカネ。


 闇夜を照らす月を背にして、俺は呟いた。


 「やっぱり、素質がある」


 俺が呟いたことは、誰の耳に入ることなく、風に乗って消えていった。


第一章完結しました。


見つけて下さりありがとうございます。


面白い、続きが気になると思ってくれた方は、下にある☆を染めたり、ブックマーク、感想を頂けると『嬉しい!』気持ちになるので、是非よろしくお願いします!

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