11.皆が知ってるあの必殺技
突き刺さった矢印を躊躇せず引き抜く。
「……太刀なんかよりもよっぽど鋭利じゃないか、これ。なんであの時矢印を使わなかったんだ?」
そして、再びドロマルに向けて投擲する。
「ぐあっ!?」
今度は右脚に突き刺さる。ドロマルはもう、満足に脚を動かすことが出来ない。目の前に存在する男の方が負傷しているはずなのに、平然とした顔で矢印を雑草如く引き抜いている始末。
「というか、この世界に太刀っていう概念存在したんだな……レイソン・アープンのバズーカといい、どうなってるんだこの世界は」
シムノは頭に刺さっている最後の矢印を引き抜く。
「まあ、主人公が居るならそんなことはどうでも良いけど、なっ!」
最後に投擲した矢印は、空中を舞い、まるでブーメランのような軌跡を描いて飛んでいく。そして、ドロマルの左脚を確実に捉え、深々と突き刺さる矢印。
「ぐがああっ! やろう、こんなことして、ただで済むと思うなよ……!」
四肢に矢印が突き刺さったまま、ユラユラと立ち上がる。
「自分のアルティメットにやられる気持ちって、どんな気持ち?」
「っはぁ、粉々にしてやりたい気分だ……!」
ドロマルの身体は既に満身創痍だった。
かろうじて戦うという意思こそあれど、四肢の機能のほとんどを奪われた身体では、F-の男にすら適わないだろう。
しかし、あくまで身体の機能がほとんど奪われただけであって、決して動けないほどでは無いということは、ドロマル本人が一番理解していた。
────隙を付いて、戦線離脱する!
ドロマルはそう決意し、逃げ出すタイミングを見計らうことにした。
「そうか、粉々にしたいのか。解るぞ、俺がお前と同じ状況だったら、細切れにしてやりたい気分になるだろうしな。そもそも昔の俺は……」
一人で勝手に喋り出したシムノ。これをドロマルは好機と捉え、逃げ出す準備をし始めた。
「脚に力を入れろ……最後の力を振り絞れ……」
全身を巡っているアルカナを脚に集中させる。
シムノはさっきから何かを語っており、こちらには気付いていない状況のようだ。
「あと少し……よし」
脚にアルカナを集めた事で、地面を蹴り出せばすぐに離脱できるようになった。
シムノの方を見る。
あの憎々しい顔……覚えたぞ。次合った時は絶対に惨殺にぶち殺して、その首をアルクレナ学園のてっぺんにぶっ刺してやる……!
「ははっ、じゃあな何かを永遠に喋っているおバカさん! 次会った時は問答無用で殺すから、家で怯えて待ってやがれ!」
そうして、ドロマルは地面を蹴り出した。
────蹴り出したかった。
「────そういえば、お前は主人公についてどう思っているんだ?」
シムノがドロマルに疑問投げた瞬間、場の空気が急激に変わった。
逃げ出そうとするも、身体は全く動かない。まるで、シムノの言葉が目に見えない鎖となって、ドロマルの脚をその場に縛りつけているかのようだった。
ドロマルはその不気味な存在に、逃げるという選択肢さえ奪われていた。
「……はっ?」
逃げれない、逃がさない、逃げるな。
何も言っていないのに、そう言われている気がして、脚が震え出す。
恐怖は感じていない。ただ、それとは別の類のナニかがそこにあった。
「……ああ、その通りだ。主人公というのは、努力、勇気、絶対に曲げない強い意志、これらを持つものにふさわしい人物といわれている存在だ。おそらく、誰もが一度は憧れを持ったことがあるはずだ」
「い、や、何も言ってな……」
「だが、現実にはどうだ? そんなことをしたところで、周りからは痛い目で見られ、冷やかしに来る連中ばかり。どれだけ本気になろうと、誰も完全に認めてくれやしない」
それは、シムノが前世で主人公に本気でなろうとしたゆえ、たどり着いた末路。
最後にはそんな世界に絶望してしまい、自ら命を絶ったことは、シムノ本人以外知るよしもない。
「だから俺は、主人公を止めた……そして、結果的にそれは正解だった……!」
シムノの顔が綻びる。頬が、赤く染まる。
「ユーマ・グレーシア……あれこそが、俺が目指した究極の主人公! オーラ、仕草、身体、表情、戦闘力! どこをとっても主人公の素質がある!」
「……こい、つ、なにを言っているんだ……?」
ドロマルはこの瞬間、未知の恐怖を肌で感じ取っていた。
「俺はこれから、俺が主人公にならないためにも、ユーマ・グレーシアという主人公を必ず死守してみせる。この世界に二人以上の主人公は必要ない、ユーマ・グレーシアだけしかなりえないんだ……!」
シムノは腕を広げ、空を見上げる。
そして、これからこの世界を去るであろう男に向けて、自分の想いを宣言した。
「主人公になりそうな行動はしない、俺はこれから、それを模索しながら生きていくことになる。だが、それが苦痛になることはない!」
ビシッとドロマルに指を差す。
ドロマルは、何の反応も示さない。ただ、目の前の光景に理解が追い付かず、逃げることすら忘れ、ただただ放心していた。
「……これが、まず始めの試みだ……主人公は、永遠と自分語りをしない」
シムノにとって、ここからが、主人公を軸とした物語が展開されることに期待していた。
「次に……」
近くにあったゴミ箱を漁り、何かを取り出した。
その何かを見たドロマルは、放心していた精神を引き戻し、悲痛な叫びをシムノにぶつけた。
「お、お前!? それはユーマ・グレーシアの 『エクスカリバー』じゃねえか!?」
それは、主人公のみ持つことが許される伝説の剣。それを何故か、シムノはゴミ箱から取り出していた。
「────主人公は、他人の武器を盗んで、敵に向けたりはしない」
両手で柄をしっかりと握りしめ、エクスカリバーの切っ先を天に向けた。刀身にはアルカナが貯まっていく。周囲の空気がピリピリと張り詰めていく。
「────逃げ、ぐぅ!」
ドロマルは地面を蹴りだし、この場から離脱しようとしたが、血の流し過ぎにより、既に脚には力が残されていなかった。
「お前には感謝しているよ、こんな気持ちをぶつけれたのは、お前が初めてだ」
シムノはドロマルに笑顔を向けて、感謝の言葉を述べる。
それとは対照的に、ドロマルは焦りに焦っていた。
「何故だ……何故だ!? その剣は相応の力を有していないと使えないはず……まずい、サイフ────」
『エクスカリバー』
シムノの声が響き渡ると同時に、アルカナが一気に解放される。
刃を振り下ろすと、エクスカリバーの切っ先から放たれた光線が轟音と共に、ドロマルに向かって走った。
「────ガッ」
放たれた純白の光はドロマルを一瞬で飲み込み、その存在をかき消した。さらには、その破壊力が周囲の建物にまで及び、建物ごと光の中に消えていった。
ドロマル・ガンチョは、『ガッ』という言葉を最期にしてその生涯を終えた。
◇
瞬く間にすべてが終わり、周囲には静寂が訪れる。そこに佇んでいるのは、シムノ・アンチ、ただ一人。
とはいえ、これだけの騒ぎを起こせば、自ずと人は集まっていく。少し遠くに視線をやると、離れたところで人が集まっていた。
「何ださっきの光は!?」
「おい! 建物がめちゃくちゃだぞ!」
「私、生きてる?……ふええぇ」
「生きてて良かったなあ……グスっ……」
シムノからかなり距離があるので、誰もシムノの事には気付いていない。急に光が現れたと思ったら、建物が破壊されていたという認識しか無いのだろう。
そんな光景をよそに、シムノ本人は満足した表情を浮かべながら両手を腰に当て、小さく頷いた後、こう言った。
「人のエクスカリバーで倒す敵は気持ち良いな!」




